青葉と光莉

 昼休みになる。あたしの1年の時の昼休みは1人で校庭の隅で弁当を食べるか夏樹達とどこかで食べることがほとんどだった。しかし、2年になって新しいクラスになってから他時たま攫われるようになった。

 誘拐犯の名前は大川光莉おおかわひかりという。今日はどうやら校舎裏をご所望らしく、人知れず2人で昼食に決定した。


「いやー、今日もいい天気だね!」

「まあ……うん」


 慣れたというより諦めたと言った感情のほうが正しい生返事をあたしは返す。校舎裏の影の中でいい天気と言われても、それならばもっと陽のあたる場所へ行ったほうがいいんじゃないかと思う。しかし、あたしはたった一ヶ月の間でこの光莉という人物のドを超えたマイペースさに対して適応してしまった。つまりそれが諦めだ。


「それで昨日はなんで先にゲームからでてっちゃったの?」


 弁当を開いてから数分後。光莉はそんなふうに話を突然切り出してきた。


「いや、それは……だって、一緒にいる時間が長いほどバレる可能性が」

「それじゃあつまんないよ。というか、一緒にいる時間を作るためにわざわざこんな事してるんでしょ」

「それがそもそも勘違いなんだって」


 この光莉こそがあたしの隠れ蓑でありゲーム内のアオである。

 だが、そもそもこの形はあたしにとっては少し願っていたことではあるけれど大きな勘違いをされている。


「いや、だって鷲宮くんのこと好きなんでしょ?」


 そう。この光莉という人物はあたしが夏樹のことを恋愛的に好きだと勘違いしているのだ。そのうえで、あたしのバレたくない秘密がバレないように入れ替わりを提案してきて、そのまま押し切られる形でこうなっていた。


「だから違うって言ってるじゃん」

「えー、でも前そんな感じだったのになー」


 そもそもなぜあたしと光莉というタイプの違う人間がこんなことになっているかといえば先月まで時間を遡ることになる。


 * * *


 ――新しい年度が始まってクラス替えから数日たったある日、あたしは学校の最寄り駅からそこそこ離れたショッピングモールへと来ていた。理由は可愛いものを買い求めてのショッピングで、学校の友達とか顔見知りにバレないようにわざわざそんな離れた場所を選んで買い物をするため。

 そんな日に学校での有名人である大川光莉とショッピングモールで鉢合わせてしまったわけだ。しかも、偶然にもその日気に入った商品を買った後のタイミングという髪を恨むタイミングだった。


「あー! ねえねえ、あなたって新しいクラス一緒の……そう! 日野青葉ちゃんだよね」


 自己紹介も自分の感覚では目立たないしインパクトもなかったはずなのに、ばっちりと覚えられてしまっていた。


「そ、そうだけど。えっと……大川さんだっけ?」


 本当は知ってるけど、少し覚えてるか怪しい感じで「また学校でね」って流れになってくれればいいと思いながらそう返した。だけど、あたしは光莉という人物を見誤った。


「そうそう! 大川光莉。同じクラスになったね。なんか、あんまり覚えてもらえてない? この後時間ある? せっかくだしお昼とか一緒にさ!」


 光莉はコミュニケーションにおいてかなりグイグイ来るタイプだったのだ。勝手な想像でむしろ話しかけられた結果人気が高いと評価されてると思っていた。


「えっ……いや、まあその」


 そしてあたしはこういうタイプと仲良くなった経験が少ない。そもそも夏樹と金田を覗いたら長い間仲良くしてる人いない。音楽の馬が合う友達もプライベートというか音楽だけの付き合い。

