戦鬼の群れ
『
ルロイとしては複雑怪奇な迷宮を想像していたのだが、中央の柱の周りをこれまた塔全体が
「さて……」
青い顔にした角を生やした黄色くぎらついた目の
既に十から先は数える余裕すらなくなる。
「こりゃ、ダンジョンの
「せりゃ!」
マティスは、重々しいハルバードを振り回し、
次々と敵と切り結び、本調子になっていったのかマティスはハルバードを振り回す速度を徐々に早めて行き、両腕で
ルロイもまた、マティスが
「凄い槍
「なに、年がら年中空を駆け回ってりゃあ、この程度の速度でものが見えるのが当たり前になってくる」
階段を駆け上って行くにつれ、明らかに
塔を駆け上がるごとに敵の質も上がっているのは明白だった。
無敵のように思えたマティスの進撃も次第に鈍り始めていった。それでもマティスが戦闘で押されるというほどの事はなく、問題はやはり次々に階段から襲い来る
マティスの額に汗の玉が浮かびようやく少しばかりの疲労の色が見え隠れする。
「マティスさん、大丈夫ですか?」
「へっ、お前は自分の心配だけしてろ」
多少声の調子を乱しながらもマティスは余裕を見せつける。
当のマティスはと言うと、自分と同じ
お互いに、得物の
「ま、流石にそういつまでも簡単に通してはくれねぇよな……」
すかさずマティスが柄で防ぐと今度は
マティスはハルバードの前部で突きを払い、右足を踏み込みつつハルバードの前後を入れ替え、更に
それにつられて
ルロイは思わず息をのむ。ほれぼれするような技術と力のせめぎ合いである。これなら自分などが心配したことなど
が、ようやく一体倒したと思ったら、今度は槍を下段に構えた
「ギアァァァ」
「ちっ、キリがねぇ!」
幸い、
「悪いな、雑魚とは言えもう俺一人じゃ対応しきれん」
「で、ですよねぇ」
「前言撤回。自分の身は自分で守ってくれ」
マティスが的確な判断を下した結果をルロイに告げる。
それとほぼ同時に、ロングソードと円盾を装備した戦鬼の一体がルロイを睨みつけ
「ははは、ふぅ……やっぱり」
悪い予感はすぐに当たり、
もっとも、こんなありきたりな不幸などルロイ・フェヘールにはもう慣れっこなのである。マティスが先ほどの
「それが、お前さんの
槍で武装した
「ええ、チンクエデアと言うんですが、護身用としてなかなか使い勝手が良い短剣です」
ルロイが右腕に握った剣は、丁度、握り柄の重心の刃が五本の指の分もある幅広の両刃の短剣である。それだけなら何のことはない、マティスの好奇の視線はルロイの左腕に注がれていた。
「ほぉ、で……左手はどうしたい、着ていたケープを腕に巻き付けただと?」
「おかしいですか?僕は公証人で武器の扱いには長けてないですからね。身の回りで使えるものを武器にするんですよ」
ルロイの左腕にはそれまでルロイが羽織っていた黒いケープがグルグルと巻きつかせ、さらに半ばケープをマントのように垂らしている。
ルロイは、チンクエデアとケープをそれぞれの手に持ち、
先に動いたのは
構えたまま全く動じないルロイにしびれを切らし、ストレートにルロイの首筋に向かって剣の一撃を振るってきた。
ルロイはすかさずケープを巻き付けた左腕で斬撃を弾く。
続けての斬撃も、同じように左腕であしらうように弾いてゆく。
次第に剣を振るう
ルロイはその隙を突き、まずはチンクエデアで戦鬼の剣を持った右手首を切り落とす。
続けて、思わぬ反撃に戸惑う戦鬼の喉をその幅広の刃で貫く。
一体倒した喜びに浸る間もなく、今度はルロイの右側面から重そうな戦斧を振りかざした肥満体の
「ゴアァァァ」
「っわ!」
ルロイは慌てて飛びのき、斧の想い一撃を避ける。
ルロイは先ほどの一撃を避け
「そら!」
先ほどと同じく斧を振り上げて突進する
後は倒れこんだ
「ほぉ、やるじゃねぇか」
「いえ、それほどでも」
ケープ術と言う護身術がある。
その名の通り生地の厚いケープや
慣れない戦闘で精一杯でルロイは気が付かなかったが、あたりを見回せば、大方の
つまり、
いや、すでにダンジョンで命を落とした冒険者の末路が先ほど襲ってきた
自分もそれなりに頑張ってみせたがやはり竜騎士は格が違うらしい。ルロイは若干傷と血で傷んだケープを手に取り再び腕を通そうとしたその時。
「――――っ!」
「シャアァァァ」
柱か何か、それまで死角になる場所に隠れていたのだろう。
鎌を持った小柄な
ルロイは、
小柄な
ルロイは、その両端に
しばらくして、何かが砕きへし折れる不快な音が響き、
「ケープで、首をへし折っただと!」
しばらくの沈黙の後、マティスが半ば呆れたように口を開く。
「まったく、ヒヤヒヤものですよ……」
ようやくケープを着直し、ルロイは
ケープ術にはケープを相手の頭部に巻き付けて首をへし折る格闘術もあると言う。
もっとも、高度な技であると同時に特殊な技であるため
そんなルロイにマティスは興味深げに口元を笑わせ問うのだった。
「おい、お前も昔は冒険者だったのか?」
「あ、バレちゃいました」
「お前のような素人がいるか!」
「ま、昔の話ですよ。人生色々。だから、詳しくは聞かないで下さい」
「違ぇねぇ」
自嘲するようにマティスはほろ苦く笑って見せると、もう
「進みましょう」
「ああ」
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