15

 立ちはだかる木と木を飛び交いながら宙を舞い、綺麗な白銀髪ではなく、金髪の美少女が逃げ、それを黒いドラゴンが追う。おそらく、山の高原に向かっているのだろう。このハーバスの街に来る前に言っていた場所だ。


 その動きに無駄が無く動いている彼女は、空から舞い降りた女神のようだ。


 もしかすると、あのまま戦うつもりなのかもしれない。


 だが、人間の魔導士がドラゴンに勝てるはずがないのだ。紫苑しおんが言っていた通り、逃げるしか他が無い。この近くに竜に対抗できる竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーがいるはずがない。神殺しの魔導士ゴットスレイヤー天使殺しの魔導士エンジェルスレイヤーなどの他の魔導士もいないのだ。


 今までミラがここまでドラゴンに対応できているとは思わなかった。でも、それも限界に近い。


『ほう、あの魔導師、面白い魔法を使っておるな……。奴が憑依ひょういしておるのか……』


 謎の光は、逃げながら戦い続けているミラを見て小笑いしながら言った。


「憑依だと? お前、ミラに取り憑いている誰かを知っているのか? あの金髪は一体誰なんだよ!」


『あの娘が使っているのは天候魔法ではないのか?』


「ああ、そうだけど……」


『天候魔法には火・水・風・雷・氷の五属性に分かれている。そして、その五属性の秘奥義が憑依魔法。つまり、あの娘には他に五つの人格が宿っているって事だ。そして、今、あの娘に宿っているのは伝説の王・アーサー・ペンドラゴンだ』


「アーサー・ペンドラゴンだと!」


 伝説史上に残る人物。そんな事があり得るのかと竜二は焦り、息を呑んだ。


 だが、そんなことがあり得るのかと自分の目を疑う。


『そうだ。あの娘は他の魔導士と少し違う能力を持っておる。だから、魔導士でないお前が言ったところで何も力になることができない。だから、私があえて言おう。逃げろと……』


「だとしても兄ちゃんが言ったんだ! ミラは竜には勝てない。竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーしか勝てないって! だから、俺はあいつを助けて共に逃げる!」


 竜二はそう言い切った。


 向こうの世界からこのリバエスの世界に案内してもらい、そして、短い時間ではあるが自分を守ってくれた可愛い少女。そんな少女を見捨てるわけにはいかない。


 だから、たとえ魔法が使えないとしても、魔導士でなくても、ずっと女の子に助けられっぱなしでは男ではないのだ。


 竜二は未だに竜と交戦中のミラを見続けている。


 だが、意外にも竜と同等に渡り合っていること自体が凄いが、時間がこれ以上長引くと苦戦を強いられる可能性は高い。

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