(1-5)協力を仰いでみたが・・・

パンドラットに遭遇したあの日から三日間。

俺はひたすらダンジョン攻略にとりかかり、一層のほぼすべてのルートを制覇した。平面的な一層はかなり入り組んだ構造となっていて、進むうちに他のルートに繋がったりなど、二度手間となることが多々あった。そのため三日も時間を使い、そしてようやく次の階層へ繋がる細長いルームに行きついたというわけだ。


今日で丁度ダンジョン発生から7日目。俺は一旦攻略を中止し、他のダンジョンの様子を探るとともに、いけそうなら違うダンジョンに潜ってみたいと考えていた。だが実際は発見されている、いや公表されているダンジョンはすべて自衛隊の管轄だし、未発見の場所を知らないので、もちろん行くことはできない。


そこで俺は考えた。自衛隊の知り合い、の知り合いを訪ねればよかろうと。


「父さん、入るぞー。」


「おう、勝利か。どうだ鍛錬はしっかりとやっているか?」


「もちろん。それよりも母さんから聞いた?」


「ああ、ダンジョンのことか。まさかうちの家にできるとは思わなかったなぁ。それも息子がそこに潜って日夜殺戮を繰り広げているとは。父さんはそんな息子に育てた覚えはないぞ?」


「殺戮って人聞きが悪いな。俺が中の魔物倒さなきゃ溢れてくるかもしれないんだぞ?腰痛くて動けないから母さんを守れませんでしたってなっても知らないからな?」


「ふん、冗談だ。それに母さんを守るのはお前の役目でもあるだろう・・・そうなると今やってることは理にかなってるのか?なんだお前、意外と頭いいな。」


「だてに普段勉強してないから。てかさ、父さん自衛隊の知り合いいる?やけに知り合い多い父さんなら誰かいるかと思って。」


「わかった、少し下で待ってろ。連絡取ってみる。息子の頼みならすぐにかなえてやるのが父さんだからな。それと・・・学校のことだが、すまんな、父さんが不甲斐ないばかりに。」


「気にしてねーよ。あのままだったら俺もダメになってたかもしれないし。学校行ってない今の方が、言い方悪いけど楽しいんだ。一か月っていう期間は母さんにもらったし、自分の人生になにか答えが見つかることを祈ってるよ。」


「自分の息子なのに、成長したのがわかるとすこし寂しいと思ってしまうのは親の定めか。まぁ、頑張れ。父さんの仕事は、そうだな、そんなに困ってもない。このままだったらお前のいいところがつぶれてダメになってしまうと感じて学校を辞めさせたっていう理由も少しある。結果的にこんなことになってしまったが、お前のその晴れ晴れした顔を見れてよかったよ。ほら、ささっと下でご飯でも食べてなさい。」


わかったよと言って部屋を出る。父さんにそんな気遣いをさせていたことに驚愕し、それよりも照れの方が勝ってしまっていけないな。まったく、しゃっきとせねば。父さんと母さんに悲しい顔をさせないようにしっかりと死なないようにダンジョンに挑まないと。まぁ、ダンジョンに挑まなければいいとも思うが、それは俺のわがままなんだ、見逃してくれ。誰に向けてかわからない言い訳をしつつ、階段を降りて行く。


と、いうわけで一階のリビングでくつろぎながら情報収集をすることにした。

ふむ、どうやら自衛隊は本格的な攻略を開始してたみたいだな。ダンジョンの映像や倒した魔物の写真などをホームページで公開している。広域に渡ってダンジョンを管理しているみたいで俺の知らぬ魔物も多くいた。いつか戦うことになるかもしれないので公開されている情報のすべてに目を通そうと思う。


