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 今、竜二は自分の周囲を見渡している。


 この状況の中に、どこからか聞き覚えのない声が聞こえる。それは重みのある深く渋い男の声だ。


 はっきりと聞こえた。


 だが、ミラにはこの声が聞こえないらしい。これは自分に話しかけているのだ。


 だが、その声はなぜか暖かみがある。向こうの方からだ。


 なのに、ここにきてこの先を突破する覚悟が無い。聞こえてくる声の先の目の前に竜が立ちはだかっている。



     ×     ×     ×



 魔法をぶつける。


 ミラ・アルペジオは《集結する雷》の魔法を使って無数の雷を連続して、竜の周辺に落とす。


 数えきれないほどの箇所に雷が落ち、稲妻いなずまが走る。それにドラゴンが起こす風によって、それは威力を増している。ミラは天候を読む天才的力がある。それを利用して自分の魔法を操っているのだ。


 そして、天候魔法の一つである風魔法を使い。飛翔ひしょうし、宙に舞う。


 その間に竜二はミラの魔法をかいくぐりながら、声の聞こえる方へと走り出した。


 魔法によって倒れていく木。宙に舞う葉や近くで流れている川の水。街の方はあれ以来、被害は拡大していない。


 リバエス、アトラス国は豊かな街だ。近隣の国よりも盛んで、自然が多く、食べ物にも困らない地方である。


 そして、ミラは竜の横を通り過ぎて、走り過ぎ去っていく竜二の姿を見て舌打ちをする。


 ————なんで、竜二があっちの方に走っているの? あの顔、なんだか様子がおかしいわ。


 しかし、自分の魔法はただの足止め程度にしかならない。でも、人々が一人でも多く助かるくらいなら魔力が尽きるまで魔法を放った方がマシだ。


 魔法の天才と言ってもミラが竜に絶対に勝てるわけがない。


 ミラはあまり戦いを好まない魔導士である。だが、何も持たない、魔導士でもない善人が目の前で悪意を持った者にやられている姿をみると、そういうわけにはいかないのだ。


 この林で一番高い一本杉で足を止めたミラは深々と溜息を漏らす。


 いくら足止めだといえども、あまりダメージを与えることができなければ意味がない。


 ————もう! どれだけ耐久力が高いのよ!


 ミラはそう思いながらここで大魔法を使っておくべきか、もしくは、禁忌魔法を使っておくべきか。そこまで追いつめられるほどに状況がやばい。


 一時、ドラゴンの動きが止まっている間に考えをまとめる。

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