第12話 貧乳剣士と烈火の騎士3

「己の性欲のため子供に手を出すなんて・・・許せない!」


男は険しい顔でドクをにらみつける。

赤々とした髪に、輝くような金の瞳、そして何よりも目を引いたのはその整った顔立ちだった。

町を歩くだけですれ違った女性が全員振り返ってしまいそうなほどの美男子で、しかも背丈が普通の男よりも高い(180センチ)。

年齢は二十歳前後だろうか、全身に動きを制限しない程度の鎧を付けている。

(ふむ・・・装備を見た感じだと・・・なかなか身分は良さそう・・・)

装備は余計な装飾のされていないシンプルなものだったが、見た感じの質感から何となく品質の高い鎧だということがわかる。

(さっきの兵士たちとは別格って感じがするわね・・・全く隙が無い)

男が静かに手を前に突き出した瞬間、

「ッ!」

ドクの背後、空中で制止していた燃える槍が再び動き出した。

ドクは視界の端で槍が動き出す瞬間を捉え、とっさに身をひるがえす。

すると先ほどまでドクの細い体が合った場所を、燃え盛る槍がすさまじい速さで通過し、一直線に男のもとへと飛んで行った。

レッカと名乗った青年は全くたじろぎもせず、真正面から槍をつかむ。

そのまま槍をくるっと回転させ持ち直し、片手で炎を纏う槍を構える。

「完全に視界の外から放った一撃を躱し、今の後ろからの攻撃にも反応する・・・なるほど、手練れの変態ということか・・・」

「変態は余計よ!」

「いや、ぴったりだよ・・・」

助けが来たことで平静を取り戻したのか、ショタは冷静にツッコむ。

だがすぐにショタは冷静さを失うこととなる。

(何・・・?この緊張感・・・?)

ドクとレッカ、両者とも軽口をたたき合うが油断した様子はない。

少しの動きも見逃さないよう相手から少しも目線を外さずじっと見つめている。

素人であるショタでも、ここでうかつな動きをすれば勝負かつくことがわかった。

思わず戦いの雰囲気にのまれてしまったショタだが、ハッと自分が今しなければいけないことに気づく。

「ちょ、ちょっと待って!二人が争う理由はな」

「今すぐその変態から離れてください王子!」

二人の争いを止めようとしたショタの言葉を、レッカは大声でかき消した。

レッカはじっと槍を構えたまま叫び続ける。

「何、心配ありません!そこのもやしみたいな不健康なガリガリ野郎が何かしようとした瞬間、私の『烈槍』がそいつを消し飛ばします!」

「いやだから待って」

「誰が白百合みたいなで儚げなスレンダー美人だ!?」

「誰も言ってないよそんなこと!?」

その細い体のどこからこんな大声を出しているのだろうか、ドクも負けじと森中に響くほどの大声で言い返す。

この言葉に対し、レッカは一瞬ポカンとした顔をする。

「何・・・?貴様・・・女だったのか!?」

「どこからどう見てもミステリアスで美しいボディラインのお姉さんでしょうが!」

腰に収めた剣から手を放さず、ドクはイラついた表情で言い返す。

レッカはすぐにハッと顔を真面目な表情に戻し、若干申し訳なさそうに言葉を返した。


「身長の割にオッパイが小さすぎるので男と勘違いしていた!すまない!」

「よし!ぶっ殺す!!」


次の瞬間、ドクはすさまじいスピードでレッカのもとへと走り出した。

「え!?ちょっと!?」

先ほどの戦いで見せた、まさしく風のごとき速さだ。

ショタが唖然としている間に、ドクはレッカとの間にあった20メートルほどの距離を一瞬で詰め寄った。

その速さにレッカも驚いた表情を見せる。

ドクが剣を鞘から引き抜き、そのまま切りかかるその瞬間、

「フゥッ!」

レッカは左手に持った槍をとっさに自分の体の前へ突き出し、ドクの剣撃を防いだ。

「・・・へぇ」

軽々と攻撃を防がれたことにドクは少し驚く。

(完全に不意を突いたとおもったんだけどね・・・なるほど、こりゃやるね)

だが驚いたのはレッカも同じだった。

(なんという早さ・・・油断していたら一撃でやられていたな)

一回の切り合いでお互いの力量を把握する二人。

そして、次の瞬間にはさらなる攻防が始まっていた。


キンキンッキィンキンキィンキン!


連続で金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

ドクが雷光のような剣速で次々と切りかかり、レッカはそれを冷静に槍で受け続けているのだ。

「えっ?えっ?」

ショタからは何が起きているのか全く分からなかった。

なぜならドクは一か所にとどまり続けず、恐ろしい速さで移動しながら切りつけ続けているからだ。

まさしく目にも止まらぬ速さ、とても人間とは思えぬ動きである。

だが、それを受け続けるレッカも人間離れしていた。

瞬きをする一瞬に何度も切りつけるドクの剣を、一切の狂いなく正確に槍で受け続けているのだ。

死角からも襲いかかる攻撃に対しても、その手に持った燃える槍を巧みに使い防ぎきる。


(すごいわね・・・こっちの動きを正確に見極めているわ・・・さっきからフェイントも仕掛けてるけど全然引っかからないし・・・)

(なんとか防げているが、このままでは防戦一方だな・・・)


お互いに決め手のないまま攻めあぐねる時間が続く。

一方、この状況を収めようとショタは懸命に叫ぶが、

「二人とも止まってってば!」

完全に戦闘モードに入ってしまった二人にはその声は届かない。


(このままでは埒が明かない・・・少々危険だが仕掛けるか)

この状況を先に切り開いたのはレッカだった。

「ハァツ!」

「ッ!」

ドクの動きを予想し、切りかかってきたタイミングに合わせて右から左へ横に大きく槍を振り払う。

やせ細ったドクがこの攻撃を受けてしまえば、間違いなく致命傷となる。

動きを読んだ上の突然の大振りの攻撃、並みの戦士であればこの時点で勝負は決していただろう。


だがレッカが相対していたのは、並みの戦士などではなかった。


槍が体の真横に迫ったその瞬間、ドクは大きく体をのけ反らせ、地面と槍のわずかな隙間に体を滑り込ませた。


普通では考えられない回避方法、一歩間違えれば体が真っ二つになっていただろう。

それをやってのけるのがこの剣士、ドク・ポイズリーなのだ。

ドクは瞬時に体制を立て直し、レッカへ向かう。

それを見てレッカは


ニッ、と笑った。


その笑顔を見た瞬間、ドクの体からドッと汗が吹き出る。

そして、視界の端で見たくないものを捉えてしまった。

恐ろしい速さで振り抜いた槍から、恐ろしいほど莫大な炎が吹き出ていたのだ。

次の瞬間に何が起こるのか、すぐにわかった。

「ヤバッ!」

「もう遅いッ!」

その炎に押されるように、槍は先ほど以上の速度で振り抜いた軌跡を再び辿り、ドクの体へと襲いかかったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る