第19話 触手だからって舐められっぱなしだと思うなよ


 昨日に引き続き、俺たちが英気を養い温泉宿を満喫していた時、突然宿の主人が駆け込んできた。


「あの、皆さまはお力があるように見受けられますが!」

「まぁそれなりにはあるかの」


 始祖がそれなりだったら、この世界にはそれなり以上の存在はほぼいないんじゃなかろうか。敢えてツッコミ入れずに宿の主人の話を聞く。


「宿で使っている食用油を運んでいた馬車が襲われたのです、巨大な鳥に!しかも何か燃えてるんですよ!全体的に!おまけに額に何かツノが生えてます」

「えっ、それって例のフェニックスじゃ……」


 ブレンのいうとおり、問題のフェニックスだろうな。不死の存在を相手にするのは簡単にはいかないんじゃないかと思うんだが、なんで油なんか襲ったんだそいつも。


「食料としてね」

「えっと、どなたですか?」

「どなたって、私よ」


 うわ、ファブが人間みたいになったじゃないか。しかも胴体に腫瘍?みたいなのがあるのかよ。サイズもエウロパ並みじゃねぇか。


「なんで触手はイヤそうな感じなの?」

「触手生えてないとグッとこないらしい」

「えっ、いやらし……でも待って、触手生えてないとダメってその性癖おかしいでしょ?」


 ブレンの解説を聴いて変な顔してるけど、ファブのやつ、俺のことなんだと思ってんだ?触手なんだから触手以外にグッと来た方が変態だろ。


「触手なんだから同種以外にグッときたら異常だろ」

「……えっと……そうね」


 ようやく理解してもらえた。宿の主人が待っているからそろそろ行こうぜ。俺が聞くのも変だが空気を変えたい。


「ところで宿の人、フェニックスはまだ油を飲んでるのか?」

「そうですね。なんとかできませんでしょうか?」

「いいぞ、訓練の真価を問える」


 ブレンがそんなことを言っているのを聞いて、これだから体育会系は、と俺はげんなりしている。一方、ほかの連中は完全にやる気である。意気揚々とフェニックスを目指して宿を飛び出した。


「あの」


 まだ宿を出ていない俺に宿の主人が何か言いたそうだ。


「何か?俺もこれから迎撃するが」

「あの鳥の怪物を退治してくれましたら、幾ばくかのお礼をしたいと思うのですが……」


 よくよく考えたらあいつら、言われもしないうちに本能で狩りに行ってるのか。文明的な生物である俺としては、文明的なお礼は大歓迎である。


「それはありがたい。さっさと始末してくる」

「よろしくおねがいします」


 宿の主人に言われたのでひとまず俺も奴らに追いつこうと全力で走っているとだ。馬車を横転させて樽の中の油を舐めている鳥を見つけた。変な鳥だな全く。


「なんで油なんぞ舐めているんだこいつ?」

「わからんが、とにかく始末しないとな」


 そういうことならさっさと片付けて宿の主人からお礼を頂戴しよう。タメが長い技も、ヤツがこちらに気がついていないなら使えるというものだ。触手の間にプラズマを発生させる。


「今度は当たるといい!テンタクル・プラズマっ!」


 俺は気合を入れて、ヤツの額に向かってプラズマを投射したのだが……えっ?


「なんで効いてないんだよ?」

「触手よ、あの技は一種の炎のようなものじゃろ」

「そうなるな」


 プラズマはたしかに炎と近い状態であるな。……まさか……。


「炎を纏ってるあいつには効かんのかこの技?」

「じゃろうな」


 始祖はフェニックスの方をチラチラと見ながら呟く。この技使えないのかよ。なんだかなぁ。


「それならどうすればいい?」

「水でもぶっかけてみる。アクアウォおおおぉぉぉぉルっ!!」


 エウロパが水の壁を作り出し、そのままフェニックスに向かって集束させてゆく。水の壁が水の柱のようになっている。これなら……と思ったのだが、水の柱ごと蒸発しやがった。


「これ、倒すの無理かも……」

「そんなもんでもなかろう」


 水を浴びせられたのが気に障ったのか、フェニックスがこちらを睨みつけた。何か奇声を発している。怪鳥音か?


