(3-9)魔王VS魔王

魔王大戦とは。

簡潔に言うならば陣取り合戦だろうと、勝利は思う。

誰が決めたかはわからないが、魂に刻まれたかのように明確なルールが頭の中にある以上、直感は正しいのだろうと勝利は結論付ける。

魔王大戦についてわかったことは以下の通り。

・魔王は自身の領土を広げることが可能。

・魔王は他の魔王を排除することで領土を奪うことが可能。

・唯一の魔王となった時点で魔王大戦が終了、領土が固定される。

・得た領土に侵入した生命体から微量の生命力を徴収することが可能。

・魔王は勇者に対した時のみ身体能力などが上昇するが、勇者からの直接または間接的な攻撃が通りやすくなる。

・魔王大戦勝利者は下層階に進む扉を入手する。

以上、このようなルールが定まっているために、今回の襲撃に繋がったのだと思われる。つまり他の魔王の排除だ。

だが実際のところ、明確なルールとは言えない部分もあり―――その最たるものは排除―――抜け穴を突いてくるやつは絶対にいるだろうとは思われる。


「あいつ、絶対魔王の資格持ってそうだよなぁ。」


「だれのことでしょう?」


ぼやいた言葉に小鳥遊がすぐに反応してくる。


「あーいや、ちょっとした知り合い、というか人物が思い当ってな、気にしないでくれ。……それよりも小鳥遊、俺はお前とは、その、戦いたくない。」


「え、私勝利さんと敵対するつもりはこれっぽっちもないです。」


「そうじゃなくてな、一緒には、戦えないって話だ。さっきは勢い余って共闘ムードになっちまったが、いくら強いと言ってもいきなり一緒に戦闘とはいかないだろう。俺は小鳥遊に、その、気が付かされたこともあって改めて友人達に共闘をお願いするつもりだが、そこに君を連れて行くわけにもいかないんだ。俺はともかく信頼のおけないやつとは君も俺の友人達も戦いづらい……ってそんな顔しないでくれ。」


気を使って―――というより勝利は守った人を再び危険な目に合わせたくないという気持ちが強い―――断りの言葉を述べていたが、途中で涙を流す寸前のようなくしゃくしゃの表情をされては言葉に詰まる。


「そ、そ、そうです、よね。ひぐっ、わたじ、あじでまといでずよね。」


涙が混じって濁音が混じる言葉を聞いて、勝利はそんなにも一緒に戦いたかったのかと悟る。悟ったが、では一緒に戦いましょうとはならないのだから勝利にはお手上げだった。


「主よ、今は一旦保留ということにして、配下を揃えるという名目で時間を稼ぐというのはどうでしょう。」


背後から業鬼丸が勝利に助言をする。勝利もそうすべきかと納得し、柔らかい言葉をふんだんに使ってそう伝えた。


「はい!ではこれが私の連絡先ですので出陣する際はご一報をお願いします!私は一旦基地に返って機体の整備とアップグレードを済ませてきます!では!」


泣き顔から一転、晴れやかな笑みで盛大に勘違いしたまま飛び乗るように機械の鎧の中に納まる少女。勝利が言葉を発するよりも早くその場を逃れていく。これはしてやられたと勝利は思った。なにせ小鳥遊真理亜は勝利の言葉をしっかりと理解しつつ、出来得る限りの曲解を持っ自分に都合がいい話にして見せたのだ。それを悟った勝利の顔は、下手をすると階層主と戦い終わって倒れたときの顔よりやつれているかもしれない。


◇◆◇◆


とある施設では、床に転がる女性をひたすら蹴りつけるという光景が広がっていた。


「ふざけるな!私が!丹精込めて作り上げたスーツが!凡人が趣味で作ったがらくたに負けるわけがないだろうが!貴様らが!無能な!だけだ!!!」


何度も何度も打ち付けられる足。女性はすでに壁際まで転がされ、壁と蹴りに挟まれ完全に身動きが出来ない。否、そもそも身動きなどできなかった。


レベルの低い人間に、生身で魔王の蹴りを受けられるわけがない。


すでに四肢は原型をとどめないほどぐちゃぐちゃで、頭部は長くでさらさらとした髪が女性だろうと辛うじて判断できるのみ。顔面の状態はより一層ひどく、赤い肉とそれらに埋もれて微かに見える白い骨が、既に事切れていることを見た者に理解させる。暴虐の限りを尽くすその男を止めるものは、誰もいない。


床に散らばる数十の遺体が女性のもので30になったところで、ようやく魔王は落ち着いた。髪をかき上げ、流れる緑の長髪をくるくると指で弄る。異様なまでに丹精な顔は、先ほどまでの暴力を微塵も感じさせないほどさっぱりとしていた。


