マジックナイト・ヒカリ

 放課後。帰りのHRが終わってそれぞれが教室からでていく。光莉も「じゃあまたね。青葉ちゃーん!」といいながら体育館方面へ風のように消えていった。演劇部の活動場所よくしらないけど体育館なのかな。

 あたしはあたしで家へとまっすぐ帰った。制服のままゲームするとしわになりかねないので部屋着に着替えてからヘッドギアをつけてベッドに寝転がる。そして、電源を入れて数秒後には昨日ログアウトしたゴルドンの岩の地面の上にたっていた。


「さて、どうしようかな?」


 演劇部の光莉ほどじゃないけどあたしもゲームをやる上では見た目に合わせたRPロールプレイをするタイプの人間だ。そして今のあたしであるヒカリは金髪のツインテを基本としている明るいキャラになる。

 まあ最初の頃は恥ずかしくて仕方なかったんだけどね。ただのオンラインゲームでチャットでするRPとは大違いだった。

 それはさておいて、昨日に結局フレンド登録をナツとはしてない。つまり、ログインしているかどうかはリアル側のチャットやメールがこない限りはわからない。まあVR機器と繋げておけば通知がくるし返信もできるから気にしすぎなくてもいい。

 念のために一度確認するけど連絡は来ていない。つまり今日は少なくとも一緒にやるという流れではないってこと。もしくは夜にもっと人数が揃ったらプレイすることになる。


 あたしは一度マイルームに入ることにした。マイルームは町などの拠点からは自由に入れる個人だけの部屋だ。一応インテリアなどでのコーディネートもできるけれど、やらない人はやらない。基本的に本人が誘わない限りは他人が入ることもできない場所で、アイテムボックスなどがそこに設置されている。いわゆる倉庫だ。

 マイルームに入ってからあたしは鏡の前に立つ。そして装備メニューを開いた。

 あたしは現在初心者を装った初期装備で弓使いクラスになっているけれど、本来よく使っている別のクラスがいくつかある。少なくともソロでやる場合にはそちらでプレイしてたほうがいい。

 あたしは一緒にクラス変更メニューも開いた。クラスは町などの拠点もしくはマイルームにいるときには自由に変更することができる。あたしは現在レベルの低い弓使いから普段から使っているマジックナイトへとクラスチェンジした。


 マジックナイトはその名の通り魔法を使う戦士クラスになる。

 そして初期で装備する服装などから桜色を貴重とした鎧に装備を変える。鎧と言ってもゲームだからスカート型になっていたりして鎧と認識はできるけど可愛さも持ち合わせているマジックアーマーになる。

 ファンタジーでよくある鉄部分はあるもののそれを繋げる布や隙間部分などが桜色なのだ。そして武器は片手でも両手でも持てる大きさのメイスを装備する。


 ついでにツインテールを結わえている紐もリボンに変更して準備完了。


 あたしは改めてゴルドンに戻った後に転移装置を使用してリヴァイアスへと戻った。

 リヴァイアスに戻ると、ゲーム内では1,2を争うプレイヤー密度の街だからこそ、人で溢れている。あたしは人の波に混ざって流されながらギルドへと移動する。ギルドにいく理由は簡単で今日受けられるクエスト探しもしくは一緒にプレイする人探しだ。


 このゲームはクラスでできることが限られている以上パーティプレイ推奨なので、こういうことが必要不可欠である。

 まあ、あたしが使うマジックナイトはゲーム内では比較的ソロプレイにも対応しやすいクラスだけど、高難易度への挑戦とかになると火力不足になりやすい。

 ギルドにたどり着くといつもどおりに人で賑わっている。商人の人が護衛を募集してたり掲示板を除く初心者プレイヤーのパーティがあったりで忙しない。


「あ、ヒカリちゃんやん」


 あたしも遠目で掲示板を眺めながら今日のプレイをどうするか考えていると後ろから声をかけられた。振り向くとそこには水色の髪をしたポニーテールの鍛冶師が立っている。


「あれ、コノミちゃん?」

「なんや久しいなー」


 この子はコノミ。金属系の武器生産クラスを極めようと日々プレイしている女子プレイヤーだ。あたしのメイスを作ってくれたのもこの子である。

 ただ、ここ最近は光莉とのあれもあったし春休みもアバターとか装飾品集めばかりしていてコノミと話す頻度は減っていた気がする。たしかに久しぶり感があるかもしれない。


「たしかに久しぶりだね。でもよく私ってわかったね?」

「そのメイスはウチが作ったんや。それを見間違えるわけないやろ!」


 使わせてもらっている立場で申し訳ないけど、マークとか色とかいろいろつけられる防具とかアバターはともかく武器で見分けはつけられる自信がない。


「それで、コノミちゃんは今日はどうしたの?」

「前から頼んでた依頼が受けてもらえん買ったらしくてな。報酬金受け取りやけど、まあまた再依頼だしとくかな~って」

「なんの依頼出してたの?」

「リヴァイアスの近くのネームドダンジョンあるやろ。あそこのモンスターのドロップ品なんやけど」


 このゲームにはネームドダンジョンとランダムダンジョンが存在する。ネームドダンジョンはずっとその場にある固定のダンジョンで難易度も決まっている。

 ランダムダンジョンは名前の通りランダムに現れては消えるダンジョンだ。フィールドのどこかに不定期的に更新されるものになる。平均的には一度現れたら現実の時間換算で3日前後で消えることが多い。その難易度も様々で掲示板などではどこにダンジョンが現れたなどの情報が絶えることはない。


 ただ、リヴァイアスはゲームの中心的な街の1つのため、周りにあるネームドダンジョンの数も多くて今聞いたことだけだと、どれのことわからかない。


「もしよければ私が行こうか?」

「ほんま? まあ、じゃあひとまず報酬金受け取ったら話きいてもらおうかな。受けるかどうかはその後でええよ」

「おっけい!」


 あたしは現実だと絶対にしないであろう笑顔をサムズアップでそう答えた。

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