di;vine+sin;fonia ~デヴァイン・シンフォニア~/月ノ瀬 静流 タイトル編(2)



■とにかくタイトルやべぇよ...という事が言いたい


 後半戦は、

 ・なぜ神様と人間が融合するお話だと思ったのか

 ・なぜ物語の黒幕が主人公の母親だと思ったのか


 上記の2点について触れてみようと思います。





■創世「神話」から物語は始まる


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 この国には神がいる。

 輝く白金の髪と、澄んだ青灰色の瞳を有する、天空の神フェイレン。

 神は、この地を治めるために、王族を創り出した。

 王族の血筋には、時折り神の姿を写した赤子が生まれる。彼の者こそが国を治める宿命を背負った王である。

 王は、天空の神フェイレンの代理人。

 地上のあらゆることを見通す瞳を持ち、王の前では、どんな罪人も自らの罪科を告白せずにはいられない――。


「創世神話」よりほぼ全文抜粋

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881135517/episodes/1177354054881135520

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 創世神話から始まる本作の物語――


 ――神話には沢山の意味合いがあります。



 僕も軽くかじっただけなので大した事は言えないのですが、例えば世界中大体どの民族も神話を持っています。その神話の意味合いを分析していくと、その民族が大切にしている事とか、習慣とか、やってはいけない事(タブー)だとか、そういう事が書かれている事が分かります。

 また、話の形を分析する事によって人間がどのように世界を認識し、理解し、その理念によって生きていたのか、そういう事も分かります。


 神話とは、人間が生まれて、社会を形成していく中で避けては通れない、ある意味人類が最初に持った「物語」なのです。だからこそ、そこには多くのヒントであったり、その世界の大本となる人間の無意識が刻まれています。

 

 ・・・ということは、同時にその無意識をくすぐるという性質を利用して政治的な役割を強く持ちます。世界の始まりを持つという事はそれだけで力を得るからです。


 例えば、


 

・「この世界の始まりは神様がアダムとイブを創った事から始まる」 


 

 と信じる人がいたら、その人にとって世界の始まりはアダムとイブが神様によって創られた事になります。



・「この国はイザナギとイザナミが創ったのです」



 と信じる人がいたら、その人にとって世界はイザナミとイザナギによって創られた事になります。そして、信じている神様が異なる人同士が話すと考え方がすれ違います。



 A「神様は1人しかいません」

 B「いや、神様はそこら中にいます」

 A「いやいやいや神様は1人しかいないので、その神様の示したしきたりに従うのは絶対です。だから我らの神に従うべきなんです」

 B「いやいやいや、世界には沢山の神様がそこら中にいるんですよ。それらの神様が怒ったりお恵みを与えて下さるから私ら生きている訳で。その時々に併せて拝み奉る儀式を執り行う事やっとけば大丈夫大丈夫。そんな厳しくいきる必要はなし」

 A「何を―」



 というように、信じる神様と、そこに付随する物語が異なるだけで民衆の考え方が異なってくのです。

 文化による対立というのはこうして起こるといっても過言ではないと思います。

 

 なんたって、認識のベースになっている物語が異なるのですから。

 (ここら辺の話はややこしい物も含めるので簡単に書いてます! ごめんなさい!)


 と言うわけで、物語が神話から始まるというのは、新しい世界を生み出し、その中で物語りを繰り広げる小説として非常に納得がいきます。

 と同時に、この神話はこの作品世界に登場する人達のベースになっている物語ですから、登場人物達の思考や行動を考えていく時に、なんとなく念頭に入れておいて問題ないと思います。

 

 と言うわけで、神話の見方を少し変えてみましょう。

 どういう狙いでこの神話が創られたのか、もしくは冒頭に置かれたのか、僕はこう解釈しました。




■創世神話甘更訳


 この国には神様がいます。

 輝く白金の髪と、澄んだ青灰色の瞳をもっている、天空の神フェイレンさんです。

 凄く特徴的な見た目をしているでしょう? 


 そんなフェイレンさんは、この地を治めるために、王族を創り出しました。

 という事は・・・いいですか? 

 今の王族は神様によって直々に創られた存在なのです。だから偉いのです(正当性の主張)


 しかも、代々王様を勤めるのは神様そっくりの姿をした人だけなのです。(現人神=王族の神格化)

 

 なぜかって言ったら、神様と同じ姿を持って生まれた王族には、ある特別な力が宿るから。(呪術的な力を持つシャーマンは時の権力者になりやすい。例えば卑弥呼)

 

 して、その力とは・・・なんと、全ての罪を見通す力!

 (王様の目の届く所で、悪い事したら神の名の下に極刑に処します)

 

 もし、罪を犯したら・・・神様の代理「人」(あくまで人)であらせられる王様に全てを剥き出しにされて、裁かれてあの世いき確定です。


 そんなの怖いよね? だから人間の皆は、ちゃんと王様に従って、普通に、平和に、平穏に暮らして下さい。神様と皆との約束よ! 

 



■上の訳ってどういう事?


