VOL.5

 しかし、奴よりも俺の方が早かった。

 俺は銃口を奴の額に突き付けて、

『さぁ、どうする?』この距離なら絶対に外さないぜ?』

 デブ男はびびったのか、拳銃を手から落としてへたり込んだ。

 思った通りだな。

 オート.32と思ったが、粗悪なコピー拳銃だ。

 近頃はこんなのが出回っていて、ほんと困ったもんだ。

『指を吹っ飛ばさなくてよかったな』

 俺はそういうと、拳銃を拾い上げ、口笛を吹きながらその場を去り、店に戻った。

 ドアを開けると、四つの目玉が驚いたように俺を出迎えた。

 バーテン君はぽかんと口を開け、幽霊を見るような目つき。

『ルナちゃん』はほっとしたような、驚いたような、そんな感情がないまぜになっているようだった。

 俺はカウンターの上に例のニセオート.32を放り出してから、探偵免許を見せた。

『3人は裏でのびてるぜ。警察を呼ぶなら呼びな。もっとも君らの悪業が知れたらどうなるか分からんが、ああ、くれぐれも弾丸(タマ)は抜いてあるから』

 俺は五千円札を引っ張り出した。

『ごちそうさん』

 そう言って、ルナちゃんにウィンクをして、コートを着るように促す。

 彼女は黙ってコートを着た。

 黙って俺は彼女の肩を抱き、店の外に出た。



 外はさっきより雪が強くなったみたいだ。

 この分で行くと、3日後には間違いなく『ホワイトクリスマス』と相成るだろう。

 暫く歩いていくと、自動販売機があった。俺は『ホットコーヒーでいいよな』と彼女にいい、勝手に二本買って、一本を彼女に渡す。

『あの・・・・』

 近くの児童公園の藤棚の下のベンチに腰かけて、コーヒーを飲み始めると、おずおずといった体で彼女が口を切った。

『私を警察に連れてゆくんですか?』

『どうして?そんな事をしても俺には一文にもなりゃしない。俺は君の行方を突き止めること、それが依頼内容だ。さっきの一件は、いわば成り行きでそうなっただけだ。ま、おまけだな』

 彼女はコーヒーの缶を手で包むようにしてゆっくりと啜り、ぽつりぽつりと語り始めた。

『私、お父さんと二人暮らしなんです。お母さんが小さい時に死んでから、男手一つで私の事を育ててくれました。もうじきクリスマスでしょ?何かプレゼントをと思って・・・・お父さん、一個だけ持っていた腕時計が最近壊れちゃって、調子が悪いっていうから、新しいのを買ってあげようと思ったんです。でも、いいのは随分高いし、私のお小遣いやバイトじゃ、そんなに稼げないし、そんな時、友達の彼氏が「いい働き口があるからって誘われて』

『それがあそこだという訳かい?』

 彼女はこくりと頷いた。

『始めは普通にお客さんの隣に座ってお酒の相手をするだけだったんですけど、そのうち「もっとお金が欲しければ」という話になって』

 なるほど、古典的だが良くある奴だ。

『あんなことをしたのは今日が初めてかね?』

 彼女は黙って頷き、またコーヒーを一口飲んだ。

 息が白く凍った。





 

 

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