第13話.父さん

ご飯を食べ終え、洗いものをしていると珍しく父さんが帰宅してきた。


「ただいま」


疲れた顔で居間に腰かける。父さんももう40代後半だ。立派なアラフィフのおっさんが毎日毎日重たい荷物を運んでいるのだ。僕なんて今日ゴミを出しただけで腕が千切れるかと思ったのに、本当に尊敬する。


「おかえり、早かったね」


滅多に親子で話すことはないのでたまには自分から話題を振ってみる。


「今日は集荷が少なくて助かったよー」


父さんはいつも家族の前ではおちゃらけた声で話す。体ももうボロボロのはずなのにしんどそうにしているところを見たことがない。本当に強い人だと思う。僕は父さんのように強くなれる自信はない。


「お、今日はみづきの手料理か!?」


いつの間に台所まで来たのか、鍋の中をみながら嬉しそうに言う。ちなみにみづきは姉ちゃんの名前だ。


「いや、それ母さんの作り置き」

「なんだそうか」


一気にテンションが下がって肩をすぼめる。この姿を母さんが見たらどう思うだろうか。少なくとも喜びはしないだろう。


「汗かいてるでしょ、先に風呂に入ったら?」


僕が言うと「そうだなぁ」と言ってそそくさと一番風呂へと入っていった。お風呂に入る準備をしていた姉ちゃんが視界の隅で明らかに嫌そうな顔をしているのが見えたので少し吹き出しそうになった。


「父さん、姉ちゃんの手料理が食べたかったんだって」


父さんにお風呂を提案したのは僕だし、機嫌を直すのは僕の仕事かなと思い、機嫌が良くなりそうなことを言ってみる。


「ふーん、でもお父さんいつもは何時に帰ってくるか分からないじゃない」


テレビを見ながら少し寂しそうに言う姿を見て、なんだかとても申し訳なくなった。美味しく作れるようになった料理を父さんや母さんに食べてほしいんだろうなと考えると、胸がキュッとなった。


洗いものが終わったので姉ちゃんと同じソファに腰かけ、いつもは見ないテレビを見る。うーん、見慣れてないせいかミュージカルはイマイチ分からない。なんでこんなものを見て面白いと思えるんだ。


「いやー、良いお湯だった。一番風呂いただきました」


間もなくして父さんが上がってきた。待ってましたと言わんばかりに姉ちゃんが風呂場へ直行する。居間には僕と父さんだけが残された。

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