6

 その直後、突風がこの地を襲い掛かった。雲の動きがおかしい。


 どんどん流れて行く。強い風は止まず、立っていることがやっとだ。


 竜二たちの目の前に予想もしていない事が起きた。はるか上空から大きな音が聞こえる。


 ギャァァアアアアアアアア!


 何かの鳴き声が聞こえてくる。それは耳を押さえても響いてくる。その物体は加速していき降下してくる。


 ————大きな翼。


 それは人間よりも動物の羽よりも大きな翼が目の前に現れたのだ。そして、竜二はその正体が何なのかに気付いた。


 それは黒い翼で世界を恐怖に落とすような生物————黒のドラゴンが舞っていた。


 それは今までの話に出てこない恐ろしくて、不気味な竜。黒龍に近い存在のようなドラゴンは、大きな翼を上下に羽ばたいている。


 それは地上から上空二、三白メートルにいて、すぐそばにいる。


 そうなると、炎帝竜はこれと同等の大きさの竜なのだろうか。ドラゴンの鱗は黒く光っており、鋭い牙が数十本も見える。


 ガァアアアアアアアアアア!


 巨大な竜の鳴き声がこの地一変に響き渡る。


 そして、竜は地上に降り立った。目の前にいる竜二たちの体は震え上がって、一歩でも動けばどうなるか分からない。


 この近くにはハーバスの街がある。それにオリエンも安全とは言えない。炎帝竜ではないこの黒い竜は一体何者なんだろうか。


 それでも普通の人間や魔導士がドラゴンに勝てるはずがない。ましてや、竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーも勝つことができるのかも怪しい。


「おい、あのドラゴン、色が黒いぞ! どうなっているんだ‼」


「分からないわ! でもすごい力よ! これが竜の力……。立っている事しかできないなんて……。でも、どうすれば……」


 ミラは左腕で風を凌ぎながら考える。竜二には何もすることができない。


 白銀の髪が宙を舞い、黒のドレスが風によって激しく揺れる。


 その表情は厳しそうにしており、すごい汗が出ている。だが、ここからどうやって逃げるかが先だ。


「竜二。私が魔法を撃つからそれと同時に逃げるわよ! 天空の空に舞い踊れ! 雷の舞! 流星群アルティメットストーム!」


 そして、ミラは魔法を唱えた。


 すると、空の雲行きが怪しくなり、すぐにこの上空だけが夜のように暗くなる。そして、黒い雲の隙間から何かがやってくる。


 隕石が無数にこちらに向かって加速して落下してくる。一見おとなしそうで可愛らしいミラが、こんなとんでもない魔法を使うとは思ってもいなかった。


「今よ! こっちに走って来て! 竜からなるべく遠くの場所に逃げるのよ! 早く!」


「あ、ちょっ、待て!」

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