16

 それでも行かなければならない。誰にどんなに止められようと……。


『だが、あのアーサー王はまだ本気を見せていないのも事実だ。力の半分も見せておらん。まぁ、分からないでもないが……』


 呆れたように謎の光が言った。


『それだけ、ここで自分の力を見せれば被害がこれ以上になるのを分かっておるのだろう』


 確かにこの光が言っていることは間違っていないような気がする。彼女が放つ魔法のほとんどは、氷系の天候魔法ばかりなのだ。それもかなり威力を押さえてある。それだけで、勝てる相手ではないと分かってるはずなのにそうするのだ。


 ドラゴン咆哮ほうこうを喰らっては、一溜まりもない。だが、どうすればいいのか分からない。


 謎の光はくすりと笑った。


 まただ、竜二はこの違和感に気づいた。この光が生み出しているこのとてつもない魔力の正体は、これなのだ。


 彼は確実に————いや、もう確定している。こいつは、竜だ。だが、その出どころは分からないが、この感じは竜の独特の流れが一瞬漂った。


『ふむ。仕方がない。刻一刻を争うからにはもう、これ以上見ているだけでも辛かろう。今から私の言う通りにしろ』


 と、光が言い出した。


「一体何をすればいいんだ?」


『そうだな。簡単に言えば、お前の魔導士としての力を引き出すって事だな。魔力を上げ、私の魔法をお前に授けよう。まずは右手をこの光に通してみろ! さっきみたいに透き通ったりはしない』


「分かった。あんたを信じるよ!」


 謎の光に言われたまま、竜二の右手をその光にかざして中に吸い込まれていく。


 竜二は自分の右手が本当に吸い込まれていく感覚が不思議でたまらない。


『うむ、これは……。お前の扱えるのは魔力からして火属性魔法だな。お前、運がいいぞ。私と同じ属性魔法だ。もしかすると、私の力を扱えるかもしれん』


 右手に触れる感触は柔らかくとも、少し硬い手である。


 謎の光は面白げに竜二の手をあれこれと触りながら、頷いているように聞こえる。


『今からお前に託すのは火属性魔法でも最強の魔法。一度手に入れれば、後には戻れない。むしろ、副作用が最初だけ働くがそれでもいいというのなら喜んで渡そう。だが、使い時は考えろ。慣れればそこまで反響は無いが、始めのうちは体どうなるのかも分からない』


 そんな楽しげに言われて、竜二は苦笑いをする。


 そんな大魔法を自分に託すほどの人物が、普通、魔導士でない自分に託すはずがない。逆に考えれば、それだけの体制があると考えてもいい。


「……お前はやはり、あいつと同じ竜だったんだな。炎帝竜ジークフリート。俺の探している竜がそこにいるんだろ?」


『やはり最後まで隠し通せるものでもなかったか。そうだ。私が炎帝竜ジークフリートだ。お前に竜の力を与えるドラゴンだ。仕方がない。姿を見せてやろう』


 そう言って、光がみるみる変化していった。そして、ドラゴンの姿へと変わっていく。

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