光莉のファッションショッピング

 代わり映えのしないショッピングモールだと思うけど、この時期になると早めの店は水着を出し始めたりする。実際ショッピングモール内でも水着セール予告みたいなチラシが貼られてたりしていて夏が近づくのが感じられる。

 まあ、あたしは学校の水泳以外だとここ数年海もプールも行ってないから関係ないけど。


「そういえば2人はここにはよく来たりする?」


 目的地は告げずに前を歩いている光莉は少し振り返ったりしながらそう聞いてくる。


「あたしはまあそこそこくるかな」


 CDとかはここの店なら入荷されないことはないから確実に手に入る。それにギターの弦とかの消耗品と楽譜とかはチェーン店のが見つけやすい印象があってここに来てる。


「俺はまあゲーム買いに来る時くらいか? 本屋とゲーム買いに来るくらいか。でも、本は最近はネットで買っちゃってるんだよな」

「ほうほう、ということは西勢だね」

「うん? まあ……そうなるな」


 夏樹は少し言いよどんだ後に理解したといった感じでそう答える。

 このショッピングモールは大雑把に分けて西側に電気量販店や本屋にゲームセンターなどの店が揃っていて東側はファッション系の店や雑貨屋が並んでいる。他に1階にスーパー風の売り場とレストラン街で地下に駐車場といった作りだ。

 西勢って言い方は聞いたことがないけど、あたしも意味的には理解できた。


「なら今日は東側を歩くよ! 私はそっちの派閥だからね!」

「派閥争いがあることすら聞いたことないが」

「気にしなーい!」

「そ、そうか」


 言葉の意味をちゃんと理解しようとしてるのか夏樹は反応が鈍いというか困ってる。

 とりあえず助け舟出しておこう。


「夏樹。光莉の言うことはそこそこ流し気味で意味だけ理解できれば良いと思うよ」

「そうなのか?」

「うん。夏樹がよく言ってるノリと勢いだけで話してるキャラみたいに思えばいける」

「把握した。たしかに、言われてみればそんな感じだな」


 入り口からモール内に入ってエスカレーターを上った後、すぐに光莉は目的の店にたどり着いたアピールと言わんばかりに飛び跳ねた。


「まずはここだよ! 私が一番よく来るお店!」


 目の前にあるのは女子向けのファッションブランドの店だった。さすがに名前位走ってるけどあたしの着る服とは正反対のブランドだからちゃんと見たことはない。

 スカートやワンピースを中心とした可愛さ重視で学生でも手を付けやすい値段なのが特徴だったはず。たしかに光莉が今着てる服もこの店かそれに近いジャンルのファッションブランドの店で買ったと言われたら納得できる。


「男の俺はまずこないだろうな」

「あたしも入ったことない」


 可愛いのは好きだけど、1人で入るには勇気がいるのとそれに見合う服を持ってない。それこそ制服でくるくらいであたしはちょうどいいと思う。


「ふっふっふ。今日はひとまず青葉ちゃんコーディネートしてみたい日なんだよ!」

「はっ!?」

「モールで何するんかなって思ったけど、そういうことだったか」

「なんで夏樹は納得してんの!?」

「いや、まあ彼氏でもないし女子でもない俺がなんで呼ばれたか正直わからないまま今日来てたからな。でも着せ替えて感想ほしいって言うなら納得はいく……後、純粋に青葉のそういう服装見てみたい」

「え、あ、いやそんな。どういう風の吹き回しなの!」

「だってお前のスカート姿とか小学校低学年より後は制服しかみてねえからさ。趣味がロック系なのはしってるし別に似合ってるからいいけど、こういう機会があるなら見てみたいというのが本音だ」


 味方が消えた。


「ということで、ゴーゴー!」

「俺はここで最初はまってるな」

「ちょっ、光莉引っ張んないで!」


 その後、ごねたりしてみたけどあたしの抵抗は虚しく光莉に店の中に引きずり込まれることになった。夏樹にそういうの見られたりイメージの話は光莉にしたはずなのになんでこうなったんだろう。

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