しかし、レベルやスキルといった謎には一切触れていないのは疑問が残るな。スキルに気付くのは俺みたいな偶然が起こらない限り無理だが、レベルは魔物を倒せばすぐにわかることだろうし、気づかない方がどうかしている。それを伏せているってことは、公開するとなにか余計なことがおきかねないからか?一般市民がこぞってダンジョンに入らせろと暴動を起こされたらたまったもんじゃないだろうしな。その線で考えると、魔物などの情報公開は国民に予備知識を与えて、ダンジョンを公開した時のための準備、といったところか?近いうちに俺みたいなレベルの恩恵を受けた人類が街中を歩くことになりそうだ、それはそれでワクワクするが、危険がないとも言えない。どこの世界でも力を得ると悪さをしたくなるやつが出てくるものだ。その点は今後の課題として政府が解決してくれることを祈ろう。


今のところ公開されているダンジョンはないようで、その代わりと言っては何だがネットでは所謂、野良ダンジョンなるものの噂が時折飛び交っている。その中にはレベルの話に触れているものもあり、その存在が本当だと知っている俺からすると、その中の何個かは本物の情報だろうと推測することが出来る。もちろん、個人の力じゃ押し寄せる群衆を止めることは出来ないから住所や写真を公開することはないので残念ながらどこに野良ダンジョンがあるのかわからない。こちらも当てが外れたとみてよさそうだな。


あとは信憑性の欠けるサイトのよくわからない話やら、魔物の死体を買い取りたいなどの怪しい文言がちりばめられたSNSのつぶやきばかりで大して収穫は無かった。


そのあと未だ沈黙を守っている六つの大穴のことを調べてみたり、ニュースの映像を流し見したりすること二時間。


家のチャイムが鳴ったため、俺はインターホンのスイッチを押し来客の応対をする。


「はいー、不知火ですけどー。」


『どうも、不知火勝利さんですね。お父様からお話は伺っています。私、自衛隊所属の榊原と申します。お話を伺いに参った次第です。』


おっと、どうやら早速父さんの知り合いが来たようだ。というか早すぎやしないか?どんな話をしたらこんなに早く駆けつけられるんだ?


そう思いながらも、玄関に向かい、覗き穴から外を確認する。榊原と名乗った男の人と、その横に一回り背の低い女性が一人いるだけで他に部隊が待機しているわけでもない。玄関を開けた瞬間確保なんてことにはならなさそうだな。一応装備はクローゼットに隠しているし、ここは普通に応対をした方がよさそうだ。


扉を開けて挨拶をする。


「始めまして、不知火勝利です。父さんに呼ばれてきたんですよね。どうぞ上がって下さって、え!?」


「榊原さん、この子、私と同類です。」


「ああ、だから他の隊員を連れてこなかったんだ。それとその腕を離しなさい。私の知り合いの息子だ、失礼だろう。」


「ですがこの子はまだ子供ですし、この話が露呈するのは。」


「私が、離しなさいと、言っているんだ。聞こえないのか?」


「っ!失礼しました!!!」


「そ、その、とりあえず中でお茶でも、父さんを呼んでくるので少し待っててください。」


突如として女の隊員が俺のを掴み袖をまくってきた。あまりに性急すぎるその行動に驚きつい腕を見られてしまう。そして同類という彼女の言葉。この人たち、確実にレベルのことを知っている。


だが榊原さんはそこらへんを了承して俺のことを庇った。というよりも父さんのメンツを立てて俺を庇ったという方が正しいか。ともかく、敵ではなさそうなので父さんを呼んでくる間リビングで待ってもらうことにした。


リビングに通しソファーに座ってもらう。腰が悪い父さんは専用の椅子があるのでそこに対面する形となる予定だ。父さんの横に座れば丁度2対2で話しやすい形だろう。


ということで父さんの部屋に行き、母さんと一緒になって父さんの介助をする。階段を降り、リビングに入ると榊原さんが起立し敬礼、そして上司がそうしたことで部下たる女隊員もそうしなければならない相手だと察し、すぐに起立し敬礼をした。


「不知火さん。お久しぶりです。体のお加減はいかがでしょうか!」


先程まで威厳たっぷりだった榊原さんが緊張した面持ちでそう話を振る。それに対し俺の父さんは気さくに手を上げ座るよう促した。


父さんが着席するのを待ってから榊原さんと女隊員が順に座り、俺が母さんと手分けしてお茶を出す。そうして俺も腰を下ろし、母さんが買い出しに出かけてくると言ってリビングを出たのを確認してから、父さんはがようやっと口を開いた。


