第12話.違和感

帰り道、僕は一つの違和感を覚えた。連禱高校と答えたときの空気の変わり方、その後の質問「担任は誰ですか?」


普通聞くなら「何年生ですか?」 とかじゃないのか? 先生の名前なんて連禱高校の生徒かその人の個人的な知り合いじゃないと分からないだろう。


それに、香山先生と答えた後の沈黙。


あれは単に次に聞くことがなくなったからだろうか? それとも香山先生を知っていたのだろうか? なんとも謎が多い人だ。


でもこの市営住宅から連禱高校に通っている生徒は僕以外にいないし、多分個人的な知り合いとかだろうと勝手に解釈した。


「遅い、冷めちゃうでしょ」


家に帰ると姉ちゃんからまた小言を言われた。食卓を見ると僕の分の白米と煮付けが綺麗に残っていて、姉ちゃんはあと一口で食べ終わるくらいまで食べ進めていた。


「ごめん、またあの女の子と会ったから」


さっきあった出来事を話すと姉ちゃんはまた興味深そうに聞いてくれた。最後の一口を頬張ると同じ違和感を抱いたらしく「なんで担任?」 と言ってきた。


「知らない、誰か先生に知り合いでもいたんじゃない?」


適当に返し「いただきます」 と煮付けを頬張る。姉ちゃんは「そうかもね」 とそれ以上は興味が失せたようで手を合わせて「ごちそうさまでした」 と言い自分の食器を台所のシンクに持って行った。


「じゃあ幸一、洗いものはよろしく!」

「え、今日は姉ちゃん作ってないじゃん」

「温めたもーん」


電子レンジを使っただけのくせになにを偉そうに・・・・。こっちは重いゴミを捨ててきたんだぞ。


「じゃあ風呂入れといてよ」


「えー」 と嫌そうにしているが座っていたソファから立ち上がって風呂場の方に入っていった。今日はこれでおあいこということにしておこう。


鶏肉と人参の煮付けはあんまり美味しくなかった。というか日持ちするのかなんなのか分からないが母さんの作り置きは煮付け率が異常に高いのでもう食べ飽きてしまった。


風呂の準備をした姉ちゃんが居間に行き、なにかミュージカル調のアニメを見ている。ディズニーだろうか。僕にはイマイチ面白さがわからない。


「ディズニーって一曲歌い終わったらなんでか仲良くなってるよね」


率直な感想を姉ちゃんにも聞こえるようにわざと大きな声で言った。


「それが良いんじゃん、あんたもそのうち分かるよー」


多分僕と姉ちゃんではそういう感性がまったく違うので、分かる日は一生こないだろうなと思いつつ最後の一口を頬張る。


「ごちそうさまでした」

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