第32話 触手だからって言ってみてやってみてやらせてみせて人は動くと思うよな



 戦力をかき集めるために俺たちは王宮を目指すことにした。レナードがとりあえずの培養細胞(小瓶二本くらい)を持ってきてくれたので、それも皆の武器や防具にかけたりする。効果のある時間はそう長くないという。無論俺自身はその効果は事実上無限である。

 俺自身は武器を持たない代わりに弾を色々ともらった。石の代わりだという。


 そのままレナードの持ってきた輸送機で、王宮の方まで向かうことになった。しかし……王宮までの道も結構な範囲であの紫の液体が汚染している。なんとなく液体は通過しやすいところがあるように見える。


「液体がここまで広がっているとは……」

「もうあと何日持つかわからないね」


 エウロパが紙に何か数字を書き殴りはじめた。計算をしているようだ。


「三日で王宮に到達することになるよこれだと。レナード、その頃に用意できる細胞ってどのくらい?」

「樽すら用意できないぞ」

「……となると最低限の細胞で3日凌ぐってこと?」

「どう思う」

「無理だと言いたいけど、諦めたら世界ごと終わるんだよね……」


 なんてこった。培養細胞が間に合わないとしたら対策って何かあるか?


「あとは魔法とかで対抗するしかないじゃろ。妾たちが踏ん張るしかあるまい」

「そうだけど……どう考えても難しいよこれは」


 紫色に染まる道を無視して輸送機が飛び続ける。道は元の色になったようだ。この辺りはまだ安全なのか。やがて遠くに巨大な建物が見えてきた。王城かあいつが。ここも確実に狙われるだろうな。


 飛んでいる輸送機が唐突に揺れ始める。


 魔法や火砲の炸裂音が周囲にする。ヤバいぞ、この機体も紫の液体のの仲間だと勘違いされている。レナードがなんとか攻撃をかわしつつ近くの森に着陸した。


「ここからどうする?」

「まずは王城の前の城郭都市に入ることにするべきだね。そのあと王国の戦力をなんとか借りられないかを相談するしかないよ」


 ブレンとエウロパが城郭都市の門番に近づいていった。しかし門番は俺たちを一瞥して


「何をしにきた?今この城は火急の事態だ」


 などという。その火急の事態の対策しにきたんだよ。


「私だ」

「騎士団副長!ご無事でしたか」


 助けといて良かった女騎士。女騎士から概略を門番に話してくれているようである。しかしなかなか理解してもらえないようだな。


「いや、騎士団副長のいうことが信じられないわけではないですが……突拍子もなさすぎて……」

「こうやって手をこまねいているうちに紫の液体は王城を目指しているのだ!私もこの触手に助けられてなければ紫の液体の中だ!」

「そこはまだわかるんです。つまりこの触手がねぇ……」

「俺をバカにするのは勝手だが、他にいい案はあるか?」


 実際のところ、触手培養細胞については俺だって半信半疑である。なんだって触手でぶっ叩いたら液体が蒸発するんだよ意味わからん。待てよ待てよ。納得させればいいんだよな?俺は兵士たちに提案してみた。


「なら、だれか俺と一緒に、液体をちょっとでも止めれるか試してみないか?」

「なるほど。まぁ実際見てみたら納得できますよね効果も」


 兵士たちの物分かりが良くて何よりだ。女騎士が同じことを言っているってのは大きいとは思うが。兵士を引き連れてまだ待機していたレナードの輸送機を見せる。


「なっ!?なんですかこれっ!」


 そうか、そりゃ驚くよな。金属の巨大な筒みたいなものが空に浮かんでいたらな。もう慣れたのは俺たちだけだったか。


「これに乗ってあの液体のところに行くぞ」

「もう何が何だか……」


 兵士たちは呆れているようだな。


「俺たちと付き合ったら、このくらいで驚いていたら身がもたないぞ」

「どういうことかわけわからんな」

「触手が喋ってるくらいなんだ、諦めよう。俺は諦めた」


 兵士たちは口々にそんなことを言いながら輸送機に乗り込んだ。もときた道を戻ると、紫の液体が道を進んでいるのを見つけた。その付近で降りる。


「よし。俺と兵士たちであの液体に攻撃してみるぞ」

「大丈夫なんでしょうか」

「ダメならすぐ逃げるか」


 あまり期待されていないな。なら実際どうなるかやってみるのが手っ取り早かろう。液体を触手で叩きつけてみる。相変わらず蒸発しやがる。


「次はそっちの番だぞ」

「……効果はあるんだな。よし」


 兵士の一人が、触手の培養細胞を浸した槍で液体を攻撃した。……蒸発している。


「俺たちにもやれるのか!」

「これなら!」


 兵士たちがそれぞれ液体を攻撃し続ける。結構な範囲で液体が引いていく。これならしばらくは持ちこたえられるかもしれないな。


「効果が続くのは10分程度か」

「そうですね。もう反応しなくなりました」

「しかし、こっちに攻めてこなくなったな。どのくらい攻めないのか」


 しばらく攻撃せずに待ってみる。1時間程度経った後、液体が移動を再開した。


「やはり効果には限界があるようだな」

「それでも結構有効ですよ」


 確かにな。しかもこれ小瓶一本だぞ?もっと大量の攻撃なら液体ごと無くなってしまうんじゃね?


「効果はわかってもらえたか?」

「充分わかった。上に掛け合ってみる」


 意図をきちんと理解してくれて助かる。あとはどれくらいの戦力を出してもらえるかだ。それ次第で勝敗の趨勢が決まると思う。再び俺たちは王城に向かって飛んで行く。兵士たちがそれぞれ上に掛け合いに行くようだ。うまく交渉できるといいんだが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る