「久しぶりだね榊原君。私は見ての通り少々無茶をしすぎたみたいでね。腰がゆうことを聞かないんだ、そのことで遅れてしまったのはすまない、先に謝るよ。それと、そちらの女性は?どうやら私の息子にようだが、さすがに初対面の女性に息子をあげるわけには、いかないんだが?」


「はい、申し訳ございません!少し失礼を。おい、水川いい加減にしないか!この人たちは敵ではない!むしろ協力していただければ百人力だ。説明もせず連れてきたのは悪いと思っているが、なにをそうムキになっている!」


「・・・申し訳ありませんでした。奴に負けが続くあまり、気が立っていたようです。それに、彼がその、レベル2なのが信じられなくて。」


「つまらぬ感情で動くなといつも言っているだろう。お前は引き金を引くことだけが仕事ではない。節度ある態度を心掛けろ、わかったな?申し訳ありませんでした。不知火さんの前でこのような失態を。」


「榊原君は相変わらずお堅いね。大丈夫、うちの息子はそんな細かいことは気にしないよ。なにせ自分がのことにしか興味がないようなバカ息子だからね。それはそうと、少し堅苦しい気がするな。昔のように名前で呼んでも構わないね?」


「はい!それでは私も灯夜さんと呼ばせていただきます。それで、ダンジョンのことについて息子を交えて話したい、信用できる人物と一緒にうちにこいとしか聞かされていないのですが、どういった要件で?」


ちょ、父さん!それしか伝えてないのかよ。てかよくそれでこの人たちも来ちまったな!いったいどんな関係なんだよ!


父さんはお茶をすすり、どこから話そうかと考える素振りを見せ、ちらっと俺の方を見た。まさか俺に話せと?確かに知り合いがいないかと聞いたがこんな急に話すとも思ってなかったんだが!


「健次郎、そのことはまず息子から話そう。なにせ君たちを呼んでほしいと頼んできたのは息子だからね。」


ともかく、俺から話をさせたいらしい父さんはニマニマしながら俺の方を見る。それにつられて榊原さんたちの視線も俺に向けられ、当の本人である俺は、しかたなく話を始めるはめになった。


「その、とりあえず、これから話すことはあまり他言してほしくないんです。それとこの話を聞いて俺の家を封鎖するなんてこともしないって約束していただけますか?一応書面も作れますが。」


「いや、それには及ばない。私達はこれから話すことを秘密にすると約束しよう。君のお父さんには頭が上がらないしね。それで、一体どんな話なのかな?」


俺はその言葉を受けて、少し迷いながらも意を決して話をすることにした。


「まず、うちの庭にダンジョンがあります。それで、一応一階層にあたる部分の攻略は済みました。それで、とある情報を提供するので自衛隊の持つ情報を少しばかり開示してほしいのと、ダンジョン攻略に同行させていただきたく思っています。いかがですか?」


一気に話し終えてお茶をグイっと一口煽る。やっぱり話すべきでは無かっただろうか。榊原さんは思案顔で、女隊員に至っては口をあんぐり開けて俺のことを凝視している。


一旦落ち着きたいのか、今度は榊原さんがお茶を一口飲み、女隊員の表情に気付いて呆れた顔をすると、そっと肩をゆすって正気に戻させた。


そして正気に戻った水川と呼ばれた隊員は口をぱくぱくさせ、言葉を紡ぎ始める。


「いや、あんたのような若者が、一階層を?それもたった一週間で?おひとりですか?そもそも銃器を持った我々ですらようやっと一階層の探索を終えようとしているのにあなたは一体!」


「ふむ、それはなかなか興味深い内容だな。水川隊員のこの反応も致し方ない。灯夜さん、あなたの息子らしいですね。そのしたり顔も久々に見ましたよ。それで、その情報次第では君の要求を受け入れるかを考えたい、なるべく善処するつもりだ。だからまずは君の話を聞かせてくれないかい?」


