(2-9)時代の変わる音が響く時 前編

時間は少し遡り、第一班が敗走する紅花月を追っている最中。

最後尾からかなり離れた位置で走る勝利と影光は、異変にいち早く気づくことができた。


「おい、ありゃなんだ?見たことねーぞ?」


「勝利さん、見るからにやばいですよ。巨大すぎます。」


勝利は走るのをやめ、怪物と対峙することを選んだ。道中の魔物を喰らいながらも、まっすぐとこちらへ突き進んでくる怪物。明かにこちらを狙って動いているため、そのまま怪物を引きつれて他のメンバーと合流しようものなら大惨事は免れない。意を決して身体をほぐし始めたところで、影光が口を開いた。


「勝利さん、ここはあえて合流のタイミングを調整して紅花月たちに上手く擦り付けるというのはどうでしょうか。うまくいけばあちらの残党や主犯格の数を減らしつつ、どさくさに紛れて拘束、そのまま逃げることも可能だと思いますが。」


たしかにその提案事態はなかなかよさげに聞こえる。だがしかし、勝利は一抹の不安を覚えた。怪物が、ダンジョンが用意したと思われる存在が、そう簡単にこちらの思惑通りに動くものだろうか。下手をすればこちらの仲間が犠牲になるかもしれない、であればここで俺が打倒した方が安全だろう。だが、そうなると今度はラウロ達を追っている空や真帆たち、それに自衛隊員の面々が危険にされされてしまう。仕方のないことだが、ラウロと仲間たちの実力差は覆しがたいものがあり、姿を見せていない他の主犯格が合流してしまったら目も当てられない。


三秒悩んでから、勝利は振り返った。


「影光の策で行く。どっちにしろあいつらを放っておいていいことなんてない。その代わり仲間の命優先だ。ラウロ達は仕留められれば儲けものくらいに考えておこう。いくぞ。」


「はい。」


再び走り出す二人。今度は、方角を少し変え距離を稼ぐ。紅花月と第一班の集団は縦に伸びた形となっており、そのまま追いついたのではいずれ仲間に被害が出てしまう。それならば、いまターゲティングされている自分達が距離を調整すればよい。そして然るべき場所で紅花月にぶつける。そのためにはまず影光を先行させ、勝利は・・・


「ギュラアアアアア!!!!」


「がぁぁぁああああ!!!!」


咆哮する怪物に向け、その場の勢いで勝利が叫ぶ。瞬く間に距離を縮めてきた怪物が、勝利の後ろからかぶりつこうとしたのだが、それに対しカウンターで下顎を斧で叩き、強制的に閉じさせたのだ。自分と同等の雄たけびを上げ、更には思った以上の衝撃でもって顎を打ち抜いた人間に、怪物は驚いた。生まれて間もなくとも、ある程度の情報は脳内にインプットされている。その中でも人間という生き物の特性はその脆弱性だったはず。生物として完成していない己ですら容易く踏みにじることができる存在にいいようにやられたことが、怪物の闘争本能に火をつけた。


「だあああ、固いな!手がしびれる!」


一方、勝利は斧から伝わってきた感触に苦悶の表情を浮かべる。割と本気の一撃だったのだが、それでも鱗を突き破るには至らなかった。やはり強化状態でなければ太刀打ちできない、そう判断した勝利は次の行動に出た。


怪物は己のみに許された技を本能に従って放とうとする。自身の頭部の真下にいる小さな存在を一旦引きずりだす。身体を沈めて圧し掛かれば簡単にその存在は下から急いで出てきた。何やらごそごそ懐をまさぐっているが、今の己には関係ない。勝利に向かって大きく顎を開き、背中の紫の光がひと際光ったかと思うと、圧縮された咆哮ブレスを放った。直線状の地面を一瞬で溶かし、一直線に勝利を襲う。


「っと、あぶねーな。酸性のブレスかよ、ただの嘔吐じゃねーか。」


必殺の一撃。しかし勝利は無傷であった。先ほどまで携帯していた刀とナイフ、そして斧は姿を消し、代わりに携えていたのは、勝利の体を覆い隠すほどのタワーシールドと一本の棒だった。


「がはは、てめーの鱗。全部叩き割ってやんよ。」


不敵に笑う勝利。怪物が一歩後ずさった。ありえない、己は強者として生まれたのだ、それが恐怖するなどもってのほか。怒りで戸惑いをかき消し、怪物は二発目のブレスを放とうとする。


「やらせっかよ!!!」


タワーシールドを正面に掲げた状態で猛進。通常、タワーシールドのような巨大で重いものを持てば動けなくなるのだが、そんなことは勝利に関係ない。有り余る膂力を持って地を駆ける。怪物はブレスが放たれるほんの少しの時間が隙となり簡単に勝利の接近を許してしまう。全体重と全身のばねをつかったタックルでタワーシールド事押し込み、接している鱗を何枚も砕き怪物をのけ反らせる。そして片手でタワーシールドを持ち上げ、バックルのように軽々と腕を引く動作で盾を横に移動させると、反対の手で持っている六尺棒をしならせながら振り、遠心力の力も利用して砕かれた鱗の向こう側、肉の塊を強かに叩く。