 神話っていうのは、さっきも書きましたがただの物語ではありません。

 時には極めて政治的な物語へと姿を変えます。

 

 なんたって人間の認識を支配するベースとなる物語ですから。 

 

 神様を信仰する人からすれば神話の内容というのは真実になります。という事は神話に出てくる王族というのは、物語の中において本当に偉い存在になるのです。

 この国を創り、この国を長いこと治めてきた神と同じ姿をした人間(神の代理人)。そして、その身にはあらゆる罪を見抜き告解させる力がある・・・

 

 こんなの王族が有利になるためだけの物語にしか見えません。

 という事はを、国民みんなに信じさせるだけで、みんな怖くなって王様に逆らえなくなるって訳です。良く出来てますね。




■神話は科学に引き継がれ


 と言うわけで、創世神話の内容は僕からすると非常に良く出来ていると思います。神話としての原則、役割をしっかり持っているからです。


 ですが、そんな神話君も現代からすればおとぎ話の一種にすぎません。

 神様が地球を、日本を創ったわけがないからです。

 当たり前ですよね? 宇宙が出来たのはビックバンが起きたからで、その果てに偶々条件がいい所に地球が出来て、その中で幾多数多の生態系が生まれて滅びて、その先端に偶々僕ら人間がいる。というだけです。


 ・・・という神話を僕たちもまた信じているから、馬鹿らしく思うんです。僕たちの体には科学という「神話」を信じているんですね。


 それは、作中に登場する登場人物達もそうだと思います。

 物語の主人公であるルイフォンが作中冒頭の創世神話を信じていそうだと思いますか? 多分そんなに信じていないと思うんです。良くある昔話程度にしか思ってないと思います。




■新七つの大罪 = 科学技術によって人間やめます


 科学という物語を持った人間達は、そっちの方を信じ始めます。なぜなら、理屈で考えていった時に科学的説明をした方が納得出来るからです。

 

 そう考えると、SFには宇宙の起源に迫ろうとした物語が沢山あるとおもうんですよね。あれも一種の世界創世の物語を綴った神話であるとも言える訳です。


 と言うわけで、作中における罪=新七つの大罪というのは、作中の創世神話によってどんだけ邪魔な存在かっていうのが分かると思います。要は科学が発達すると、神様としての力が弱っちゃうんですね。「いや、全ての罪を見通す力なんてないから」「そもそもおたくらのいう罪って何?」とか言われたら終わりだからです。


 それに、新七つの大罪っていうのは人体実験や遺伝子改造、有り余りすぎる富を持つ事、など要は宗教を超える力を持たれると制御出来なくなるからやめて欲しいという風にも読み取れるんですよね。

 

 ただの人間が神以外に体を改造したり、巨万の富を持って技術革新を行ったりすると、神様死んじゃうんですよ。


 だって、

 神の代理人は1人しか要らないのです。

 



■神様と人間


 というわけで、「divine + sin 」の意味合いなんですが、

 最初は神様と人間が融合する話だと書きました。

 ですが、多分こう読むのが一番だと今ではより正確だと思います。

 

 「王族+テロリスト」


 です。世界転覆の話である、と読み替えるのが妥当ではないでしょうか。


 人間が罪を背負う事によって、要は禁断の科学技術(おそらく神様の持つ罪を見通す力では太刀打ち出来ない力)をもってして神になろうとする。人が人の領分を超えて、神の代理人のような全ての罪を見通す力のような、人間を超える力を持つことによって、この国を覆う何かをぶち壊そうとしている。


 一言で言うならば神殺しの物語であるとも言えます。


 その点から物語を逆算していって考えた時、ルイフォンとメイシアの出会いというのは、限りなく王族に近い存在と限りなく七つの大罪に近いテロリストを繋げる物語とも言える訳です。

 

 勿論、ぶっ壊れたと言って、それが良い世の中になるとは限りません。というか、物語の目的自体も正直全然分からないというか、寧ろ本番だと思うので、取りあえず僕の予想としてはこの程度に収めておこうと思います。




■余談1 キリファ


 主人公ルイフォンの母親、キリファが黒幕に思えて仕方ないのは、上でかいた事を考えて言った時、一番おいしいポジションにいる人物は誰かという事を考えていったら彼女しかいないかなと思ったからです。


 なぜなら、作中で1番人間辞めてるのは間違いなく彼女です。

 というか、生きているかどうかも分かりませんが。

 

 キリファはケルベロスの中に住まう電脳人として、実の息子である主人公とヒロインを見つめ、物語を俯瞰する者であり、物語が迷路に差し掛かった時に手助けするGMであり、そして何よりも主人公より腕が立つクラッカーです。

 

 ただ、キリファに何かしらの狙いがあるのだとしたら、それは一体なんなんだろう・・・というのは分かりません。物語はまだまだ始まったばかりですしね。

 



■余談2 ホンシュア 


 それから、作中で人間ではなさそうだが人間でもありそうなキャラクターがもう1人います。

 ホンシュアです。

 熱を放出する天使の羽のような機構を付けた彼女は、物語のキーパーソンだと思います。作中世界の中で生存し、且つ神様に一番近い姿をしているのは紛れもなくホンシュアだからです。