困った顔で話を促す榊原さん。というか俺って進んでる方だったのか。てっきり銃器を持ってる自衛隊の方がサクサク進んでいるものだとばかり思っていたんだが。


とりあえず、俺の持っている情報の一部を公開して、反応をうかがうとするか。ていうか父さん、まだ黙ったまんまかよ。そのにやけ面腹立つからやめてくれ。


「お二人は、というより自衛隊の方々は、スキルというものを知ってますか?」


「スキル?私はレベルに関しての話だとばかり。それは一体どのようなもので?」


「スキルに関しての詳しい原理は分かりません。ですがあるのとないのでは大きく違ってくるのは間違いないです。俺はこれがあるだけで大きくダンジョン攻略の速度が変わりましたから。俺の持っているスキルの一つが、暗視というものでして・・・」


一通り暗視についての説明を終える。どうやって手に入れたのかや、他のスキルも持っていることなどを話すのはやめておいた。こちらは約束が果たされてからの交渉材料にしようと思っている。


「それは、まったくもって初耳だ。というか、なんで灯夜さんまで驚いているんですか。」


「いや、その話は俺も初耳だ。他のダンジョンに行ってみたいだとか、武器がほしいとかその辺の話だとばかり。どうやって交渉するのかと思っていたが、まさかこんなことだとは。どうしてすぐに父さんに教えてくれないんだ、ちょっと寂しいぞ!」


「いや、ごめんって。ダンジョンの攻略に夢中になっちゃったんだ。てか、そんなことより!これ以上の情報は俺の提案を受け入れてくれるかどうかで話すか決めます。ひつようなら俺の強さを確認していただいてもいいですよ。丁度ダンジョンもそこにありますしね。」


「隊長。ぜひ協力しましょう。これは私達の状況を改善するチャンスになるかもしれません。」


「・・・そうだな。水川と同じ意見だ。灯夜さんには息子さんのために尽力していただくことになりますよ。上層部は頭が硬いですからね。」


「ああ、そこは大丈夫だ。ちょちょいのちょいだよ。」


いやあんた何もんだよ。自衛隊の上層部をちょちょいのちょいって。

すこし恐ろしく感じた父さんには今度詰問するとして、俺はこの二人に情報を与えようと考え、口を開いた。


「驚いているところ申し訳ないですけど、スキルについてもう少し説明しますね。このスキルっての、たぶん誰でも取得可能なものとそうでないものがありそうなんです。お互いに協力関係を築けたことですし、実験がてら、試してみませんか、スキルの取得。」


そんなにすぐに取得できるものとは思っていなかったのか、今度は榊原さんまで驚きの表情を晒し俺の顔を見つめる。水川さんに至っては逆にキラキラした目をこちらに向けて早速作業に取り掛かりたいといった表情だ。


俺は父さんに少し離れると言ってから自室に戻り紙の束を持って下に降りる。


そうして榊原さんと水川さんにレベルの表示があることを確認させてもらってから、二枚の紙を取り出し二人の前に並べた。


続いて台所から持ってきた果物ナイフを机に置き、二人に血を一滴、紙の中心にたらしてほしいとお願いする。突然のことに戸惑う二人だったが、躊躇しても仕方ないことを理解したのか、そうでないのかはわからなかったがすぐに二人とも指示通り果物ナイフで親指の先をチクッと刺し紙の上に血をたらす。そしてその紙を受け取った俺は一旦退席して死角となる台所でその血の周りをぐるっと鉛筆で囲んだ。


そうすると俺の時同様血が独りでに動き出し、二人の情報が書きだされる。便宜上、この行為をステータス確認としようか。残念ながらゲームによくあるSTRやらDEXなどの表記は無いのだが。ともかく完成したステータス用紙を二人の前に持っていき、二人が食い入るように紙を見るさまをお茶を飲みながら眺める。


