第14話 貧乳剣士と烈火の騎士5

「いやー、誠に申し訳ない。てっきり王子を狙う変態と勘違いしました、アッハッハ!」

「アタシのこと殺そうとしといてよくそんな陽気に振舞えるわねアンタ・・・」


二人が土下座をした後、懇切丁寧にお互いが敵ではないことを説明することで、ようやく戦いを収めることができた。

レッカは笑いながら謝り、ドクはなんだか納得のいっていない顔をしている。


「そもそも、アタシを見るや否や変質者扱いするってどういうことよ!」

「いや、そこについては正当な判断だったと思うよ・・・」


どうやら命の危機となったことよりも、即変態扱いされたことに腹を立てているらしい。

しかしこれについては完全に自業自得である。

少年の乳首を舐めようとして変質者扱いされないのであれば、それは世界の方が間違っているのだ。


「では改めて自己紹介を、私はレッカ・ロウ・リコンデルト、ウィルゲルス王国にて騎士団長を務めさせていただいています。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。」

先ほどまで荒々しく槍を振り回していた男とは思えないほど、丁寧なあいさつであった。

対するドクはジトッとした目でぶっきらぼうに返す。

「ご丁寧にどうも、アタシはドク・ポイズリー、呼び方は・・・ドクでいいわ」

ショタと話していた時とは打って変わったローテンションぶりにショタは少し驚く。

「はぁ・・・なんで私が15歳以上の爽やかイケメンに挨拶なんぞせにゃならんのか・・・はぁ・・・」

どうやら彼女の会話のテンションが喋る相手が15歳以上か以下かで決まるらしい。

レッカの見た目は決して劣っているわけはない、先ほどまで兜をかぶっていてよく見えなかったが、改めてみると男ですら二度見してしまうほどの美男子だ。

そんなイケメンを目の前にしてもこの態度、どうやら彼女の性癖は根の深いところまで埋まっているようだ。

「・・・」

ショタはなんとなくだが、この場によくない雰囲気が流れているを察知した。

若干15歳であるが王族として様々な場に出て大人たちの顔を見てきた彼だからわかる、ドクの不機嫌さ、そしてそれに気が付かないレッカ。

このままではテンションにギャップのある二人に挟まれて気をもむことになってしまう・・・そうならないよう対策せねば・・・

ショタは脳を必死でフル回転させ、どうにか場を盛り上げる会話を始める。

「いやーでもさっきの戦いどっちもすごかったなぁ!レッカの燃え盛るような槍捌き、対するドクのまるで踊っているかのような剣技・・・さすがあの通り名で通っていることだけのことはあるね!」

「あの通り名?」

レッカが興味を酔って聞き返えしたその瞬間、



「そーーよ!アタシ!巷では私、美!乳!剣士って呼ばれているみたいなの!いやーー美しいってのは罪よね!全くこんな通り名つけられるなんて困ったもんだわ!」



「噂に聞く微乳剣士とはあなたのことでしたか・・・なるほど、あの剣捌きといい噂通りのお人のようだ」

「おっ!なんだ話が分かるじゃない!」

(よかった、チョロい・・・)


想定通りに会話が流れて安心し、ほっとするショタ。

「じゃ、じゃあとりあえず一休みしようよ、二人ともさっきの戦いで疲れたでしょ?」

「そうですね、では休みながら状況の整理をしましょうか」

気まずい雰囲気が払拭され、ようやくまともに話すことができそうだったのでとあえず近くに岩に座って休憩をとることにした。

「ふー、結構疲れたわね」

「そうだね、追手が来るかもしれなかったからずっと動き続けていたし足ももうクタクタだよ・・・」

これまで緊張で何も感じていなかったが、レッカと合流できたことで安心したせいか、ショタは疲れで急に体が重くなったような気がした。

森の中を歩き続けていたせいか、額や首筋に汗が見える。

「・・・!」

そんなぐったりとして汗に濡れているショタを見てドクは何かひらめいたような顔をして、

「ショタ君?これで汗を拭いたらどう?」

これまでで一番の笑顔でハンカチを渡した。

「え?で、でも悪いよ・・・汚れちゃうし・・・」

「いいのよ!全然気にしないし!なんだったらワキとか拭いてもいいわよ!」

「い、いや・・・流石にそこまではしないよ・・・。まぁ・・・じゃあお言葉に甘えてちょっと使わせてもらおっかな」

ショタはドクから差し出されたハンカチを受け取り、顔と首の汗をぬぐう。

「イヨッシ!」

「?」

ハンカチを使った瞬間ガッツポーズを取ったドクを、ショタは不思議そうな目をして見ていた。

ショタの真っ白い綺麗な肌に、ドクの黒いハンカチが当てられる。

疲れのためか息遣いが荒れ、顔も若干赤くなっている。


(汗をかいてるショタ君・・・エッチだわ・・・)


ドクはその光景を鼻血を出しながら見つめていた。

汗を拭き終わったショタは丁寧にハンカチをたたみ直す。

「ふぅ・・・ありがとうドク、このハンカチは後で洗って返」

「ダメダメダメ!そのままでいいの!そのまま渡してもらえればいいわ!ね!?」

「え?でも汗拭いたし汚いよ?」

「汚くなんかないよおおおおおおおおおおおおおお!大丈夫!私そういうの気にしないから!ホントに!」

ドクの鬼気迫る勢いに、ショタは思わずたじろぐ。

「わ、わかったよ・・・あ、ありがとう・・・ね」

その気迫に負けハンカチを差し出すと、ドクはすさまじい勢いでそのハンカチを受け取り、それを血が出ている鼻に当てる。

(ああなるほど、鼻血を出してたから早くハンカチが欲しかったのか)

ドクも女性なのだ、さすがに鼻血を出しっぱなしにするのは嫌なのだろう、

ショタがそう思った次の瞬間


「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


ドクはすさまじい勢いでハンカチの匂いを嗅ぎ始めた。

これ以上吸うと肺が破裂するのではないか?そう思うほどめいいっぱい空気を吸い込む。

そしてゆっくり味わい尽くすかのように吐き出したのち、肌を高揚させ、恍惚とした表情で感想を述べる。


「15歳少年の汗のにおい・・・最・高!」


そんな彼女を見てレッカは笑顔で槍を構えこう言った。


「王子、やはりこの変態はここで始末しておくのが世のためでは?」


「・・・ごめん、ちょっと考えさせて・・・」

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