「――――――――――ガァァアアアアア!!!!」


痛みが駆け巡る。内臓が揺れる。あらゆるものを防ぐ鱗。生まれて間もない怪物はそれを突き破れる存在に出会ったことなどあるわけがなく、もちろん肉を抉られるような痛みは初めて。故に理解不能といったようにもがくことしかできず、更なる迫撃を勝利に許してしまう。


「おらおらおらおらぁぁあああ!!!」


もし怪物の体躯が通常の魔物と似たようなサイズであれば、絵面的に不良が野生動物を鉄パイプでぶっ叩いているようにしか見えない。しかも乱打である。砕く、砕く、抉る、抉る。硬質な音と肉を叩く音が不規則になり、そのたびに怪物が嘶いた。


しかし、やはりと言うべきかやられてばかりの怪物ではなかった。抜けぞり、痛みに倒れたが、正面から乱打されているおかげで背中は無事。意識を集中させ頭から尻尾にかけて走る日本の裂け眼から光を放出する。そして自分は体を丸め、コマのように回転した。


先程放たれたブレスは、背中の光と同質のもの。実際光っているのは酸性の液体であり、それを圧縮して一方向に放つのがブレス。対して背中の光はその液体袋を透過してるだけに過ぎない。だが液体袋は任意で複数の穴をあけられる。もちろん袋事態を圧縮することで、ある程度の勢いをつけることができ、結果回転と合わせることで、凶悪な攻撃へと仕上がった。


「なっ、ちょっ、これはっ、めんどくさいなっ!!!」


決して早くはない回転だが、如何せん酸の放出が厄介だ。定期的にやってくる酸性の液体。全方位にまき散らされるため、勝利は必死にジャンプやスライディングなどで躱す。テーマパークかよと内心思いつつも、そろそろ離脱し影光の方へ向かうべきだろう。


とその時、酸の放出を止めた怪物が、回転によるめまいなどはなく、のそっと立ち上がった。砕かれた鱗は治っていないようだが、先ほど滅多打ちにされた肉の方はある程度回復したようだ。なるほど、再生能力は鱗には適応されないと。内側だけでも十分厄介だが、それでも苦労して砕いた鱗が復活しないとわかっただけでも十分な成果だ。踵を返し、怪物との距離をぐんぐんと空ける勝利。


再び懐をごそごそといじると、そこには小さな袋が。ひもで縛った口を緩め、タワーシールドに向けると、タワーシールドはすっと吸い込まれたではないか。


「影光様様だぜ。おら、この木偶の棒でくのぼう!さっさと追いかけてきやがれ!」


怪物を煽りながらも今しがた使った道具の効果に内心ほくそえんでいた。


出発前、好子に手渡されたときは半信半疑だったが、早速影光にとあることを頼み、そして道具を使ってみるとあら不思議、ものが袋に吸い込まれた。


そうこの袋の正体は、収納の効果付きの袋なのだ。本来の収納の効果には程遠いが、それでも武器そ数種類入れるには十分な収納量。作成に特殊な素材と、収納の使える人物に披露してもらいそれをコピーしなければならないのだが、それでも作成依頼は大変なことになるだろう。値段が吊り上がる前にさっさと数袋買ってしまおうか。そんなことを考えながら勝利はひた走った。


◇◆◇◆


第二班は、勝利達以上に必死に駆けていた。怪物は最初のインパクトで水増しされていただけでそこまでの速さではなかったのだが、問題は今もなお奇声を発し鬼の形相で追いかけてくる狂人にこそあった。


「貴様ぁぁぁああああ、よこせぇぇえええええ!!!!!」


「ひいぃぃ、神楽さん!さっさと一人で死んでくださいぃぃぃ。」


「好子さん!それは、あんまりじゃないかな!!!!」


悲痛な叫びが響く、もちろん、心の傷によるものだ。ウィリアムはもうはや怒り狂っていた。一時は怪物の乱入により冷静さを取り戻していたが、時間が経つほど怒りがふつふつと湧きあがってきた。己の最愛達を切り裂かれたときの胸の痛みが消えない。憎き相手が視線の先にいることがさらにその怒りを増加させた。


走る、狂人が復讐のために。


幾度も追い付かれ、そのたびに神楽や好子が怪物や狂人を退け撤退を繰り返す。そうして走っていくうちに、前方に紅花月の一団が何やら作業をしているのが見えてきた。


「好子さん!もしやあれが例のダンジョン渡りでは!」


「神楽さん!行きましょう!」


へとへとになりながらも、希望を見出しひた走る第二班。紅花月の面々はついに穴を掘り終え、壁の向こうへと次々消えていく。


全員が勢いそのままに穴へ突入、少し遅れてウィリアム、怪物の順も穴を潜った。


「好子さん、皆さん!走って!出口だ!!!」


「もう、無理、息が、出来ないぃぃぃぃ!!!!」


「待ーーてぇぇぇ!私にその眼をよこせぇぇええええ!!!!」


「グラアアアアア・・・・アァ?」


穴の向こうには、知人たちと敵が勢ぞろいしていた。

神楽は思った。そう簡単に、修羅場は終わらないと。絶えず右手に持っていた刀を構え、発動を継続していた技を切らさぬようさらに精神を集中させ、勝負に挑もうと一歩踏み出した。


◇◆◇◆


第二班が逃走劇を終える少し前、空達第一班達は、勝利達不在のまま、紅花月と再び衝突していた。だが先ほどまでと違い、明かに劣勢に立たされていた。もちろん、ラウロの存在がその要因である。


「ほらほらほら、よそ見してるとまた傷が増えちゃうよぉ?」


集団で穴を掘り始めていた紅花月。その後ろを守るように人員を固めていたところに突撃したまではいいが、段々と数の不利が祟って、押され気味となっていた第一班。そこへラウロが参戦し、その機動力で陣形を乱しては、その隙を突いて紅花月が攻めてくるという状態。何とか戦闘不能状態の仲間はいないものの、そこには抗いがたい実力差があった。


その中でもひと際苦い顔をしているのは真帆と砂月だった。


真帆は、手出しができないことに苛立っていた。なぜなら集団戦において敵軍に魔法を放とうにも範囲攻撃は出来なく、かといってちまちまと単発で狙い撃つ方法は真帆にとって苦手とする分野の魔法だったからだ。


砂月の方はまた別の問題だった。ラウロの機動力の高さに追い付くことが出来るのはやはり砂月しかいなかったのだが、如何せん実力が乖離していた。打ち合いながら移動していると突然視界の端から仲間が現れラウロとの間に入ってきたり、いつの間にか背後に紅花月のメンバーが現れそれに気を取られた瞬間、ラウロのナイフが迫ってきたり。明らかに手のひらで転がされている。ラウロは自分を相手にそういった余裕のある駆け引きを行えるほど実力が高く、その事実を痛感する砂月は冷や汗を浮かべていた。


先程までの圧勝ムードは鳴りを潜め、危機感が全員に広がり始めていた。勝利の、師匠たるその存在が無ければ自分たちはこうも脆かったのか。力あるもの、英雄の存在に頼りすぎていた弱点が、ここにきて露呈した。


「だめだ!諦めるな!僕が守るから!だから戦ってくれ!」


誰もが諦めかけていたその時、戦場の騒音を断ち切って声が届く。


黒田泰平、普段おとなしいその人物が、大声でそう伝えると、その意志を体現すべく、前線から一歩踏み出した。


ラウロはその異変に一番に気が付いた。敵方が纏う雰囲気ががらりと変わる。なにか、言い知れないものがそそり立つ、そういったものを感じた。


その感覚は直後肯定される。今までは各々の力に頼った戦法でまとまりがなかった集団が徐々に徐々に隊列を組みなおしていく。勝利に奢った愚か者たちではなく、勝利を得るために貪欲な猛者に変貌を遂げつつあった。


それを見たラウロはその異変の発生地点である人物めがけて走り出した。あれは放置しているとマズイ。己が嫌う、どうしても折れない手合いの相手。そういった輩は先ほどまで戦っていた勝利とかいうバカげた名前の男と同じ雰囲気を感じさせる。それが気に食わない。己は人を恐怖させ死をもたらす存在。何人も、己の前で立ち上がることは許せない。殺気を研ぎ澄まし、鋭くナイフを突き立てようと今まさに振りかぶったところで―――


「あんた、私から視線を逸らしたね。」


―――己から視線が外れたことで、砂月が封じられていたスタイルが復活した。視界外からの声、すぐさまその方向へとナイフの軌道を変え振り抜くラウロ。しかし刃は虚空を切り裂き、代わりに自身の背中に冷たい感触が走る。


「ぐっ―――――――!」


痛みを堪え、すぐさま後ろを振り返るも、やはり敵の姿はない。あるのは自身の味方とその向こうに完全に陣形を整えた敵だけ。


おかしい、なぜ先ほどまで己の足元に及ばなかった虫けらが、己に傷を付けることが出来るのだ。幾ばくかの恐怖が心の内で広がったその瞬間を突いて、今度は味方の方から異変が起こる。


人が、それも複数の、大の大人がはじけ飛んだ。


「どりゃーーー!!!」


一瞬、巨人を思い浮かべた。巨人と呼ぶには些か可愛らしい掛け声だが、その威容は巨人と呼ぶにふさわしい。


身長二メートルの男が、その体躯に匹敵するほどの盾を持ち、更には見るからに片手で持てる重さではないだろう戦槌を持って大暴れしていた。何人も何人もはじけ飛ぶ。槌が振るわれ、盾で押し込まれ、己の得意とする戦場を与えられた男は、活き活きとしていた。


第一班が慢心を辞め、密集陣形を維持する。紅花月はそれを当然半円を描く形で包囲するが、当然面積的に密集せざるを得なくなる。そして密集した敵を押しとどめ、押し返すことができる男が活きるのは、当然の帰結であった。


こうなってはラウロも前線で戦わざるを得なくなる。だがしかし、現在己の周りのどこかには姿の見えない暗殺者がいるはずなのだ。目を凝らし、周囲を探るラウロ。しかし、一向に敵は見当たらない。何故だ、どうしてこうも姿を隠せる?


その時、ふと脳裏をとある考えが過った。


なぜ、自分だけを狙うと考えた?


その考えに陥るのはしかたのないこと。なぜなら己は強いのだ。そして現状己に対処できる敵がこちらを狙ってくると考えるのは自然なことで、さらに言えば先ほどまではそうだったのだ。一太刀浴びせられてまで、まさか自分が放置されるなどと考えるものはいないだろう。


だからこそ、拮抗していた戦場が、覆されるはめになってしまったのだ。ラウロは後にその考えにいきついた。この時の砂月の行動は、敵ながらあっぱれと言わざるを得なかったのだと。


ラウロが現在いるのは第一班を半円で包囲している状態の右翼。そして事態は左翼から起こった。


パタリ。一人が声を発することなく倒れる。

パタリ、パタリ。血を吹き上げ、倒れる二人。続々と人数を削られる紅花月。忘れていた。先ほどまで自身たちの命を一番多く刈り取っていた存在を。派手さはなく、その動きは全線で猛威を振るう男の輝きに隠れつつも、静かに自身の存在価値を提示していた。砂月の存在が紅花月を乱しに乱した。


そして影が増大するということは、光もより一層輝きを増している。


「ふんっ!てやぁああ!!」


相も変わらず間の抜けた掛け声だが、振るう戦槌の轟音は聞くものすべてを震え上がらせた。また一人全身の骨を砕かれ宙を舞う。前線、第一班と矛を交えるもののすべてが脅威を感じていた。一体だれがあいつを止められる?一体だれがあいつを抜ける?正面から行けば砕かれ、側面から迂回しても背後の仲間がフォローして結局抜けない。たった一枚の壁が、こうも戦場を左右するものなのかと誰もが思った。


それほどまでに、黒田泰平という男が大きかった。おとなしい性格の彼は、戦場において天才だ。盾を持たせれば悉くを弾き、戦槌を持たせばすべてを薙ぎははらう。身体的アドバンテージとそれを補助する冷静な判断。敵の動きを見て戦線をコントロールするその頭脳は一級品。これで性格が優しすぎなければさらに強く強大な存在になったかもしれない。そこはこれからの頑張り次第だが、それでも現状において間違いなく要となる存在である。


そして、『最大防御』という称号を獲得した泰平の、真骨頂が今発揮される。


「皆下がって!回復と補給を整えたらまた戻ってね!」


泰平はそういうと盾を地面に突き刺した。途端に地面に亀裂が走る。割れ目から光が漏れ、そのまま薄っすらと青みを帯びた障壁がせり上がり、第一班の面々を半球状のドームの中に包み込んだのだ。


シールドプリズンというスキルは泰平の持つ唯一の全体防御技であり、その性質は泰平の防御力に依存する。一重に防御力といっても明確な数字があるわけではない。本人の体の頑強さ、盾の耐久力、防御の技量、これまでの実績など、すべてが判断材料となりうる。そして、それが現状この世界で泰平を一番防御力に秀でていると判断させた。それゆえに障壁の耐久力はけた外れ。事実、紅花月の面々がいくら攻撃を入れようともヒビ一つはいらない。


絶対的防御の中で、第一班は傷ついた体を癒し、長らく補給する間もなかった弾丸を装填し、再戦への力を蓄えていた。だが安心はできない。このドームの下は安全だが同時に危うくもある。それは半球状に守られていることにあり、すなわち包囲を完全なものにしかねないからだ。


紅花月の面々が徐々に包囲を完成させていく。障壁が解ければ、そこからは蹂躙の始まりだ。先ほどと違い集団の後ろまでは泰平の手も回らない。これならいける、そう考えた紅花月は徐々に顔を笑顔に変え始める。


しかし、そんなことなど泰平は予想済み。ではなぜこんな強引な手段で戦闘を中断させたのか。簡単である。時間稼ぎだ。


「そろそろだね。僕たちだけでやってもよかったけど、慢心はいけない。やるなら徹底的に。最大の矛で貫かないと。」


一人、後方を見やる泰平。少し先の丘に、こちらに走ってくる人影が二つ見える。勝利と影光だ。ようやっと万全な自分たちを披露できる。さぁここからが正念場だ。


この時、泰平の中には二人だけが来るという考えしかなかった。仕方のないことだろう。泰平に限らず、そのことを知っている人物はこの場にはいないのだから。


二つの影が徐々にその輪郭をはっきりとさせてこちらに向かっていくる。そして少しして、大きな影が、頭をのぞかせた。


「・・・・・・え?」


間の抜けた声を出す。同様で障壁が少し揺らいだ。慌てて精神を集中させてスキルの発動を維持させる。だが、必死に障壁を維持させる泰平をあざ笑うように、大きな影はその体積を増していった。泰平以外の者たちも徐々にその存在に気が付いてきた。そして姿がはっきり見える距離まで来た時には、この場にいるすべての人間が、その存在を認識した。


「たーいーへーい!!それ!維持したままでいろーーーーーー!!全力でなーーーーー!!!」


何が楽しいのか笑みを浮かべて走る勝利に、その斜め後ろを少し引き攣った顔で追走する影光。この場の誰もが知る由もないことだが、自身が考えた作戦を実行するにあたり、少し引き気味になっている影光。戦況をいち早く察し、泰平のスキルが発動していることにより紅花月のみがこの脅威にさらされる現状を考えれば、なかなかに凶悪な策と言える。だからこそ、後々策士だなんだと言われる未来を想像して顔が引きつっている影光だったのだった。


対する紅花月の面々は騒然とした。まさかあのまま突っ込んでくるのか、そういったつぶやきが散見される。ラウロは一人思考を巡らせていた。自身の仲間とはいえ、はっきり言ってしまえば有象無象の存在に興味はわかない。それよりもあの怪物と勝利を同時に相手取るのはいくらなんでも危険すぎる。踵を返し穴掘り作業を続けるもの達の場所まで走り出した。


そして、ついにそれが到着する。


「どけどけどけぇぇぇえええ!!!!」


「ギャウラァァァアアアア!!!!!」


大砲が二つ炸裂したかのようだった。始めに勝利が泰平の障壁を足場に宙に躍り出ると、落下の勢いを利用して斧を振り下ろした。あまりの威力に地面がめくりあがる。集団である紅花月の一部が散りじりに吹き飛んだ。びくともしなかった障壁が、余波で震える。泰平の胃にダメージ。


そして次に巨躯の怪物が餌を求めて紅花月にさく裂した。体当たりで数人を吹き飛ばし、その勢いのまま次々と喰らいついていく。時折障壁に向かって体当たりやしっぽでの攻撃を加え、そのたびに大きく障壁が揺れた。泰平の胃に大ダメージ。


戦場は瞬く間に混沌と化した。そしてその時を利用して一気に第一班が解放される。逃げ惑う者、立ち向かう者、考えはあれどまとまりなく個々で動く紅花月を着々と処理していく第一班。泰平はというと、勝利に駆け寄り、勝利の盾となって怪物の攻撃を受け止めていた。


「勝利さん!防御は任せてください!あなたは攻撃に集中して!」


「ああ、任せろ。空!」


「はい、ここに。」


呼びつけるとすぐに駆け寄り勝利の指示を待つ空。背中を任せられる数少ない相手である空に対し、勝利は無言で顎を動かし、あいつをやるぞと指示した。その指示に、今まで大して見せ場の無かった空が剣を抜いてこれまた無言でうなずいた。


「スキル『双影』。」


勝利が走り出し、影が躍動する。


そのころ怪物はというと、腹を満たす存在に対し歓喜していた。こうも簡単に餌が手に入る。どれもが恐怖の感情にまみれていて美味い。愉悦の感情が心を支配していた。だからこそ、急接近した存在に気付くのが遅れた。そしてそれはそのまま窮地へと追い込まれる要因となる。


「腹は満たしたか?」


 普段通りの声、自分に言われたと気づくまで時間が掛かった。その時にはもう、怪物の足に斧が振り下ろされる直前で、慌てて足を動かそうとするも、あえなく鉤爪の一つが、指の根元から丸々切り離された。


「――――――――――ッ!!!!!!」


痛みに襲われる怪物。いくら鱗が硬いとはいえ、鉤爪がついている指、その根元までもがすべて固いとは限らない。特に関節部は可動域を確保するために比較的柔らかいのだ。それゆえに一刀両断される。だがただ痛みにあえぐわけにもいかない。怒りを込めた噛みつきを放とうと足元めがけて顔を振るが、直後、勝利の背後から影が躍り出て、そのまま勝利とスイッチした。


「ふっ!!!!」


短い呼気とともに繰り出された剣閃は、光を反射させ銀光をまき散らしながら怪物の歯茎に切れ込みを入れる。


「――――――――――――――ッッッ!!!!!」


今度こそ、激しい痛みによろめく怪物。口内を激しく傷つけられた怪物は血をまき散らしながら数歩後退する。そしてその隙を見逃すほど、勝利達は優しくなかった。


「『一の産声に十の斉唱、千の雄叫びに万の絶唱。英雄降誕、幾億の悪を打ち払う。天下無双、誉れ高きその槍にて、邪悪を葬り去れ―――大英雄の大槍』」


真帆が離れた位置から機を窺い、ここぞというタイミングで詠唱を一瞬のうちに組み上げ魔法を発動する、集められた魔力が魔法陣をかたどり、天井すれすれに形成されると巨大な鉄の槍が出現した。

魔法陣が一際強く輝くと勢いよく槍が投擲される。空気を切り裂き、亜音速の域まで到達した槍は見事怪物に命中。咄嗟の回避行動で狙いは逸らされたが、尻尾を切断するに至った。


次々と己の体が欠損していくその様に、怪物は初めて明確な死のビジョンを見る。このままではやられてしまう。己が完全な存在になる前に、あっけなく生涯を閉ざしてしまうのだ。それだけは避けなければ、そう考えた怪物は初めて獲物以外に目を向けた。そして、とある一点を見つめると、おもむろにそちらへと歩き出す。


「てめー!どこいきやがんだ!相手をしろ!」


「勝利さん、目的が逸れていますよ。紅花月の残党に向かったんですし、そのまま食い荒らしてもらいましょう。」


「ああ?・・・・本当に、それだけか?餌ならわざわざ離れたところにいるやつらを狙わなくても・・・・・・。」


思考にふける勝利。無言で突っ立てるわけではなく、絶え間なく襲ってくる紅花月の構成員を迎え打ちながらの芸当なのだから恐ろしい。本人に自覚はなくとも、こういった行動が周囲から尊敬される所以なのだ。


それを視界の端にとらえつつ、本来の自分の間合いではないため、戦闘に半ば以上に意識を割いている影光。己の師匠はそこまで年が離れている訳ではないのに、なぜか積み重ねてきたものが違うと思わされるほどの実力差があった。だからといって追い付くのを諦めるほど、自分は器用にできていない。一刻でも早く勝利と並び立てるようになるため、より一層戦闘に集中する。


そして、怪物が紅花月がより集まっている場所、ダンジョンの壁に穴を掘っている地点まであと少しといったところで、ラウロが接近に気付き、応戦を開始した。


「ちっ!あっちであの馬鹿どもと戯れててよ!」


強化状態が解除され、素のステータスへと戻ったラウロ。だがナイフ捌きはすさまじく、怪物の前方で踊るように舞うと、無数の切り傷を刻みつけた。


だが、怪物は、一切そちらに注意を向けることは無かった。

ただ一点を見つめ、その道中につまみ食いをするだけ。穴を掘る者、怪物に気付き逃げる者、刃を向ける者、それらをすべて平らげる勢いをつまみ食いと言っていいのかは疑問だが。一筋縄ではいかないであろうラウロだけを放っておき、怪物は食事を続けた。血しぶきが飛び、肉片があちこちに散らばる。瞬く間に穴の前に人がいなくなる。ラウロはそれを見て苦い表情を浮かべる。さてこれからどうしたものか。いっそ切り札を使ってとんずらしてしまうのもいいだろう。そう考えていたその時、怪物はおもむろにその顎で壁を掘り始めた。


一心不乱に壁に噛みついては土砂を吐き出すさまは少しばかりおかしい。だがラウロにとっては好都合だった。向こうで待っているはずの仲間と合流し、体制を立て直せる。あとはこの行為を邪魔されなければ、そう思い後ろを振り返る。そこに広がった光景は、ある意味予想の範囲内だった。


「あらら、みんなやられちゃったのかぁ。惜しい仲間たちを無くしたねぇ。」


紅花月の面々はそのすべてが拘束されたか、殺されたかで戦えるものは残っておらず、ラウロを囲むように第一班が隊列を組んでいた。中央に勝利と空、その背後に弓矢を構える影光と魔法を即時展開できるようある程度応用の効く詠唱を組み立てる真帆。勝利達の左右に自衛隊の面々が並び、それらを守れるよう、隊列の後ろに砂月と泰平がそれぞれ待機している。


万全の状態を整えた第一班全員が、ラウロを見つめていた。


「一ミリも思ってないだろそれ。そこの怪物は何やってるか知らないが、とりあえず、お前はとっ捕まえるから、おとなしくそこでじっとしてろ。」


「御冗談。それじゃ、再戦と行こうじゃ、ないかぁ!!!!」


会話の終了を合図に、ラウロが走り出す。それと同時に勝利が走り出し、追従する形で空が走る。


「それはこの前もさっきも見たよ!!!!」


勝利と空の二段構え。だがどう来るか知っていればどうということはない。手数が多少増えただけでは己には通じない。それが解っているからこそ、ラウロは正面からの戦闘を選択した。


最初の交差、勝利は海割での居合を、ラウロはナイフでの一撃を行い、刃が衝突する。火花が視界を染めるその一瞬をついて勝利の背後から迂回しラウロの側面を突く空。しかし、不意打ちに近いそれを予期していたラウロはもう片方のナイフで空の剣を受け止めると、角度をずらして勝利の方へと流した。


次なる攻撃を繰り出そうとしていた勝利は咄嗟にそれを中断し、空を受け止める。今度はその隙を突こうとラウロが一歩踏み出すが、勝利は空を受け止めた体勢のまま後方へと一歩下がるように飛んだ。追いかけようと踏み出すラウロの視界に、幾多もの銃口が映る。


「撃てぇ!!!」


号令を合図に銃弾が発射される。


「甘いんだよぉぉぉ!!!!」


それを、見てから避けるラウロはやはり強者であった。レベル6ともなれば銃口から射線を予測し、猛烈なスピードの体捌きだけで銃弾を躱してしまう。


だが、そんなことは織り込み済み。己たちの行いは、単なる陽動に過ぎない。


「合わせなさい。」


「わかってる。」


短いやり取りが銃声の合間を縫って交わされる。

真帆が即座に詠唱を再開。確実な一手を刻むための魔法を決めた。


それに合わせるように影光が弓を引き絞った。


「スキル『操影』。」


同時に影を操り、己の矢に纏わせる。


「『・・・揺らめく影が忍び寄る。暗がり喰らってなお聳え立つ。闇の世界でお前に勝るものはない―――夜王暗駆』」


直前まで魔力を集め圧縮する詠唱を行っていた真帆は即座に短文の魔法をくみ上げ、その術式の中に先程までの魔法も組み込んだ。


十分に引き絞られた弦を開放し、射掛けられる矢。銃撃の終わりを突き、動きを止める一瞬を狙い澄ました弓矢が放たれた。さらに宙を飛ぶ間に矢に纏われていた影が回転し螺旋を描く。空気抵抗を減らした矢はさらに速度を増し、一直線にラウロへと飛ぶ。まっすぐ頭へと吸い込まれていき―――


「無駄だよ、銃弾より遅いん、だか、ら・・・あれれぇ?」


当たる直前で矢を掴んだラウロ。勝ち誇った笑みとともに影光の方へと視線を向けるが、それと同時に己に起こった現象に疑問が湧く。


血が流れていた。何も当たっていないはずなのに、体の至るところから血が流れているのだ。


「ぐふっ!何なんだよぉ!」


一瞬混乱に陥るラウロ。新手の毒かと思った矢先、己の影に加えて小さい影が複数あるのに気付いた。


「馬鹿ね、見えているものが全てとは限らないわ。」


ラウロがからくりに気づき、真帆に視線を向ける。それに対し、愉悦を含んだ目で返す真帆。己が馬鹿にされたことを理解し、怒りがふつふつと湧き出してくる。


「ははは、どうやら、一番に殺してほしいみたいだねぇぇぇ!!!」


流れ出る血が瞬く間に皮膚に吸い上げられる。ラウロの持つ吸血鬼の牙が効果を発揮し、身体能力の底上げが成される。そこからの全力ダッシュ。ゼロから一気に加速したため、その動きを目で追えたものは少ない。


だからといって、だれも反応できなかった訳でもないが。


「ぶっ殺―――」


「―――させないさ。」


走り出して数歩で影光と真帆のところまで肉薄したラウロだったが、横合いからぬっと湧き出したかのように、剣がラウロの凶刃を止めた。


「雑魚が!邪魔を!するな!!!」


二振りのナイフで空を切り刻まんと連続で振るうラウロ。それらすべてを一本の剣で捌く空。勝利の力をそのまま受けている状態ならば、空の技も力も通じる。そして、己が防げば・・・


「その雑魚に止められちゃ、世話ねーよな。」


海割が薙ぎ払うように振るわれる。咄嗟に一本のナイフで受け止めるも、あまりの力にナイフが耐え切れず、砕け散った。その勢いのまま海割がラウロの脇を切り裂き、血が噴き出る。


「ぐっ!ああ、鬱陶しいなぁぁあああああ!!!!!」


怒り狂うラウロ。このままでは袋叩きになってしまうと判断し、その場でナイフを投擲、空と勝利の動きをけん制すると、一旦後方へと下がる。そこへ再度自衛隊の銃弾が降り注ぐが、それをギリギリですべて躱し、さらに後方へ。そこには怪物しかいないが、下手に刺激して怪物のヘイトをこちらに向けるわけにもいかず、結果銃撃を中断せざるを得ない状況に陥った。


すぐに勝利と影光が追いかけ、他の者たちは距離を縮めラウロの行動範囲を狭めにかかる。だが、ラウロの狙いは地面に横たわる死体達とそれらから流れ出た血。


獣のように四つん這いになったラウロは、両手で血を吸い上げる。片手は死体に、片手は大きな血だまりに。ぐんぐんと吸い込まれていく血がラウロの傷をいやしていく。


「この吸血野郎が!!!」


追い付いた勝利が斧を片手に、振り下ろしを行う。


「キャハッ!これで僕の方が強いよねぇぇぇええええ!!!!」


勝利の力を存分に乗せた一撃が片手で掴まれた。


「しまっ――――――――――ッ!!!」


その場で旋回し、斧を握る勝利ごと投げ飛ばすラウロ。咄嗟に斧を離したために宙で体勢を整えた勝利だったが斧は明後日の方向へと飛んで行ってしまう。


力を増したラウロは勢いよくその場から飛び出し、一直線に左翼に展開する自衛隊員へと向かった。銃撃を敢行するも、その悉くをナイフで弾くラウロを見て狙われた者達全員が戦慄を覚える。圧倒的な力の差がこの状況を作り出した。


「羽虫は、ここで死ね!」


鋭くナイフが迸る。鮮血が噴き出す、かのように思われたが。


「どっこいっしょ!!!」


宙に舞ったのは火花だった。泰平が素早く間に割り込み、盾で刃を防いだのだ。更にナイフが当たったタイミングで盾を押し出し、シールドバッシュを繰り出す。強化されたラウロの力にも匹敵する泰平の膂力で押し込まれた盾は、ラウロに一時的な硬直を強いた。


「どりゃあああ!!」


戦槌が、唸る。大気を震わせるほどの威力で打ち据えられた槌が、ラウロを大きく弾く。


「がはっ!!!」


血反吐を吐き出すラウロ。外見はそうでもないが衝撃が体内を駆け巡り内臓を揺らす。いくら力や強度が増そうとも、中身まではその効果の範囲外のようだ。


「打撃は有効みたいだな!!!」


数メートル後退したラウロの背後から、勝利が武器を振るう。吹き飛ばされた斧でもなく、海割でもない。それは怪物の硬い外皮すらも砕いて見せた、好子作の【破砕の魔棍はさいのまこん】。超振動により打撃個所を粉砕する鉄の棍棒。しなりを加えた一撃を、咄嗟の判断でナイフ二本で受け止める。しかし、振り向きざまの無理な体勢での受けではその一撃を防ぎきることはできなかった。


一瞬にして二振りのナイフが砕かれ、多少勢いがそがれたものの、棍棒の先端が強かにラウロの体に打ち込まれる。


ぐじゅっと肉感のある音を出し、ラウロの肩口が無残にもぐちゃぐちゃになる。さらに衝撃は伝播し体内を突き抜け、内臓を傷つけた。


「ぐはっ!」


吐血し、よろめくラウロ。こんなはずではなかった。いつだって自分は誰かをあざ笑っていた。それなのに、高々数名寄り集まっただけでこうも己を抑え込まれてしまうのか。心中を戸惑いと怨嗟の感情が駆け巡る。


「ぐっ、死ねぇええええ!!!!」


痛みを無視し、この状況の元凶である勝利へ向けて新たに作り出したナイフで襲い掛かる。


「死ぬのはてめーだぁぁぁああああ!!!!」


魔棍をくるりと廻し、ナイフを弾くと、そのままさらに一回転させ突きを放つ。深々と突き立った魔棍が衝撃を加え、怪物の方へと吹き飛ばす。


ギリギリのところで再生が間に合った腕をその突きの間に挟んだラウロは致命傷を避けれたが、怪物へとぶち当たったその勢いまでは殺せない。背中からもろに硬いものへと打ち付けられたことによりさらに内臓が揺れる。



「『―――――灼熱の炎、膨れ上がる大火。大いなる竜よ、大地を灰燼と化せ―――火竜新星ドラゴンノバ』」


そこへ、致命の一撃が放たれた。


一連の攻防の間、延々と連ねていた詠唱。幻想の獣、竜の息吹を凝縮させた炎弾が空間を一瞬にして熱し、大地を焼きながらラウロに迫る。


「やめ―――」


逃げる暇もなく、その極大の炎に焼かれる間際。ラウロからすれば奇跡、勝利達からすれば不幸な出来事が起こった。


怪物が、ラウロが当たった衝撃で振り向き、身を翻した。一歩踏み出したその行動により炎弾とラウロの間に体を滑り込ます形となった怪物に、炎弾が直撃してしまう。


大爆発。

ダンジョンを揺らす衝撃と熱された空気が押し寄せ、巻き上げられた土煙が視界を閉ざす。


爆風が晴れたと同時、眼前に広がった光景は、不思議なものだった。


大きく穿たれた穴。その向こうはこちらの壁の材質とことなる壁が広がり、さらにその向こうに、見知った顔なじみたちがいたのだ。


「おいおい、なんだなんだ!ほんとに繋がってんだな!」


吹き飛ばされた怪物と一緒にラウロも中へと転がっていってしまったため、全員で穴の奥へと進んでいく第一班。傷だらけで立ち上がる怪物と、同じく満身創痍だが状況を精査し笑みを浮かべるラウロ。二体の新たな怪物に、仲間たち、そして紅花月の残りのメンバー。すべてが揃った戦場。


「ははははは!楽しくなってきたぁぁぁぁああああ!!!!!!!」


ラウロの高笑いが響き渡った。


◇◆◇◆


後半へ続く。

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