第13話 貧乳剣士と烈火の騎士4

予想外の反撃によってドクは一瞬反応が遅れてしまった。

さらにドクはレッカへ切りかかるため剣を下から上へ振り上げ始めているので、体勢的に先ほどと同じ躱し方はできない。

もししようとすれば躱しきれず、剣を持った腕を切り飛ばされる結果となる。

かと言って今更剣を振る以外の動作をとることはできない、ドクは攻撃を受けるよりも早くレッカを切らなければいけないのだ。

だが猛烈な勢いで右から迫る炎の槍がそれを許さない。


(確かにこの変態はとてつもなく速い、でも炎で加速させた瞬間的な速さであれば俺の方が上だ!)

レッカの見立て通り、ドクがそのままレッカを切ろうとすれば刃が届く前に、槍がドクを真っ二つにしていたであろう。


だが現実はそうはならなかった。


ドクは炎によって槍の軌道が変わった際、瞬時に自分の剣よりも早く槍が自分に当たることを予想した。

しかしドクは剣を振ることをやめなかった。

自滅覚悟のやけくそなどではない、勝利のため、


ドクは自身の右から迫りくる槍に向かって下から上へ左手に持った剣を振るった。


(コイツ、まさか私の槍を切るつもりか・・・?無駄なことを・・・この槍はそんな細い剣で切れるほどやわではない!)


確かにすさまじい勢いの槍を、ドクの持つ細身剣で切ることはできないだろう。

だがドクは槍を切るために剣を振るったのではなかった。

ドクは剣と槍を力任せにぶつけるのではなく、急激に剣速を緩めそっと刃を槍の柄の部分へ添わせ、


そしてそのまま流れるように剣を振るった。


するとキンッ、と軽い金属音と共に炎の槍は空を切った。


「何っ!?」


これにはレッカも驚きを隠せなかった。

それもそうである、必殺の一撃を防がれたのだ。

「クッ・・・ソッ」

しかしドクも全くの無事では済まなかった。

槍を受け流したはいいものの、あのスピードの槍に一瞬でも剣を合わせたのだ。

剣から体へその衝撃が伝わる。

衝撃と槍の風圧により体制が崩れかかったが、どうにかこらえて距離をとる。


(この変態・・・俺の槍を切るのではなく、槍の軌道を変えるために剣を振ってたのか!?)


ドクは力づくで槍を迎え撃つのではなく、力に逆らわずそっとその流れの方向を変えることで難を逃れていたのだ。

真っ向から槍の軌道を変えらるほどの力はドクにはない、だが槍の真横から力を流しその方向を変えることは彼女にも可能だ。

無論、そこいらの剣士ではこのような真似はできない。

迫りくる攻撃に冷静に対処する精神力、目にも止まらぬ速さの槍に対し的確に受け流すための斬撃を行える技術、そんな常人離れした能力を持ってこそこのような離れ業が可能となる。

受けるのではなく、受け流す。

圧倒的に非力で細い彼女が、強者と渡り合うために磨いた戦術であった。


(うっひぃぃ・・・今のはちょっと危なかった・・・)


傍から見ると今の一連の攻防を平然と行っていたように見えたが、その実、ドクはこの男に殺されるのではないかとハラハラしていた。

そもそも、命のかかったやり取りをハラハラした程度で消化できるのが普通ではないのだが。

ドクはそんな内面を一切表情に出さず、あくまで冷静でいるように見せかけている。


(言霊の力を使って炎を槍から出しているのもすごいけど・・・何よりあの速度の槍をああも自由自在に操れるって・・・どんな筋力してんのよ。見た目はイケメンの優男って感じだけどありゃガチガチに鍛えているわね・・・)


両者とも一度距離をとり、武器を構えたまま動かない。

お互いの力量を把握したことでうかつに踏み込めないのだ。

無策で突っ込めばたちまち返り討ちに遭う、そうならないために頭の中で何度もシミュレーションを行う。


(このムキムキ優男の槍は直接手に触れてなくとも操れるみたいね・・・でも私の武器の射程距離外から一方的に攻めることができるはずなのに、それをしてこないってことは、直接手に持った状態のでないと私を倒せないと判断したから。おそらく手放しの操作はそんなに精度がよくないのね・・・速度はあるといっても反応できないほどじゃない、そういう攻撃があることを念頭に置いておけばいい程度ね)

(この変態のスピード・・・今まで戦ってきた剣士の中で一番速い、だがそれだけじゃあない・・・挙動が常に滑らかなんだ。走っている最中曲がるときも、走りながら攻撃するときも一切スピードが落ちない、すべての行動が繋がっているかのように自然に動いている。そのせいか向こうの動きがつかみづらい、しかもこっちの攻撃はすべて受け流される・・・これは思っていた以上の難敵だ)


「ね、ねぇちょっと?二人とも?お願いだからこれくらいにして僕の話を聞いて?ね?」

先ほどまでの高レベルな戦いに一切ついてこれないショタは困惑しつつも、なんとかこの戦いを止めようとしていた。

しかし、完全に戦闘モードとなってしまった二人の耳にはその声は一切届かない。

かといって近づこうにも、戦う力のないショタが無暗に戦場に足を踏み入れてしまえば命の保証はない。

そんなこんなで悩んでいるうちも、当の二人は決着をつけるべく思考を巡らせる。


(向こうは私の攻撃を防ぐので手一杯のはず・・・さっきと同じようにスピードでかき乱してカウンターを誘い込んで一気に切りつけるのがいいわね、でもさっきはそれでやられかけたし、それにさっきの戦いで呪毒を使いすぎちゃった・・・これ以上戦い続けるのは体力的にもちょっと嫌ね・・・よし!)

(こちらから無暗に攻撃しても受け流されてスキを作るだけ、さっきと同じように防御しつつカウンターを狙うのが一番勝ち目がある・・・だがそれやってさっきは躱された、それに長期戦になれば有利なのは攻め続けられる向こう・・・ならば!)


((次の一撃で決着をつける!))


過程は違えどお互いに同じ結論にたどり着いた二人、じりじりと間合いを詰め、必殺の一撃を相手へ叩き込むタイミングを計る。

チリチリとした緊張感がその場に広がる。

戦ったことのないショタにもそれは伝わった、次の一撃で決着がつくのだと。

だがそれは決して望む結末ではない。

「ちょ、ちょっと待ってって!二人とも!?」

ショタの声を全く意に介さず、気を高める二人、


そして一陣の風が吹き、ドクとレッカが攻撃動作に移る瞬間


静寂を打ち壊す声が響いた。



「もう!いい加減にしないと二人のこと嫌いになっちゃうよ!!」



ショタが精いっぱい叫ぶとともに、当の二人は



「「嫌いにならないでくださああああああああああああああああああい!!」」



一瞬で土下座をしていた。

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