しばらく無言の時間が流れ、内容を確認しおえた二人は俺に説明を求める表情を向けた。


「これは、ステータスと呼ぶのがいいでしょう。一旦出し方の説明は伏せましたが、上から順にレベル、スキル、称号と書いてありますよね?一応その下にある消し跡みたいなものはよくわかりませんが、上の三つならある程度調べ終えました。」


そこで一息ついてから榊原さんの用紙を机の上に置いてもらい、説明をしていく。


榊原さんの持っているスキルは体術:タイプ『柔術』、銃術派生:タイプ銃操術『銃剣』の二つだった。ここに書かれている派生というものは地味に初見だったのだが、そこは今は伏せておこう。推測だが、これは本人の持っている経験や才能をダンジョン内で発揮した際に自動的に得られるスキルだと思われることを説明し、水川さんの方の銃術:タイプ『狙撃銃』も同じ類だと付け加えた。ちなみに水川さんの方には剣術;タイプ『短剣』とあり、俺と同じスキルが発現していた。これは検証の上で役立つだろう。


そして次に水川さんの紙を机に並べてもらい、称号について説明した。もっともこちらに関しては俺もわかっていることの方が少ない。思い当たる節はあるのだが如何せんどうやって検証できるのなわからないのでそこはやっぱり伏せておいた。


水川さんの称号にだけ一つ、『最大射程』とあった。おそらく長距離射撃に特化した人材なのだろうと推測できる。ただ俺の最速と水川さんの最大の違いを考えたときに気になることがあるのだがそれもまた今度だ。


そして次に説明しなければならないこと。それを教えるために二人に右腕を確認してもらうことにした。


またも自身の腕を確認して硬直する二人。こうもころころと表情が変わると面白くてつい意地悪したくなってしまうな。自重自重っと。


もはや言葉を挟むことを諦めたのか、俺の説明をじっと待つ二人。そしてなぜか同じように目をキラキラさせて俺の話を待っている父さんにとりあえずチョップを入れてから説明に戻る。


ざっとポイントの説明をし、取得方法も解説した。二人にはわかりやすいように暗視のスキルを取得してもらい、称号のある水川さんには『最大射程』をセットしてもらった。


ここまでで俺のステータスは伏せたままだが、二人ともそれを気にする余裕もなく、今すぐにダンジョンに行って暗視の効果を確かめたいのかそわそわしだした。


「お二人とも、装備は持ってきているんですか?でしたら裏のダンジョンで効果のほどを確かめましょう。」


「そ、そうですね。隊長!早く行きましょう!」


「ああ、水川君!早く装備を取りに車に戻らねば!」


「え、もしかして父さん置いてけぼり?」


「ただいまー、あ、話し合い終わったみたいね。リンゴ買ってきたから置いてけぼりの父さんはこっちで一緒に食べましょうね。」


「母さん!なんですぐに置いて行かれるってわかったんだい!君は天才なのかい!!!」


急に慌ただしくなったリビングを後にして、俺は自室に戻り装備の準備に取り掛かった。


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場所を移し、ダンジョンの入口へとやってきた俺と自衛隊員のふたり。

水川さんは小柄なその体に大きな銃を背負った格好で、榊原さんは油断なく銃剣を構えたまま、それぞれ緊張した面持ちでダンジョンを睨んでいた。


「ふたりともそんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。先ほども説明しましたが一階層に出てくる魔物は二種類です。正確には三種類なんですがそれは道中で説明します。気を付けていれば弱い敵なんで、リラックスして下さい。」


「まさか、年下に心配されるとは。というか暗視のスキルはここまでのものなのか。明かりで照らしていないのにダンジョンの奥まで見通せるぞ。」


「隊長、これなら突入の際の物資を減らせそうです。それに射撃の精度もこれなら向上するでしょう。待ちきれません、さぁ行きましょう勝利君!」


意気揚々と扉に手をかける水川さん。そして案の定鍵を開けていない扉はガチャガチャいうだけで開く気配はない。


少し照れ臭そうにこちらを見る水川さんが以外に可愛い顔をしていることに気が付いたがすぐに頭を切り替えダンジョンに突入するための気持ちに切り替える。


鍵を開けながら、どういった感じで進んでいくか話を持ち掛けることにしよう。


「まずは俺が先行して敵を見つけます。最初は俺、次にお二人に戦ってもらうことにしましょう。互いの実力も、知りたいことですしね?」


「はは、見透かされていたか。私としても君が一階層を制覇したという実力を知りたいところだったんだ。もっとも先ほど聞いた話だと他のダンジョンで出る魔物の中でもそんなに強そうには思えない相手だったんだが、そこらへんはきっちりと、、くれるんだろう?」


