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「それで紫苑は魔導士の未来よりも家族を優先した。そして、涼音ちゃんの正体というのが厄介なものでね。神懸かり。それも女神・メーティス。ギリシャ神話に登場する目が見であり、『叡智』や『思慮』及び『助言』を意味する知性の神だったんだよ」


 そう、これは紫苑から聞かされた話だ。


 メーティスの事についてはそれ以上聞かされていなかったと思う竜二に、サーシャが微笑む。


「それにしても神懸かりは相当なレアな存在なの。普通の人間に神が選ぶわけじゃないのだけれど、メーティスは表舞台に現れるような神ではない。時々、体を借りて、意識を乗っ取り、助言をするだけ……」


 それでも、なぜ、メーティスは涼音の体の中に取り憑いたのだろうか。


 そして、サーシャは話を徐々に戻していく。


「つまり、紫苑がわざと竜二君を送った理由は涼音ちゃん、いや、メーティスがそう言ったのだろうと思うよ。そして、彼はこの地を訪れてはいけないとでも言われたのでしょう」


「でも、サーシャさん、そんな事が起こるの? そして、炎帝竜はいつ、どこに姿を現すんですか?」


 口を挟むミラに、サーシャは待て待てと言いたそうに微笑みを向けた。


「そうな。場所はこの近くと言ってもいいわ。いつその炎帝竜が現れるのかはわからない。竜というのはふらっと現れ、ふらっと姿を消す。竜が過ぎ去ったその地は、跡形もなく消し飛んでいくでしょうね」


 竜というのは、人々にとっては厄災であるのだろう。


 話を聞きながら、少しずつ理解していった竜二は頭の中で話を整理する。


「私は昔、二体の竜を魔法学校時代に紫苑たちと見たことがあるんだよ。一体は炎を纏いし竜、そして、もう一体は風を纏いし天空の竜。二体の竜は互いに相手の様子を窺いながら戦っていた」


 昔の記憶を思い出しながらサーシャは深呼吸した。


 彼女の様子が少しおかしい。さすがに竜の話にもなると思い出したくもない話でも思い出してしまうのだろう。額に手を当てる。


「くっ……。すまない……。この話をするのは久しぶりでな。私の記憶も少しとび抜けているところがあるんだ。竜はその昔、おおよそ五百年前に滅んだ古代の生物。現代に生きていること自体、おかしなことなんだ」


「風と炎の双竜。それでその後、竜は?」


「どこかに消えていったよ。山は火山のように燃えてなくなり、竜巻は大きくなりすぎて、対処しきれなかった。私達は竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーを探した。なにせ、魔導士の中でも数人しかいないからね……」


 つまり、再び炎帝竜が現れたのはその前触れなのかもしれない。もしかすると、彼らは自分たちの力を受け継ぐ者を探していたのかもしれないと竜二は思った。

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