フンゴジャッロ(黄茸)の生態
「なーんで、この変態猟奇女の工房に来なきゃならねぇんだよ!」
「それは、ご生憎様だねぇ。私としても古き良きやり方しか知らない、新しい試みを知ろうともしないしみったれた脳筋墓守と話したい訳じゃないからねぇ」
「んだと、ゴラァ!」
「まぁまぁ、種付けおじさんから損害賠償をもぎ取るには、どうしても彼女の協力が必要なんです。どーか、ここは抑えて」
ルロイは『
同じエルフとあって、リーゼとアシュリーは共に面識があるのだったが性格の真反対の両者は噛み合わないばかりか仇敵同士のようだった。
「この前だってテメェ、アタシのダンジョンで妙な液体を撒き散らしたろ!」
「あ?」
「そのせいで、虫型モンスターが大量発生して荒らされまくったんぜい。おい!」
「何を言うかと思えば、最近死体を食い荒らすグールが大量発生するというからグール退治を手伝えと言ったのは君だろうに?だから効率的かつ猟奇的にグールやアンデッドを喰らうゾンビワームを引き寄せる薬液を撒いてやったのさ!」
「おかげでダンジョン荒らされまくりだぜ。今度はあのミミズ退治するのに大変だったんぞ!ああ!!」
「君はジツニバカダナァ。ゾンビワームが土壌をも掘り返してくれたおかげで水はけだって良くなったろうに、おかげで君のダンジョンの土壌は随分豊かになったんじゃないかい?ならむしろ、感謝してもらいたいねぇ」
「ぐぬぬ、この変態サイコ!とにかくおの前やり方は過激だし変なオプションつけるし!とにかく気に入らねぇ!!」
因縁、浅からぬ二人が口論を続けている様子をルロイはあたふたと
「貴様もう許さん!表出てアタシと勝負せいや!」
「あーだから、そういう暑苦しい猟奇的じゃないノリ。私は興味ないんだって……」
アシュリーを煽るのも飽きたと見え、リーゼはルロイに向き直り『
「黄茸ねぇ……」
作業台に証拠となりそうな品々を目の前に、リーゼはまずダンジョンで採取した土くれを薬液の入ったビーカーに突っ込んだ。意外なことに、超レアものとされる黄茸を見てもいつものようにときめかないらしい。
「あまり、興味が湧きませんか?」
「前に見たことがあるんだ。もう十年以上前になるか」
今度は土くれに混ざっていた水晶の欠片のようなものを、実験器具らしきガチャガチャしたレンズで観察しながら呟く。
「やはり、シルキースライムだ。これはそのスライム核の残骸さ……」
「シルキースライム……?」
「簡単に言えば絹の様に白く滑らかな体を持つスライムの、まぁレアものってやつさ。そして、絹の様に希少だからこそこの名が付いた」
「なるほど……」
「シルキースライムは鉱物のしみ込んだ鉱山跡なんかに潜んでいるんだが、大雨や洪水なんかで鉱山の立て坑に水が浸入すると大量発生する事例が古い資料で報告されている。つまりどういうことか分かるかい?」
リーゼの後ろでは、アシュリーがギャリックに作業台を挟んで向かい合い腕相撲で負かされながらも何度も挑戦して憂さを晴らしていた。モリーはアナと喋り疲れてか茶とお菓子を持ってきて今度はギャリックやアシュリーも交えて歓談し始めた。
一方ルロイは、渋い顔をして考えあぐねていた。シルキースライムが湿度や土壌の水分が多い『
ルロイの表情を見て悟ったリーゼが微笑む。
「そう、フンゴジャッロが超レアものとされる理由。それはそもそもこのレアものであるシルキースライムにのみ寄生することで成長する特質ゆえなのさ」
「そのスライム核は、フンゴジャッロが生えていた土壌のすぐ近くにありました。フンゴジャッロがシルキースライムの核に寄生し成長するなら……」
ルロイは自ら持ち帰った黄茸のツボの部分を指先で割いてみた。
「ご名答」
目を細めるリーゼの先にはフンゴジャッロのツボに埋まっていたもう片方のスライム核の破片だった。
「こっちのほうも、答えがでたようだ」
リーゼは先ほど土くれを入れたビーカーに目を移した。ビーカーの中の薬液は乳白色に輝いていた。
「この反応は、シルキースライムが好む土壌だってことさ」
ルロイは目を輝かせる。
「そういえば、ちょうど半年ほど前だったかね。レッジョは台風に見舞われて危うく洪水で街が水没しかけたっけ?種付けおじさんとやらが現れたのはちょうどその台風の前後だったと記憶してるんだがね」
リーゼがルロイにウィンクしてみせる。
ようやく、種付けおじさんを仕留めるカードが出そろった。
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