 結果、どっちつかずの言葉が出てきてその後は言うまでもなく押し切られたわけだ。

 そのままショッピングモール内のファストフード店へと連れて行かれたあたしはポテトをつまみながら席に座っていた。


「いやー、でも珍しいね。ここらへんまでわざわざ買い物来るなんて。学校の近くにも大きいショッピングモールあるのに」


 この子が言ったとおりだ。でも、あたしはそこだと知り合いとの遭遇率が高いからここにきている。そもそもこの子はなんでこんなところにきてるの。


「ま、まあこっちのほうが欲しいもの売ってること多くて……大川さんは?」

「光莉でいいよ。私は演劇部の関係でね。あっちのショッピングモールだと品揃えが悪くてさ」


 そういって彼女は買った袋を見せてくる。袋にかいてあるロゴはたしか服飾店のもの。衣装作りとかそういう方面かな。


「へ、へえ……」

「だけど、なんか意外だな」

「えっ!? な、何が」

「青葉ちゃんが持ってるそのお店って確かかわいい系の雑貨屋さんだよね?」


 ワンチャンスバレてないことを祈っていたけれど無慈悲にもそんなことはなかった。

 あたしが今日商品を買った店は女子向けのかわいい系雑貨専門の店だ。多分、知ってる女子は知ってておかしくないし、このショッピングモールに良く来てるならなおさらだ。


「うぅっ……あの、光莉。その、これは……」

「ん?」


 だめだ。察してくれなさそう。もうあたしは白状してストレートに言うことにした。


「あんまり人にバレたくないから隠しておいて欲しいんだけど」

「……鷲宮くんとかにも?」

「なんで、そこで夏樹の名前が出るの!?」


 思わず大声ではないものの大きな反応をしてしまった。


「新しいクラスになってから毎日絡んでるの鷲宮くんだから。それに、名前で呼んでるし」

「そ、それは……幼馴染だからってだけで、別に深い意図はないよ」

「そうなの? でも、幼馴染にもバレてないんだ……」

「むしろあいつにはバレたくないっていうか……」

「なんで? むしろ、受け入れてくれそうだけどなー」

「たしかにあいつは……なんだかんだいいながらも受け入れてはくれそうだけど、でもそれであたしのイメージっていうかさ」

「ふむふむ……じゃあ、バラさない代わりにちょっと今から質問していいかな?」


 何をきいてくるつもりなんだろう。でも、バラさないって言うなら受け入れるしかないかな。


「……なに?」

「青葉ちゃんにとって鷲宮くんはどんな人?」

「ただの幼馴染」

「金田くんは?」

「腐れ縁」

「……ふーん。じゃあ、もし鷲宮くんが違うクラスだったらどうしてた?」

「なにそれ……。まあ、でもどうせ一緒に帰れる日は帰ったりするだろうし、あんまり変わらないと思う」

「金田くんは?」

「あっちから来れば別に話すけど」

「へー……鷲宮くんのこと好き?」

「い、いきなりなに。まあ普通に好きだよ」


 さっきからなんで夏樹の質問ばっかりなんだろう。

 もしかして、光莉ってあいつのこと好きだからあたしのこと探ってる?


「おっけい! つまり、青葉ちゃんは鷲宮くんが好きと」

「……はあ!? な、なにいってんの!」

「いや、きいてる限りそうなのかなって。あ、そうだ。たまに話し聞こえてくるんだけど、ゲームとか一緒にやってないの?」

「やってない。ていうか、あいつはあたしがゲームやってること知らないし」

「つまり、青葉ちゃんはげーむやってるんだね」

「あ……もう、そうだよ。やってるよ!」

「ふうん。じゃあさ、もしよければなんだけど」


 * * *


 ――こんなやりとりがあって今に至る。


 あの時はゲーム一緒にやれる方法があるならやりたいという安易な気持ちと光莉の質問で頭が疲れてたのもあって受け入れてしまったけど、なんでこんな事になってるんだろう。


「でも、すごい偶然もあるよね。青葉ちゃんのキャラの名前がヒカリってさ。ちなみに、なんでヒカリって名前なの?」

「たしか……初めて夏樹の家でやったRPGのヒロインの名前だったかな。すごい好きだ好きだって言ってたから頭に残ってたんだと思う」

「そういうことだったんだ。でも、やっぱり夏樹くん関係なんだね」

「偶然だから」


 あたしは念を入れてそう答えておく。


「そろそろ戻ろう」


 あたしは食べ終わった弁当をしまい終わってから立ち上がる。


「おっけーい! 午後は体育からだしね……あ、そだ。今日はゲームやるの?」

「まあ、少しはやる予定だけど」

「了解! じゃあ後で教えてね」

「わかってる」


 別に夏樹と一緒にプレイするとは言ってないんだけどな。まあ、でも成長とかしたら報告しないと話し合わないし、育ってないクラス育てるなら夏樹とやったほうが効率は良いかもしれないから誘うだけ誘ってみるかな。

 ぼんやりと教室まで戻る道を歩きながらそんな風に思った。


 途中で「夏樹くんのこと考えてる?」とかわけわかんないことを言ってきたヒカリにはデコピンをお見舞いした。

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