「当たり前ですよ。さっくと、ぶっ倒して見せます。」


そうして俺的には初となるパーティーを組んでのダンジョン攻略が始まった。


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しばらく道なりに進み、最近になってようやく見分けがつくようになった魔物達の足跡を追ってダンジョンを進んでいく。


道中、暗視のスキルの効果に再度感動した二人は、はやる気持ちを抑えきれないのか進む速度を早くできないのかと催促してきた。そりゃもちろんできるが急いだって仕方ないんだしとなだめなければならず、子供に返ってしまったかのような二人に少しげんなりしつつもようやくゴブリンの背中が見えて俺はほっとした気分となった。・・・いや、魔物を見てほっとするってどういうことだよ。


「それじゃ、俺が行きます。」


「ああ、万が一に備えてこちらも援護射撃の準備をしておくよ。」


小声でそう言葉を交わし、俺はゴブリンたちに向かって音を立てながら走っていく。俺の存在に気付いた4匹のゴブリン達は、すぐに振り返って迎撃の姿勢を取った。


俺はそんなことにかまわず、斧を振り上げるようにして豪快な一振り、正面の一体を天井に向かって打ち上げ、続けざま左回りに回転し廻し蹴りで一体を吹き飛ばした。後続の一体を巻き込んでごろごろ転がっていくのを放置し、残る一体がこん棒を横なぎに振るってくるのを斧で正面からタイミング良く叩き落した。強烈な威力を伴った一撃は容易くゴブリンの手をこん棒から離させ尚且つよろめかすことに成功。


俺は下から救い上げるようにしてゴブリンの首を片手で掴み持ち上げ、そのまま壁に叩きつけた。ボキリという乾いた音と、グチャという湿った音が同時にダンジョン内に響き渡り、一瞬の静寂を作る。その静寂をぶち壊すかのように今度は手に持ったゴブリンの死体を、転倒から復帰した二体めがけて投げ放つ。目くらまし程度にしかならなったようだがそれはこちらもわかっている。むしろ飛び散った血が目に入るのを防ぐために掲げた手が視界を遮ることで俺の接近を容易なものとした。


左手で斧を操り、すれ違いざまに顔面へと吸い込まれていく斧。確実な致命傷を与え、尚且つ勢いを殺すためのストッパーとして利用。一歩踏み出し前傾姿勢ぎみの恰好となった俺はで持っていた斧を手放し、右手で鮪切を抜刀。ゴブリンの体を真横に切断し、戦闘に幕引きをした。


「予想以上だ。まさかこれほど荒々しく、かつ巧妙な戦いかたをするとは。装備からしてちぐはぐな印象を受けたがむしろ君が他にどんな戦いが出来るのか気になったよ。」


「接近戦では勝ち目がないですね。悔しいので私達の戦い方もしっかりと見てもらいましょう。」


「そうですね、自衛隊の実力、見せてもらいましょうか。」


一通り感想をいただいたところで次の獲物を見つけるため歩みを再開する。そうしてしばらく歩いたところで既知のルームに行き当たった。


「このルームはゴブリンのルームの様ですね。ざっとみて15体くらいですが挑戦しますか?」


二人は俺の問いに顔を見合って、互いに同時に返答を返してきた。


「「もちろん。」」


ということで、本日第二開戦、自衛隊対ゴブリン隊の火ぶたが切って落とされた。


開幕、ルームに突撃していく榊原さん。その健脚は重い装備を身に着けているとは思えないほどの速度で、またたくまに銃剣でゴブリンたちの体を切り裂いていった。そうして注目を集めている隙に水川さんは俺に背中の守護を任せ、その重たい銃身を地に下ろす。