 また、ホンシュアは重要な台詞を色々言っており、どれも重要な意味を持っていると僕は思いました。


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「あなたが元気なことが確認できれば、それで充分。顔が見られてよかったわ」

「なっ? なんだよ、それ!?」

 大仰に現れたくせに、顔を見ただけで充分だなんて、あまりにも奇妙だ。彼女が求めているのは、こんなあっさりとした邂逅ではないはずだ。

「違うだろ!? お前は必死だった。何か、深いわけが……」

「ルイフォン、あなたって子は、変わってないわね」

「え……?」

「私があなたに逢うことには、なんの意味もないの。ただ、私が逢いたかっただけ」

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「ごめんね。私……、お母さんじゃ、ないよ」

 喘ぐような高温の息が、ルイフォンの体に掛かる。

「ルイフォン、……ごめんね」

「何を謝っている?」

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「あの子……メイシア。私の選んだあの子を、ルイフォンは……どう思った?」

「え?」

 選んだ――?

 虚を衝つかれたような、告白。

「どういう……?」

「あなたはきっと、私を恨む……。私だって……自分が正しいとは思わない」

「おい、何を言って……?」

「ごめんね……。私が仕組んだの」

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「あの子……は、私のせめてもの良心……。あの子はきっと、私の邪魔をする。――あなたのために」

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「あの子……、いいことを言うわね。『……それがどんなに罪だとしても、私は何度でも同じことをします』」

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「逢えてよかった……『ライシェン』」

5.紡ぎあげられた邂逅ー2https://kakuyomu.jp/works/1177354054881135517/episodes/1177354054886561763

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 一部会話部分だけ抜粋しましたが、滅茶苦茶重要な話です。

 メイシアの父ちゃん救出作戦は全部仕組まれており、鷹刀一族が救出に成功する事は確定的に決まっていました。

 ですが、その中にホンシュアがルイフォンと会う予定はなかったのだと思います。

 その中に無理矢理割り行ってでも、ホンシュアはルイフォンに一目会おうとした、しかもその行為には「意味」がないのだと言います。

   

 ここ、極めて重要な要素だと思います。本来、意味が無いなんて事はあり得ないのです。というのは、ここまで本作を読んできて意味ないなんて事なかったですから。全ての描写に意味があり、読者に伝えるべき情報が丹念に書かれている事は自明の理です。


 つまり、ここでの意味がないというのは、作中に登場す主人公達にとって、或いはディバイン・シンフォニア計画そのものに対してという事であって。読者である僕らには滅茶苦茶意味があります。物語の進行をねじ曲げてでもホンシュアをここで出したかった。何かを伝えたかったというのを強く感じます。

 

 僕の中で、本作には最初から何者かによって仕組まれた陰謀があって、現段階では想定された通りに事態が進んでいると思ったのは、この場面があったからに他なりません。

 ルイフォンとメイシアのボーイ・ミーツ・ガールはホンシュアの差し金で決められた出会いなのです。これ、滅茶苦茶怖くないですか。更にメイシアのセリフを引っ張ってくる所も怖いです。『……それがどんなに罪だとしても、私は何度でも同じことをします』

 前回の考察では、なんとなく罪の意味を辞書的に調べて終わってしまいましたが、それでは作品世界における「罪」とは何なのか見えてきません。

 

 また、ルイフォンの事をライシェンという名前で呼ぶこと、それから記憶改変の力をホンシュアは持ち合わせている事。更に、ホンシュアには何かしらの目的があって、そのためには何度でも罪を犯す覚悟があると行っています。

 おそらく、それはルイフォンであろうとなんであろうと。

 ルイフォンが母親の薫りをホンシュアに見いだしている事から、ヒントが掴めなくはないのですが、しかし、その謎を知るにはまだまだ情報がたりません。



■余談3 タイトルには更に続きがある話

 


 と言うわけで、タイトル編の感想というは考察というか、妄想は以上になりますが、昨日なんとなく月ノ瀬さんの近況ノートを見ていたら以下のような文言を見つけてしまいましたので、最後に引用して終わろうと思います。


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 旧タイトル

『di;vine+sin;fonia ~デヴァイン・シンフォニア~』


新タイトル

『di;vine+sin;fonia ~デヴァイン・シンフォニア|電脳の翼と螺旋の罪~』


副題を付けようか。どうしようか。

https://kakuyomu.jp/users/NaN/news/1177354054886902830

*************************

 

 これは、もの凄く非常に意味のある情報だと思います。 


 無論、このタイトルは実際には付けられる事なく棄却されたタイトルであって、感想の対象外になってしまうと思うのですが、でも、小説を読んで分かりたい、楽しみたいと考えた時非常に魅力的な副題だと思います。


 僕もまだ、色々答えが出ていません。

 が、上に書いたホンシュアのセリフが全てなのかもしれませんね。

 これ以上書くのは正直無粋だと思いますので、 ここまで読んで来られた方も、是非考えてみて下さい。


 それでは以上にて、タイトル編の考察を終わります。

 


 







 



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