第14話.父さん②

取り残されたと言っても、当然ながら家族なので気まずさなんて微塵も感じない。そもそも僕は別に無言の時間でも平気なので面白くないテレビをなんとなく見続ける。しかし父さんはそんなことないようで、あからさまにソワソワし始めた。


「幸一、高校どうだ? 面白いか?」


空気に耐えれなかったのか、はたまた子供が心配なのかそんな質問を投げかけてきた。


「まあ、面白くない」


正直に言った。そもそも学校を面白いと思ったことはない。行かないといけないし、裕介が毎朝迎えに来るから仕方なく行ってやってる。


「ははは、相変わらずだな。友達はできたか? 彼女は?」


ものすごい親バカを発揮してくる父さんに少し笑いが漏れそうになった。僕はそんなに心配だろうか。友達なんていらないし彼女なんてもってのほかだ。


「裕介がいるから大丈夫だよ」 しかし心配はかけないようにしておこう。こういう時、あいつの存在がありがたいと思う。


「そういえば、3号棟に新しい人、入ったみたいだよ」


自分のことばかりを聞かれるのがなんともむず痒くて話題を逸らそうと試みる。


「お、そうなのか、名前は? 歳はいくつくらいだ?」


試みは成功したみたいで、父さんの興味はそっちに移った。市営住宅の仲間が増えるみたいに考えてるのか、嬉しそうにも見える。


「サワダサンだって、挨拶に来たらしいけど姉ちゃんが出たから歳はわかんない」

「そうかそうか、サワダサン? この辺じゃあまり聞かないな」


その後も父さんは「夏休みはいつからだ?」 や「電気代払ってくれたか?」 なんて、おおよそ僕にはどうでもいいような質問をいくつか繰り返した。いや、電気代は流石にどうでもよくはないけど。色々話してるうちに姉ちゃんがお風呂から上がってきた。


冷凍庫からアイスを取り出し、口に咥えながらドライヤーで髪を乾かしている。ゴーッとドライヤーのうるさい音が僕と父さんの会話を遮った。


「いつかサワダサンのところに挨拶に行かないとな」 と父さんが言ったのとほぼ同時に姉ちゃんが口を開いた。


「そういえば、幸一が新しい女の子と仲良いみたい」


父さんがニヤニヤしながら僕の方を見る。別に数回話しただけで仲が良いわけじゃないのになんでそんなことを言うんだと、少しイラッとしながら姉ちゃんを見ると、こちらもまたニヤニヤしながら僕の方を見ていた。


あー面倒くさいな、とりあえず誤解だけでも解いておくか・・・・。


「別に、仲良くないよ、なんかいろいろ聞かれただけ」


一転、今度は父さんの表情が曇った。「聞かれた?なにを?」 うちの家庭の事情などを聞かれたと思ったのだろうか? だとしたらその誤解も解いておかないとな。


「高校とか、担任とか、あと豆板醤の場所とか」


豆板醤、と言った時の父さんの顔といったらおかしくて吹き出しそうだった。しばらく「んー」 と考えたのち、考えても分からないと思ったのかスッと表情が戻った。


「それより幸一もまだ子供だと思ってたのに、すっかり高校生だなぁ」

「まあ、実際高校生だし」

「いやいや、知らない人が高校生かどうかじゃなくて高校はどこか聞いてくるなんて、その時期になかなかないぞ? それだけ大人びて見えたってことだろう」


父さんは感慨深そうに1人で頷いている。確かに、僕もそれだけ成長したということか。素直に喜んでおこう。


「じゃあお風呂入ってくるから」

「おう、いってらっしゃい」

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