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「そうだとすると、その日と同じことが今回も起こりうるかもしれない事だというの?」


「いや、私の情報網によるとね、天帝竜てんていりゅうの方はどこかの魔導士が力を手に入れたらしいわよ。それが誰なのかも未だに分かっていない。だから、炎帝竜えんていりゅうが何の目的で動いているのかもこれで判らなくなったのよ」


 ミラの問いに、サーシャは頭を悩ませていた。


 話はどんどん加速していき、難しくなっていく。


「そう……。炎の魔女でも分からないとすると、少し厄介だわ……」


「だからなのよ。そのためにも本当に紫苑しおんには来てほしかったわけ……。でも、こうなってしまったことには仕方ないわ。彼には紫苑の代わりをやってもらうしかないわ」


 少し困り顔で、深々と溜息をついた。


 竜二はずっと気になっていたこの壮大な魔導書を見つめていた。


「じゃあ、俺は兄ちゃんの代わりにその炎帝竜を倒せばいいんですよね。だけど、ドラゴンには竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーしか倒せないんじゃないんですか?」


「……ちょっと竜二。魔導士でもないあなたが戦えるわけがないでしょ」


「だけど、俺がここに呼ばれた以上、ここに住んでいる人たちが恐怖におびえるのだけは嫌だからな……」


 眉をひそめるミラに吐き捨てながら、竜二はサーシャを見た。


 するとサーシャは、竜二の方を数秒間くらい見つめて、そして、目を閉じると、体から光のオーラが出てきた。何をしているのだろうか。


「竜二君、少しの間だけ私の魔法を貸してあげるよ」


「え、サーシャさんの魔法をですか? でも、俺は……」


「そんなの事は分かっているよ。だから私の魔力を込めた。魔法石を渡す。君の魔力によってその力が変わるようにしてあるから危険じゃない事は保障するよ」


 と、甘い言葉で言ってきた。


 竜二はゆっくりと小さく頷き、ミラは「えっ?」と驚いた。


「サーシャさん‼ あなたは何を考えているのですか! 人に自分の魔法を貸すなんて魔法を聞いたことがありませんよ!」


「あら、ミラは私の魔法を知っているわよね」


「はい、炎属性魔法ですよね……」


「そう、私と彼は同じ属性の魔法が使えるってこと。そして、私は人に魔法を一時的貸すことができる魔法を習得しているのよ。念には念を入れよってね……」


 竜二はサーシャの事を万能な魔導師だと思い知らされた。


「さて、私の魔法を教えるのは明日にしておこうか、いいかい、魔法はその人の思いによって変わるものよ」


「はい、よろしくお願います!」


 竜二は返事をして、サーシャに頭を下げた。


 これが本当に竜の力を手に入れる時が来るとは、まだ、竜二は一つも思っていなかった。

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