「ふう、軽い運動はやはりいい、気分が落ち着く。さて仕事に戻るか。」


ゆったりとした足取りで部屋を出る魔王。靴にべっとりついた血が足跡となって魔王の後に続く。だがそのあとすぐに床をはいずる何かが綺麗にふき取り、床は元の清潔な状態へとなっていた。もちろん、部屋の死体は一つもなくなっていた。


そうして歩くこと数十秒。建物の外に出た魔王は、鬱蒼と生い茂る森へと足を進め、清涼感とは程遠いねっとりとした空気を胸いっぱいに吸い込み深呼吸を繰り返した。


「さて、今宵も森を広げて、世界を要請の楽園へと作り変えるとしよう。。」


短くそう命令するだけで、森がざわついた。沢山の命を喰らったおかげで今日の森はすこぶる機嫌がいいらしい。いつにもまして、その殺意を昂らせていた。


【妖精楽園タイタニア】にて、オベロンは不敵に笑う。


◇◆◇◆


勝利は友人達に集まってもらえないかと呼びかけた。集合場所は管理局から借りた会議室。理由も教えていないのに、続々と集まる友人達を見て、自分はうわべだけの信用しか持たなかったことを、今更ながらに後悔した。結局頼れるのは自分だけだと、どうして勘違いしていたのだろうか。表面上には決して出してこなかったが、これからはきっちりと信頼していこうと決意する。


――――――ここから

集まった人を選別する→小説を読み返して登場人物だけまとめとくといいかもしれない。

ここまで――――――


「集まってもらってありがとうございます。今回はお願いがあって声を掛けました。」


いつになく改まった表情の勝利。その瞳に宿る熱量に、集まった者全員がごくりと喉を鳴らす。


「魔王大戦の詳細がわかりました。そして、魔王に挑むために協力をお願いします。」


短く、端的に願いを述べる。勝利の内心は不安でいっぱいだった。これまでの自身の抱いてきた感情を悟られてはいないか、最近の単独行動の数々を振り返ると自身がない。だが、勝利は自身のことを全くわかっていなかった。


彼が見せてきた姿に、惹かれたものたちがここに集まっているのだ。


「そんなことか。最近一緒にいなかったからわからないだろうけど、君と戦うために僕たちは修行していたんだよ。どちらかというと僕は修行をつけていた方なんだけどね。」


仙道神楽がそう言ってのける。それに合わせて夜白空がうんうんと頷く。


「そうです勝利さん。俺は、あの日の戦いで味わった屈辱を二度と味合わないように、勝利さんの邪魔にならないだけでなく、一つの戦場を任せてもらえるようになるために、今日まで修行してきたんです。」


神崎真帆、茶虎砂月、夜白空、鋼鉄好子が同意するように、引き締まった表情を浮かべる。


「ここにいない連中も、同じ思いです。だから、そんな改まって言わなくても大丈夫ですよ。」


空が言葉を続ける。神崎真帆、水川英理、榊原健次郎、黒田泰平、森山影光はまだダンジョンから帰ってきていないらしくこの場にはいないが、どうやらあちらも修行を続けているようだ。勝利は、後ろめたい気持ちになった。自信が不誠実だったのがどうしても気になる。ただ、そのようなことをこの場で言う意味はない。彼らの信頼を、これから返していけばいいだけのこと。だからこそ、今は仮面をかぶる。不敵な笑顔の仮面を。


「じゃあ、一週間後。それまでに仕上げてきます。だから全員準備をよろしくお願いします。ここからは、全員が笑って戦いを終えましょう。魔王なんて、俺達なら片手間に倒せますよ!」


獰猛な笑顔。全員が彼に獣の姿を幻視した。高鳴る胸の鼓動。全身が熱で滾る。


「勝つぞ!」


「「「おう!!!」」」






















「……魔王大戦の詳細を、教えていただけますか?」


恐る恐る質問したのは砂月。勝利はしまったという顔を浮かべる。しまりのない空気に、一同は苦笑するのだった。


◇◆◇◆


「ふむ、この階層で止まりか。」


とある最下層の六階層。水面が広く広がりたまにある孤島以外に足の踏み場がないこの階層。最新到達階層がこのありさまだから、あまりこのダンジョンに挑むものはいなかった。だがこの男が立っているのが孤島の陸地ではなく、凪いだ水面だった。あたりにぷかぷか浮かぶのは、無数の魔物の死骸。どれもが一刀両断されており、水面はすでに血で真っ赤だった。不思議なことに、その男の手に武器は握られていなかった。代わりに掲げられているのは淡い光を放つ球体。否、光だけで作られた光球だ。球体内部で渦巻く光によって当たりの空気の温度が上昇している。だがそれを意に介さず、男は白で統一された装備類の、その上からはおられた白い、真っ白いマントをたなびかせ歩き出す。


勇者、参戦。


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負け続けた男のダンジョン奮闘記ーもう絶対に負けないと決めた男ー 必殺脇汗太郎 @l_wakiase

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