「どうやら怒ったようだな」

「見りゃわかるそんなの」


 フェニックスが飛び立ち、こちらに向かって飛んできた上、炎を吐き出して攻撃してきやがった。思わず俺は叫ぶしかなかった。


「やべぇぞこれ!」


 このまま焼き触手になんぞなってたまるかよ。凄い威力の炎があちこちを焼き尽くしていく。後ろの方を見ると、エウロパたちが水の壁をバリアにして隠れていた。おい!俺だけ置いてくなよ!ブレンが俺に声をかける。


「早く来い触手!」

「そういうことするなら一声かけてくれ!」

「ごめんっ!」


 忘れていたわけでもないようだが、しかしこれでは打つ触手がないな。


「どうしようか」

「やはり水じゃろうな」

「俺たちでは燃えていたら攻撃すらできんぞ」

「全くだ」


 ブレンやラコクオーがいうとおり、物理攻撃組はあれでは近づくだけで大火傷だ。ではどうするかだが……。


「ぼくの魔法で水場に追い詰めるのが現実的な気がする」

「妾の魔法も併せて追い詰めるしかなかろうな」


 水場に追い詰めて落とすしかないということか。しかし魔法しか効かないのか?俺も何かできないものか……。


「触手、例の触手砲で撃ち落としてやれないか?」

「あれだけ飛び回るヤツは難しいぞブレン」

「狙いがつけれればいいんだな?」

「何か考えがあるのか?ブレン」


 いいアイディアがあるなら乗ってやろう、そうしよう。そうしないとこのままでは焼き触手とか焼き馬とか焼き人間だからな。


 始祖とエウロパが魔法弾を連射しはじめる。俺とブレンは走り出してヤツの背後を目指す。フェニックスが炎を吐き出してはいるが、若干弱っている気がする。


 ヤツが二人に気を取られている間に、ラコクオーに乗って俺たちがフェニックスの背後を目指す。いい感じに背後を取れた。よしいいぞ、新技を試すのは今だ。


「ブレン、ラコクオー、頼むぞ」

「わかった」

「うむ」


 ブレンの電撃魔法を、二組の触手のレールを通して走らせる。そして、金属の弾を沿わせ、ヤツの背中を狙う。


「テンタクル・レールガンだ!」


 想像以上に激しい速度で、金属弾が撃ち出される。金属弾の周りの空気が爆ぜる。びっくりして背後を振り返ったフェニックスだが、しかし見た瞬間に


「いってええ!!!」


 触手が何本か吹き飛んだ。痛い、これはちょっと俺にはまだ早かったか。


「大丈夫か触手!?」

「あんまり大丈夫じゃないぞ」


 ラコクオーも耳がキーンとしているのかまともに歩けないようだ。ヤバいなこの技、よほどのことがない限り使うのやめよう。危険すぎる。


「なんじゃなんじゃなんじゃ触手あの技は!危ないじゃろが!」

「すまん、始祖。俺も触手が吹き飛んだ」

「危なすぎるよっ!」


 始祖にもエウロパにも迷惑をかけたな。これはちょっと使えなさそうだ。痛いし。


 しかし、そのかいはあったようだ。頭が吹き飛んだフェニックス、前にラコクオーが浸かっていた温泉の方にそのまま墜落して行く。あれ?温泉に行かない?どこに行く?ブレンが叫ぶ。


「おい、温泉じゃないぞ!あれ火山の火口の方に行ってないか?」

「ウソ!まずいよそれ、フェニックスって火山で復活するんでしょ?」


 そうなのかエウロパ?ヤバいんじゃないかそれ?カギア火山の火口に向かって俺たちも走っていく。フェニックスは火口に向かって墜落していき……マグマに飛び込んだ。


 激しい炎に包まれたかと思ったが、フェニックスが再びその姿を現した。おい、本当に不死なのかこいつ!どうしたらいいんだよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る