第30話 触手だからってそこまで嫌われると泣けてくるのはわかるだろ


 小鳥と女騎士が紫色の液体の中から出てきた。しかも蒸発していきやがる。そこまで嫌われる筋合いはねぇよ。俺はキレそうだった。


 小鳥の方が先に目覚めた。目覚めた小鳥はきょとんとした顔をしているが、しばらくするうちに飛び始めた。そしてブレンとエウロパの周りを飛び回る。俺から隠れるように飛んでいる。そこまで嫌われるのかよ。


 女騎士も目覚めたようだ。ブレンたちの方を見て、そして首を左右に振る。


「ここは……」

「学園都市付近だよ。よく助かったね」


 エウロパのその言葉に僅かに表情を緩めた女騎士だが、俺を見た瞬間にすごい表情になった。


「うわぁあああ!しょ、触手だと!?」

「触手ですが何か?」

「い、いやらしいことをするつもりか!?この私に!?」

「しねぇよ!なんでそんな変態行為をしなければならんのだ!」

「なんだと!?」


 この女騎士、俺が喋ってるのに特に気にならないのか?なんでだよ。


「大体なんで触手と人間が一緒にいる!?」

「強いて言うなら、被害者の会」

「被害者の会だと?」


 会長のブレンがこれまでの経緯をまとめて話してくれた。本当にこの数ヶ月色々ありすぎだと思う。


「一応理解はできた。しかし、その紫のヤツは触手を改造して人間を卑猥なことをさせようとしたんだよな?」

「実際にはしようとも思わないが」

「すぐには信じられないな。見た目的に」


 ひどいなこの女騎士。助けなかったら良かったんじゃね俺。


「そんな酷いこと言っちゃダメだよ。あなたこの触手が助けなかったらあの紫の液体の中だったよずっと」

「そうなのか?ということはこの触手が私に触れた?」

「特に触ってないはずだぞ」

「それ以上近くによるな!くっ……」


 そこまで言わなくてもと、俺は悲しくなってきた。ん?どうしたエウロパ?俺を突っついたあと腕を組んで考え出した。


「うーん……そういえば触手、本当に触っていない?」

「触ってないぞ」

「小鳥は触ったよね」

「触ったな。液体は蒸発したが」

「ということは……女騎士さん。ちょっと頼みがあるんだけど」

「なんだ?」


 なんだか不穏だ。嫌な予感がビンビンする。


「そこにしばらく立っていてくれないかな?」

「何故だ?」

「そして触手。女騎士に触れてみてよ」

「俺はいいけどこいつが嫌がるだろ」


 何をするのかわからんが、嫌がる相手に無理に何かするのはいやだぞ。


「おいお前、触手を使って私にいやらしいことをするつもりか!?そのような恥ずかしめを受けるくらいなら……くっ、殺せっ!」

「別にそんなへんなところに触らないよ。手で触手持てばいいと思う」

「誰がこのような卑猥な触手を持つ!」

「女騎士さん、ちょっと嫌がりすぎだろ」


 ブレンの言う通り、たしかにいくらなんでも嫌がりすぎだと思う。


「……軽く手に当てるくらいなら勘弁してくれるか?」

「ふざけるな触手め!」

「その言い草は、さすがにちょっと酷くはないかのう」


 始祖にもそう言われたぞ女騎士。こうなったら無理矢理しかないんじゃないか?


「みんな!女騎士を押さえて!」

「くっ!何をする貴様らぁ!」

「ごめんなさいね。でも貴女が悪いのよ」


 ファブリーと始祖が女騎士を抑え込む。流石にこの二人を振り払うのは簡単ではあるまい。


「あとは触手を頭から当てて……」

「おいおいおいおい俺を頭に置くな」

「くっ!触手になんか負けないっ!」


 エウロパとブレンが俺を女騎士の頭に乗せる。すると紫色の液体が女騎士から滲み出てきやがった。そのまま蒸発し始める。


「触手になん……なん……あれ?」


 女騎士の表情が変わる。俺も地面に降ろされる。


「この触手ってなんで喋れる?」

「さっき言っただろ紫ゴブリンにだな」

「……私はさっきまで何をしていたんだ?」


 まさか!?エウロパだけは得心した表情を見せる。


「やはりね。女騎士さんがいくらなんでも触手を嫌いすぎたんだよ」

「ということは、さっきまで俺に文句たれてたのは」

「うん。おそらく……紫色の液体」

「何言っているんだエウロパ!?液体に意識でもあるとでも?」

「まだ断言は出来ないけど、可能性はある、かな」


 まぁここまで色々と信じられないことが次々と起きてたから、今更信じられないことが起きてても不思議はないといえばない。


「私をお前たちが助けてくれたのか。礼を言わせてもらう」

「助けたのは触手だかな」

「そうか。助けてくれてありがとう」


 やっぱり紫の液体のせいかよ。何という迷惑な存在だよな。しかし液体のやつ、俺のことを嫌いすぎだろ。


「しかしよく看破できたな。なんでわかった?」

「小鳥に飛びかかってたよね、液体。意識はともかく何らかの『意図』はあるとわかると思う」

「意図があるのはわかったけど、何で俺がそこまで嫌われなきゃならないんだよ」

「触手の体液の何らかの成分がこれにとって猛毒なんだよ……多分」


 多分かよ。しかしそれなら嫌われるのも仕方がないな。あれ、そういえばラコクオーとレナードはどうしたんだ?


「ん?我が愛馬が」

「ご無事でしたか」


 喋る馬ってやっぱり違和感があるよな。ラコクオーも追いついてきた。


「レナードが今こいつの対抗策を開発中らしい。そいつがうまく行ったら世界は救われる」

「そうなのかラコクオー」

「我も言伝を受けただけだからな」


 なんかすごく寒気がする。どこかで自分が増えているような。


「ちょっと具合が悪くなった。一度戻りたい」

「触手大丈夫?リングから体調崩れてるのわかるけど」

「……なんとか戻ろう……っ!?なんだよあれ!!」


 俺が触手で指したその先には、液体が乾いたものが凝固でもしているのか、塔のようになっているところがあちこちにあった。植物の種子のようなものがその先についている。


 ……見たことがあるぞ。あれは……あの軌道塔にぶつかっていた球によく似ている。こいつが!こいつは世界どころかはるか彼方まで汚染しているというのか?

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