スコープを取り外し、一回り小さいものに変えた水川さんは、榊原さんの暴れる場所より比較的遠い個体から順に撃ち殺していく。轟音が鳴り響くたびに血しぶきを上げるゴブリンたち。そのどれもが頭を打ち抜かれており、恐ろしいまでの射撃制度が垣間見えた。


さすがにこの音に気付かないゴブリンたちではなく、何体かは水川さんの方へ向かうが、その背後から銃撃音が響き、直後榊原さんに背を向けていた個体に銃弾が浴びせられる。


銃剣を構え、ゴブリンたちの攻撃をいなしながらも正確な射撃をこなして見せた榊原さんも大したものだが、それよりも榊原さんの射撃の腕を信じて流れ弾が当たる可能性を一切考慮しなかった水川さんの胆力も大したものだろう。


むしろ俺が榊原さんの方を見ている間に今度はこちらに背を向け榊原さんと対峙するゴブリンたちの足や頭を正確に打ち抜いていき、負傷したゴブリンに榊原さんが次々と銃剣を突き立て仕留めていく。またたくまに15体のゴブリンたちが死に絶え、戦場に静寂が戻った。恐ろしいまでの手際、傷一つなく終わらせたその実力は、自衛隊の中でもおそらく指折りのものだろう。それもあえて2人での銃撃で終わらせるわけではなく、俺に魅せるための連携だったのだならなおさら感心せざるを得ない。


恐ろしいまでの練度に手を叩いて称賛してしまう。駆け寄って感想を述べようと一歩踏み出した瞬間、背後からぞくりとするとともにザっという小さい音が聞こえた。


振り向きざま斧を振るう。確かに当たった感触はあったものの、斧に血はついておらず、もちろん周囲に血が飛び散ることもなかった。


たまらず後退し、ルームの中に進む。水川さんも俺の動きを察知した瞬間に重い銃をひょいっと持ち上げルームの中に駆けだした。


三人が並ぶ形でルームの入り口を見やる。そこで榊原さんが声を漏らした。


「最悪だ。まさかあいつが発生するなんて。」


敵の姿を見ながら恐怖の色で顔を染める榊原さんと水川さん。

改めて敵のことを観察するうち、その歪さにぎょっとすることとなる。


黒い体表は、ゴブリンや蜘蛛ゴキとそっくりだが、一本足で直立し複数の腕をたらした歪な体とそれを構成する無数のパーツに俺は目を見張った。


「こいつのこと、なんて呼んでます?」


「ああ、俺達の間では―――」


ごくりと息を飲む。榊原さんの言葉が嫌にゆっくり聞こえる。きっと相対するあいつの異様さによって極度に緊張しているせいだろう。


「―――あいつは『死体集め』と、そう、呼ばれている。」


全身を構成する無数のゴブリンと蜘蛛ゴキの体の一部。それらをきしきしと揺らしながら、生み出してしまったであろう怪物が、一歩、戦場に踏み出した。


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・ダンジョン攻略進捗状況

『不知火勝利』

 到達深度  →一階層全域

 討伐関連  →ゴブリン・蜘蛛ゴキ多数・アルマジロもどき5匹

 レベルアップ→無し ※現在Level.2

 スキル   →斧術・剣術:タイプ『刀・短剣』・暗視・マッピング・****

 称号    →セット『最速討伐』・控え『小鬼の討伐者』『蜘蜚ちひの討伐者』


・攻略状況一覧

 各地で一般人の負傷、死傷者が多数。

 自衛隊の中でも時折現れる強力な個体により少なくない被害が出ている。

 数人、レベルアップを果たす。


・【最速・最大】保持者追加情報

 『最速討伐』→不知火勝利しらぬいしょうり

 『最大射程』→水川英理みずかわえり

 『****』→柳日向やなぎひなた

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