第31話 触手だからって毒物扱いされて喜ぶと思うなよ


 学園都市の建物を土台に、液体状のものが固化しながら木のようになり、実をつけているように見える。色も相まって実に気持ち悪い。なんだよこれは。こんな光景を目にして安心なんてできるやついるか?俺たちは再び目の前の光景に唖然とするしかない。液体状のものが俺の方にやって……こようとするが直前で回避しやがる。腹立つな。適当に触手で液体をぶったたく。ぶっ叩くたび液体が泡を吐いて蒸発する。ブレンがあきれたように言う。


「そんなんじゃきりないぞ」

「わかっているが、ちょっと考えがある」

「他にも誰かを助けようってこと?」

「情報収集も兼ねてな」


 エウロパはわかってくれたようだが、こいつが何なのかを把握するためにはもうちょっと情報が欲しい。情報源はこの液体の中だ。中の人などいない、だったらいいのだが、中には相当な数の人がいそうである。しばらく液体を叩き続けると、人の足が出てきた。よし、ラッシュで叩くぞ。触手で繰り返し人の周囲の液体を叩き続けること数分、人全体が出てきた。こんどは頭髪の薄い人間のオスだ。


「液体で頭髪が溶かされたのか……酷いな……」

「ぼくこれは単に元からだと思うよ」


 無言で頭髪の薄い表皮をたたき続ける。ぽくぽくぽくぽくいい音が鳴る。思わずしばらく楽しんでしまった。みんな笑ってる。酷いなお前ら。いや、俺も楽しんでる時点で同罪だが。突然頭髪の薄いオスが飛び起きた。


「うわあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「急に叫び声をあげてどうした」

「うわあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 どうやら俺のことを見て叫び声をあげたらしい。なんでだよ。


「ぼくたちすっかり忘れがちになってるけど、普通はこういう反応すると思うよ、触手に頭叩かれてたら」


 そういうものなのだろうか。こちらとしては(結果論ではあるが)一応人助けのつもりでやっているのに、この反応はひどくないか?


「でもいくらなんでも急に叫ぶなよ」

「……って、なんでこの触手は喋れるんですか」

「紫の小鬼に改造されてな」

「そうなんですか?」

「そうだ。ついでにいうと俺の身体の成分が、この液体と反応すると液体が蒸発するようなので、ちょっと液体をどけていた」

「ひょっとして私を助けてくれたと」


 そうだよようやくわかってくれたか。でも誤解されるのにも、もう慣れた。慣れたくはなかったが仕方がない。それはさておき事情を聴くことにしよう。一体ここで何があったのか知りたいからな。


「それにしても、ここで何があったんだ」

「最初は魔物の襲撃かと思ったのです。しかし、魔物が空から何かを投下してきて、そののちこの街をあの液体が飲み込んでいったのです」

「なるほどね。どう思うエウロパ」

「……まず、空からってのは前にブレンたちが言っていた空飛ぶ道具だよね?あれに何かを積んでいたのか……。それにしてもこの液体って何なんだろう。ぼくたちが触れると紫色の液体になったりするのかな」


 ブレンがエウロパの分析を聞いている。しかしその仮説はさすがに気持ち悪いな。触手になれとは言わないが、液体になるくらいなら人間のメスのほうがまだましだ。


「私たちにもよくわからないのですが、この液体は街の北の川から入ってきて、そのまま一部が固化して学園都市に流れ込んだのです」

「最初は川だったのか……偶然流れ込んだんだろうか……?」


 どこから来たのだろうか、この液体は。偶然とは思えないのだが。色々と考えてみるとこの街を狙っていたんだろう。


「しかし俺の攻撃だけではこの状況は覆せないよなぁ」

「触手以外が攻撃しても同じようにできたらいいんだが」

「できるぞ」

「うわっレナード!いつの間に!」


 レナードが追いついてきたようだ。なんか悪い笑顔浮かべているがなんだよレナード。


「触手の細胞、生物の身体を構成する小さいものだが、寝ているうちに採取して培養している。結構培養が簡単で助かる」

「培養!?」

「触手を増やすようなもんだ。十分に増やしたら武器や防具に触手の細胞をつけておけば攻撃できるし、細胞塊を撃ち込む手もあるな」

「何やってんだお前!」


 たしかにさぁ……俺がペチペチ叩いているだけじゃらちあかないよ?でもね?せめて了承だけはとって欲しかった。


「一週間後には数百タルの触手細胞が用意できる」

「数百樽!?それだけあったらここ奪還できそうだぞ!」


 ブレンも叫んでるが、そりゃ驚くしかないな。ちょっと前まであった絶望感はどこ行った。だがちょっとまって欲しい。


「十分な量の触手の細胞ってやつが用意できるのはいいけどレナード、誰が戦うの?」

「王国軍も壊滅的だ。戦力の半分以上を喪失している」


 そんな情報は聞きたくなかったぞ女騎士よ。戦力なんて用意できないぞ。


「戦力……戦力……触手。あるぞ戦力なら」

「ブレン、この後に及んでどこにあるんだよそんなもの」

「このカードだよ。今まで結構配ってきただろう」

「そりゃ確かに被害者の会はかなり増やしたぞ。でもこのカードが何なんだ?」

「通信できるの忘れてないか?」


 そういえばエルフの魔法で通信が可能になったんだな。


「かといってそんな戦場にみんな行きたいと思わないだろうが」

「妾たちなら不死者を集められるぞ」

「ドラグニュートも集めるわ。こんな状況マズすぎるでしょ」

「いいのか?」

『あの紫のヤツに復讐できるのか?我等も参戦するぞ』

「うおっ!?誰だ!」


 どこかで聞いた声がする。この声……エルフの村の!


「エルフたちも参戦してくれるのか?」

『当たり前だ!そのような存在を放置しておくわけにはいかん!』

『水辺からなら私たちも復讐できますね』

「クラーケンたちもか!」


 参戦もしたくなるか。そりゃそうだろう。性癖まで歪められて実害被ったわけだからな。反撃の1つもしたくなる。俺だっていい加減にしろと思っているんだし。


「結構な戦力が集まりそうだぞ」

「そうか。参戦者の距離にもよるが輸送機を回してもいい。培養の合間に輸送する」

「助かるレナード」

「私たちは王宮にこの話を持ちかけないとな」


 壊滅的な打撃を受けたとはいえ、王宮騎士団など王国軍もまだ戦力が底をついたわけではない。そこに紫ゴブリン被害者連合軍と俺の細胞が加われば、勝機は現実的なものになるのではないか。よし、王宮に向かわないとな。

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