第18話 触手だからって不死の存在を相手にするのが楽じゃないとは思うなよ
ファブを連れて温泉宿に帰ってくると、みんな妙な顔をしている。
「触手にラコクオー、そのドラゴンどこで知り合った」
「ドラグニュートのファブリー。よろしくおねがいするわ」
「これはご丁寧にどうも」
ブレンが半ば呆れた顔でいう。
「でもさ、どうやって知り合ったの?」
「ファブリーが傷を治す為らしい」
「ドラグニュートに傷を負わせるってどんなヤツだよ……」
ドラグニュートってそんなに強いのかブレン。始祖とかヴァンパイアも引いてる。
「聞いていいならじゃが、お主に傷を負わせる怪物って……」
「フェニックス」
「げっ」
全員ドン引きしてる。ヴァンパイアが叫んでる。
「フェニックスって、あのフェニックスか!?不死の!?」
そんなヤバめのヤツなのか。どんなんだよこのメンツがドン引きするバケモノってのは。
「おいヴァンパイアの。そんなとんでもない怪物なのかそいつ」
「怪物というより……神か悪魔かってレベルだな。火で覆われてる体表を持つ巨大な鳥だ」
おう……さすがの俺も思わず黙ってしまった。なんなのそいつ?火で覆われてるとかたしかに意味がわからなすぎる。
「そもそも論だが、そいつ生物なの?」
「一応生物じゃと言われておるな。フェニックスにおける単一発生のメカニズムを調べてた学者もおるくらいじゃし」
なにそれも怖い。フェニックスも大概だけどその学者も怖い。触手もプルプル震えるぞそれ。
「よく生きて帰ってこれたね」
「本当に死ぬかと思ったわ。二度と戦いたくない」
「でもそのフェニックス、なんでファブを襲ったんだ?」
「私ってより龍族の村ね、襲われたのは。フェニックスの額に変な触手みたいなのが生えていたわ」
なるほどそれかよ。しかしよくもまぁフェニックスなんぞに寄生できるよなその触手も。
「そいつが操っていたのか……」
「フェニックスが人を襲うなんて普通ならあり得ないわね」
「でもファブリーさん」
「ファブでいいわ」
「じゃあファブ、そうなると……ぼくの考えが間違っていたらいいんだけど、龍族の村に限らず襲われる可能性あるよねあちこち」
「そうね」
そんな火のついた鳥が飛び回ってるとかはた迷惑にもほどがある。え、また戦うの?嫌だぞそんなの。
「そのフェニックスと戦わずにすむ方法ないか」
「あの寄生触手のこれまでのパターン考えたらムリだね、諦めて戦う準備しよう、触手」
エウロパめ、すっかり毒されたな。その一方でエウロパの判断力にはこれまで頼ってきたことを考えると、おそらく戦う準備した方が良さそうだ。しかし一応聞いとこう。
「にしても何故俺たちは襲われる?何をした俺たち?」
「一貫性はあまりないね。ブレンだけブレンが立たなくなって、他の生物は人間様の生物を襲うようにして……」
腕を組んでエウロパが考えている。胸のデキモノは強調しないでほしい。どうせなら触手生えてたらいいのに。
「……ダメだ。ごめん、今ある情報だけじゃわからないよ」
「ヴァンパイア、お主は寄生されていた時の記憶はないのか?」
「全く無いわけでは無いのですが……でも、荒唐無稽すぎて妄想かと思います」
始祖がイラついた表情を見せる。
「それを判断するのは妾たちじゃ!とにかく聞かせてみよ」
「……始祖、あの触手がこの世界の外からやってきたもの、と言って信じますか?」
「なんと」
確かにそれを急に言ったら荒唐無稽だな。だが、こちらからするとあまりに意味不明な行動をする触手に寄生された生物たちのことを考えると完全否定はしにくい。
「はい。その目的ですが、知的な活動をしている有性生殖生物の無性化だそうです」
「はぁ!?」
「でも待ってよ!ぼくたち無性生殖じゃ子供作れないよ!」
エウロパの言う通りだ。そんなのできるわけがない。だが始祖は考えこんでいる。そして。
「エウロパよ」
「えっ、急にどうしたの始祖」
「お主ならわかるかもしれないが、知性を持つ生物にとって、増えるとはどういうことじゃ?」
「……ちょっと待って……」
またエウロパは考えこんでいるな。俺にもちょっと考えさせてくれ。
「もちろん身体が増えるには有性生殖が必要だよ。だけど、知性存在が増えるには必ずしも身体は要らない」
「おいエウロパ何言ってるんだ!?」
ブレンが叫びたくなる気持ちはわかるが、もう少し抑えてくれ。俺はブレンの腕を触手で掴んだ。
「充分に知能の高い生物の脳、いやそれすら要らないかもしれない。情報を制御できる仕組みを増やせれば知性のある存在は増やせるよね」
「そういうことじゃ」
ヴァンパイアもブレンもドン引きしている。そりゃするのはわかるわ。俺だってその結論にはドン引きだよ。
「だからって、何故性を捨てさせようとする?」
「ぼくの推測だけど、性に関するトラブルや競争は絶えないから、かなