(2-7)勝者と敗者とは・・・

勝利がラウロと一騎打ちを繰り広げている間、その他の仲間たちは終始圧倒していた。それもそのはず、勝利と過ごした半年は、想像を絶するほど過酷な日々だったのだから。誰もが希望を抱いてダンジョンに向かい、そして打ちひしがれる。上には上がいる。この世に生きる以上、それは受け入れざるを得ないものだった。諦めることが出来たものが、次の段階に進めるのだ。だが、ここにいる者たちは全員が諦めきれなかった。そして、勝利と出会う。単純な憧れ。強さの引力に彼らは逆らえなかった。ゼロからのスタートであっても、あきらめるという選択肢を取らなかったことがそれを証明している。


戦闘にはそれぞれのスタイルがある。身体的特徴、性格、そこから導き出される独自の戦い方。


ある者は、個であることを諦め、模倣を極めた。

ある者は、大きな体を卑下することを辞め、傷つくことを選択した。

ある者は、非力な自分を認め、その上で強くあろうと誓った。

ある者は、足りないものをすべて列挙し、そのすべてを克服しようと努めた。

ある者は、他者の目を避けることを辞め、真っ向から立ち向かった。


全員が、劣等感を抱いて、それでも前に進んだ。諦めなかった。そして、数段先へと昇華した。


対する紅花月の者たちは、もしかすると、彼らと同じ道を歩んでいたかもしれなかった。誰もが社会から弾かれ、孤独を味わい、果てにラウロという狂気に出会った。それは甘かった、それはあまりに味わい深かった。人を殺す度、それを共有できる喜びに彼らは浸っていた。一人ではできなくとも、同じ思いを抱くものがこんなにもいるのだ、全員でやればもっと前へ、もっと喰らえる。強くなることを諦め、弱きもの達で集っただけのこと。それ自体は悪いことではなかった。この世界で生きるものは大抵そうやって生きているのだから。彼らが間違った点は、やはりラウロという人間を信じたことだろう。なにせ、彼は甘い蜜をくれるが、そこで終わりなのだから。


ある者は、あらゆる姿を見せる輝きに慄いた。

ある者は、巨大な壁の前に自身の弱さを呪った。

ある者は、遠く離れた場所に視線を向け、巨大な何かを幻視した。

ある者は、あらゆる攻撃を数倍の威力で悉く返されることに唖然とした。

ある者は、小さな存在が向ける視線に恐怖した。


誰もが思った、ああ、こいつらは堕ちなかったんだと。だからこそ、こんなにも強いのだと。そして、己の罪を抱きながら、奈落へと堕ちていった。


戦況は圧倒的に勝利達が有利。

しかし、大将たちの戦いは、いまだ均衡を保っていた。


一方は無言で二振りのナイフを振るう。相手のナイフを一撃で砕くほどにその力は強化され、相手の体に幾本の傷跡を付けたかわからない。

もう一方は終始笑っていた。笑いながら数えきれないほどのナイフを生み出しては、相手の体を切り刻んでいった。


「てめぇ、そのナイフ、どうなってんだ?」


「キャハはははは、教えるわけないだろうーがばーーーか!もっと、もっと血をよこせ!」


勝利とラウロ。互いに戦闘が長引けば長引くほどに強くなっていく特性有り。

勝利は武器を振るう度、振るわれる度に強さに磨きがかかる。

ラウロの方は、原理が不明だがそれでも勝利と拮抗し続けられるほど強さを増していた。また一本、ラウロのナイフが刀身を爆散させ、砕け散る。だが、もう片方に持ったナイフで勝利の体を斜めに横断していた。勝利はそれを気にすることなく、己を切り裂いた手をつかみ取り、振り上げて体ごと地面に叩きつけようとした。


「それはさせないさぁ。あらよっと!」


ラウロは宙を舞う感覚を楽しみながら、空中で一回転しつつ勝利の手を切りつけて高速から逃れるとそのまますたっと地面に着地した。


「これで、二体一だねぇ!きゃははは!!!!」


「うるせーよ。こんなもん唾つけとけば治る。」


まるでかすり傷かのようにつばを吐きかけて取りこぼしたナイフを拾ってまたラウロと対峙する。傍から見れば本当に大したことないように見えるが、勝利の内心はそうでもなかった。


(がああああ、いてぇぇぇぇ。全力で力入れないとなんも持てねーな。)


見てくれは今まで通りだが、今しがた切られた左手でラウロの攻撃を受けることは出来ない。そんなことをすれば容易くナイフを取りこぼしてしまう。


だが、何もナイフで戦う必要はない。ラウロの手数に追い付くにはこちらも両手にナイフが一番だと思ったからそうしただけ。それに自身の特性上、手数が多い方が早めにブーストがかけられる。だから、今そのブーストが極まったこの時点で戦法を変えることは、ある意味当然かもしれない。


「そんじゃ、最終ラウンドと行こうぜ。そっちもそろそろ切り札出すんだろ?」


「いいねいいねぇ。皆やられちゃってるし、そろそろ僕もお暇したかったんだぁ。流石に君の仲間に囲まれて君と戦うなんてのは危険すぎるからね。」


「ま、そうだろうな。だが、逃がさん。お前が街にいると、俺の家族が、仲間が危険な目に合うかもしれない。おちおちダンジョンに挑んでもいられないんだよ。」


そういうと、勝利は深呼吸を一度した。そして精神を研ぎ澄まし、本気となる。


「新装備のお披露目だ。お前のその手数の多さと一撃の重さ、両方が高次元にあるから厄介なんだ。それを封じるなら、手っ取り早く、こっちがいいだけだろう?―――『装着:不知火Mk.1』。」


右手に嵌めた腕輪のようなものに声を掛ける勝利。機械仕掛けのその腕輪は、予め設定してあった声と言葉に反応し、直後、幻が浮かび上がるかのように、炎が揺らめくようにして、勝利の身体に鎧が出現する。紅と黄で構成された、胸と肩を守るプレートアーマーと籠手が最初に出現し、次いで下半身を袴のようなチェーンメイルが覆い、頭部を守るフルフェイスの兜が出現した。元々大きかった体躯はさらにその体積を増し、それとともに言い知れぬ威圧感も増大した。


「今更そんなものを装備したところで、何が変わるって言うんだい?」


「それは今からわかることだろ?」


そう、勝利が言った瞬間。ラウロが掻き消えた。今までで一番の強化率、それは音すら置き去りにするほどの加速を与え、7,8メートルはあった距離を瞬く間に詰める。その勢いがすべて乗せられた一撃が勝利を襲った。


ラウロの一撃は、並みの鎧であれば一撃のもとに破壊されていただろう。事実、これまでも幾多も攻略者たちを防具ごと屠ってきたのだから。


だが、間違いなく勝利は一級品の実力者。そして鎧の製作者である鋼鉄好子もまた、間違いなく最高峰の鍛冶師なのだ。


故に、特殊性を抜けば多少頑丈なだけに過ぎないラウロのナイフは、鎧にぶち当たり、その衝撃に耐えられず粉々になった。


「ぎゃはは、硬すぎだろぉ!」


何が面白いのか、狂気じみた笑い声を発しながら幾度も幾度もナイフを出現させては、ひたすら鎧を切り裂こうとするラウロ。勝利もそれをただじっと受けているだけ。鎧の継ぎ目や肌の露出している部分を狙われれば簡単に命を落としかねない状況で、些か二人の行動はずれていた。ラウロは鎧の無意味さを、勝利は鎧の意味をそれぞれ証明するためにこんな茶番を繰り広げていたのだった。


「さて、証明はすんだだろ?種明かしはあの世でしてやる、よっっと!!!」


そう言いながらゆらりと動いた右手が、天を突くように伸ばされ、その手の先にまたしても揺らめく火が立ち上り、燃え盛る炎のような紅色の大剣を出現させる。


話を締めくくるように、力ずよく掛け声をかけて、大剣が振り下ろされる。ラウロはそれを見て一瞬にして内包する暴力的な威力に目を剥いた。そして大剣が自身に到達する寸前で大きく後ろに飛びのく。


そして、ギリギリで目の前を通過していった大剣が地面に叩き下ろされた瞬間を見たラウロは、先ほどの驚愕を上回る衝撃に見舞われた。


大地が割れたのだ。それはもう見事に剣の剣の延長線上がぱっくりと。少しずれた位置にいたラウロは横を駆け抜けていった衝撃の強さに冷や汗をかいた。たかが鎧を着ただけでこうも力を増すのか、その疑問だけが頭の中を駆け巡った。


「最高だぜ好子さん。それじゃ、終いにするか。」


爆心地に居た勝利は、見事に叩き割られ陥没したその場所からのそりと動き出し、一歩踏み出す。もはやそれは歩みではなかった。空気の壁を破り、音速の域に達したのだから。


ラウロは、先ほど自分が見せた加速の上位互換に、完全に反応していた。現在、ラウロのレベルは、6。奇しくも地球上で最高の高さを誇るレベルへと達していたラウロにとってその動きを見切るのはそう難しくはなかった。だがしかし、見切れたからと言って、躱せるかと言えばまたそれは別問題だ。かなり遠くまで退いたというのにその距離を一瞬で詰められ、またも上段から振りぬかれた大剣を今度は体をずらすことで回避し、兜と鎧の隙間めがけてナイフを突き立てんとした。


だがしかし、地面を砕くほどの威力、その近くでまともに立っていられるはずもなかった。足を掬われ、軌道が逸れたナイフはそのまま兜へと直撃し、硬質な音を響かせて弾かれる。足が地面から離れ、一瞬とはいえ浮いた状態になったラウロを見逃すはずはなく、大剣から片手を離し、鋭い裏拳で勝利が敵の体を吹き飛ばした。


血反吐を吐きながら吹き飛ぶラウロ、すぐさま痛みを堪えて体勢を整え反撃に移ろうとしたその時。


「どりゃぁぁぁああああ!!!」


すでに追い付いていた勝利が、両手を硬く握りラウロの背中を強かに打った。地面にめり込んでしまったのではと思うほどの衝撃を喰らったラウロは、強化されたはずの耐久力さえ何の意味をなさずに、意識を飛ばす。だが、ラウロも勝利と同じレベル。すぐさま意識を取り戻し、素早く飛び起きると、後方に退きながらナイフを投擲する。二本とも正確に勝利の関節を狙った攻撃、これには勝利も対応せざるを得ない、片腕の籠手で綺麗に二本とも振り払う。その隙に再度新しいナイフを生み出したラウロは、戦法を変え、自身の最高速度での一撃離脱に切り替えた。


それからしばらくは高速で動くラウロの攻撃を時に鎧で受け、時に躱してを繰り返す。その合間合間に大剣が空間を薙ぎ払うように振るわれ、そのたびに小規模の爆発じみた衝撃がダンジョンを揺らした。


両者互いに一撃必殺の威力を秘めた攻撃を繰り出し続けているのに、一向に当たらない。先程までの血まみれの打ち合いとは打って変わって、互いの体にはかすり傷程度の傷しかない。この状況を打破するため、先に動き出したのはラウロだった。


「ちっ!!!血だ!血がいるぅぅううう!!!!」


何度目かわからない高速接近からの高速離脱をしたラウロは、その勢いのまま一番近くにいた(それでも100メートルは遠い)仲間の元へ一瞬で駆け寄り、ナイフを振り抜いた。唖然とした表情を浮かべる頭部が、ごとりと地面に転がった。


「はぁ!?」


流石の勝利も突如としてそういった行動に移った敵に対し、疑問の声を上げる。いくら何でもその行動になんの意味があるのか。研ぎ澄まされた思考は、一つの答えを導き出した。


「そうか、血か。てっきりファッションかと思ってたが。」


仲間の死体から噴き出る血を一心に浴びるラウロ。よく見れば血を浴び続けているにも関わらず、その体は乾いたところが多かった。


ラウロの強化方法。その種は、とあるダンジョンで拾った魔道具、吸血鬼の牙の効果によるものだった。装着方法はそれを飲み込むという、なんとも危なげな印象を受ける魔道具だがその効果は絶大。血を浴びることによって身体能力の強化、武器の生成を行うことができ、さらにその上限はなく、自身の血ですら吸血の対象となる。その力を使って瞬く間にレベル6まで至ったラウロ。勝利と渡り合えるのも道理であった。


故に、勝利の急激な変化に対応すべく、新たに血を求めた結果が仲間の殺害。これには残り少ない紅花月の生き残りも恐怖を抱いた。


勝利は、その行為の意味するところを考え、まずいと悟る。いち早く動き出し、瞬きの間に接近。大剣を横なぎに振るい、ラウロの行為を妨げようとする。


しかし、その一撃をラウロはナイフ一本で受け止めた。


「くくく、ようやく、同等だねぇ。」


ナイフまでもが先ほどまでとは一線を画すほどに強化された。それだけで、今の勝利と同等の力を手にしたと周囲に理解させる。そして、ナイフは二振り。仲間の死体を手放したラウロは、血塗られた手にナイフを出現させ、一閃させる。


血が噴き出た。勝利の鎧を、深々と切り裂いたのだ。だがこうなることは勝利も織り込み済み。痛みに構うことなく振り抜いた大剣を引き戻し再度切りかかる。それをまたしてもナイフ一本で受けたラウロは、刃の角度を変えてその軌道をずらし受け流す。先程と同じようにもう片方のナイフで勝利の腕を撫で斬り、また逆の手を振るい首を断つ一撃を繰り出した。


「そう何度も喰らうか!!!」


その鋭い一撃に対して、勝利のとった行動は、真っ向勝負だった。先ほどまでの一撃必殺の大振りではなく、大剣を小回りで動かす器用な芸当。首狙いの一撃に対し、引き戻した大剣の柄で刃の側面を叩き、人外の膂力でもって大剣を片手で回転させ、最短距離で袈裟懸けの一撃を繰り出す。ラウロはそれを大剣の間合いのすれすれまで飛び退いて躱すが、勝利は一歩踏み出し、振り抜いた軌道を辿るように大剣を振るう。戦法を変えたことにより、ラウロと勝利の戦いはまたしても膠着状態に陥った。


紅花月のメンバーはこの戦いを見て、自身たちの首領は手助けにこれないと判断。即座に撤退を開始する。空達は、迫撃へ移り、逃げ惑う紅花月の背を追った。


「あああああ、ちくしょう!君をこの場で殺したいのはやまやまだけど、どうやらまだその時じゃないみたいだねぇ。」


「うるせー!てめーだけはこの場でぶっ殺す!」


未だ続く打ち合いの最中に言葉を交わす二人。アドレナリンでごまかされてはいるが、両者ともに出血多量、疲労困憊。すでにスキルと魔道具の効果が無ければ死んでいる状況。加えて実力が伯仲しているとなれば、このまま戦っても引き分けるだけ。もしこんなところでぶっ倒れては仲間が撤退したこちらが殺される。そう判断したラウロは、力を振り絞って攻撃の速度を一段階上げる。


手数で負けている上に、超高速の連続攻撃ともなればさすがに防戦一方になる勝利。一瞬体勢が崩れてしまい、その隙を突いて鋭い蹴りが繰り出された。


10メートルは吹き飛ばされ、体勢を整えた時にはすでにラウロは彼方へと走り去ってしまっていた。


「待てこのっ、ちっ、こんな時に!」


膝立ちから立とうとした瞬間ぐらりと揺れる視界。さすがに傷つきすぎた。いつの間にか森から出てこちらに来ていた影光が勝利の体を支える。そして高級品であり、新しく開発された回復薬の試験管を異空間から取り出す。


「勝利さん、鎧を脱いでください。さっさと回復して追いかけますよ。」


「おいおい、一番厄介なやつを完全に抑えてたんぜ?もう少し、ねぎらってくれてもいいんじゃないか?」


「まったく、ちょっと楽しんでた人にとやかく言われたくないですね。それにこちらも敵側にとって一番厄介なやつを抑え込まれていたんですからプラマイゼロですよ。」


「はは、違いない。『着脱』、ほらかけてくれ。畜生、容赦なく切り刻みやがって。」


着脱の合図を受け、出現と同様に揺らめく炎に包まれ鎧と大剣も幻のように消え去る。


「それにしても、予想以上に凄まじいですね。」


「ああ、俺専用とはいえ、将来的にはお前らもこういった鎧は必要かもな。」


「そう簡単に経戦時間で強くなるスキルとか得られませんよ。もう一本飲んでおきましょう。流石にその傷はやばいですよ。」


勝利の体は至る所に傷がついていた。場所によってはいまだに血を流している。こんな傷を受けていながら会話すらできる勝利を見て、影光は少し引いた。この人本当に同じ人間なのかな、と。


それにしても、と影光は考える。

勝利の鎧は、少し条件があるとはいえ、さすがにチートに過ぎた。


◇◆◇◆


『不知火Mk.1』。


この鎧は好子謹製の魔装だ。

効果は、装着時以外の収納と着た時点での強化系効果の増大。効果自体は割とピーキー、というよりも少しばかり微妙といったところ。魔法しかりスキルしかり、身体能力の向上を施す効果を持つものはあるが、それらが掛かった状態でこの鎧を着ても、少ししか効果が上がらず、それならば重たい鎧を着る意味もないといった程度のもの。よって影光等が着たとしても、ほんの少しの恩恵しか得られない。


だがしかし、勝利のスキル、『討伐者の行進スレイヤーズパレード』を合わせると、凶悪なスキルへと急成長を遂げる。


この鎧の効果は、着た時点での強化系効果の増大。つまり一回の強化に対してその効果を少し増すというものだ。一方、勝利の『討伐者の行進スレイヤーズパレード』、これは要するに強化の多重掛け、無数の強化試行回数による莫大な力の増大が、この称号の効果なのだ。それはまるで強大な敵を打倒するための、英雄にのみ許された神の恩恵チート。本来の使用方法は強化の3割分を仲間にも施し、群体としての強さを発揮するといったものであり、まさに討伐者英雄たちによる進撃を促すという反則じみた力なのだが、しかし、この鎧はその部分に何ら関係していない。


一回の強化だけを少しだけ増幅させても意味はない。だったら、沢山強化されていればいい。無数の試行回数、そのすべてを強化したとすれば、それは絶大なものになる。さらに、強化する割合が大きければ大きいほど再強化の割合も小さくなるこの鎧の効果は、裏を返せば小さければ小さいほど再強化の割合が大きいのだ。


つまり、小さな強化の重ね掛けとの相性は最高であり。


故に、驚愕するほどの力を手にするのも、道理であった。


◇◆◇◆


事前に説明を受けていたとはいえ、実際にその暴威を目にしてみるとやはり驚いてしまう。だが同時に影光はこう考える。あそこまで力を増していた勝利に対し、互角に渡り合っていたあれも、相当にと。


第一、血による強化だけであそこまで強くなるものなのか。勝利でさえ、身を切らせるという危険を冒さないとあの強さを発揮することはできないのだ。それなのに血を浴びるという行為だけというのは些か不自然。そんな疑問が顔に出ていたのか、傷がある程度回復した勝利がよっこらしょと腰を上げながら影光に対し話掛かる。


「まぁ、あいつもそれなりに制約がありそうだけどな。例えば、感情とか新鮮さとか。死の恐怖、頼れる人への信頼、そういった強い感情を帯びていないといけないとしたら、あの行動だけで莫大な力を得たのも納得できるし、新鮮な血じゃなくてもいいなら常に血液入れた容器ぐらいもってるだろ。そうしてないってことは、何かしらの条件があるってことだ。割と敷居が低い気がするがまぁ、血をその場で大量に流してくれる人なんて稀だし、それこそ人間が強い感情を抱くにはいろいろと準備が必要だ。そう考えるとあながち使い勝手がいい能力じゃねーのかもな。」


「・・・勝手に心を読まないでください。遂に人間を辞めたんですか?」


「いつになく辛辣。もしや、自分の力が全然届いてないとか、考えてないだろうな?確かにお前らはまだまだ俺には敵わないが、それなら死ぬまで努力すればいい。俺に勝てるだけの努力をして初めて俺に勝てるぐらい思っておかないと意味無いぞ。継続は力成り、だ。ほら、行くぞ、だいぶ離されちまった。」


勝利が走り出し、その後を追って影光も走り出す。向かう先は紅花月が逃げ去った方向。ラウロを含めた全員が同じ方向に逃げたことからあらかじめ用意していた逃走経路なのかもしれない。気を引き締めて仲間の背を追う二人。


その遥か後方。


巨大な一つの空洞であるこの階層の壁に隣接した森、その木々達が、揺れた。


揺れは次第に大きくなり、やがて幾本もの木がなぎ倒され、ついに平野と森の継ぎ目にがたどり着いた。


見た目としては、ティラノサウルスが一番近いのだろうか。だが想像したその姿の三割増しでおぞましいと言えばその異様さがわかる。


胴体の両側面が大きく削れ、筋肉の繊維のようなもので構成された膜が規則正しい鼓動を繰り返していた。後ろ足は踏みつけた木を容易く粉砕するほど大きく、強靭な鎧で覆われている。全体的に鱗で覆われており、その一つ一つが黒光りし、縁は鋭利な形状。頭からしっぽにかけて二筋のラインが走り、そこから紫色のあやしい光が漏れていた。


怪物は、咆哮することもなく、彼方にいる獲物を肉眼で捉え、そしてまた一歩踏み出した。どんどんと加速し、道中に居た魔物をついでとばかりに丸呑みにする。魔物を喰らう度に、背中から洩れる怪しい光は輝きを増し、それに伴い、徐々にスピードも上がっていった。


産み落とされた胎児が、赤子へと変わり、今、成体へと変貌を遂げようとしている。勝利達はまだ、その恐怖に、気づくことは無かった。


◇◆◇◆


・ダンジョン攻略進捗状況

『不知火勝利』

・到達深度  →不知火邸ダンジョン六層攻略途中、その他、複数のダンジョンを平均して4~5層。

・討伐関連  →鬼人、アラクネ、ギガパンドラット複数討伐。

・レベルアップ→なし ※現在Level.6

・スキル   →斧術(特殊開放第三段階)・剣術:タイプ『刀』(特殊開放第二段階)『短剣』(特殊開放第一段階)・暗視・マッピング・体温一定・敵意感知・心眼・疾駆・剛力・戦気

・称号    →セット『討伐者の行進スレイヤーズパレード』・控え『討伐者』系統多数『最速討伐』『不倒不屈』『無慈悲の一撃』『剛力粉砕』『災いの種:タイプ****』


・攻略状況一覧

 海で魔物が観測され、調査隊が派遣される。

 衛星が複数不具合を起こした。


・【最*】系保持者情報

 『最速討伐』→不知火勝利しらぬいしょうり

 『最大射程』→水川英理みずかわえり

 『最大威力』→柳日向やなぎひなた

 『最大精度』→榊原健次郎さかきばらけんじろう

 『最多殺人』→神無月かんなづきラウロ

 『最大防御』→****  etc.

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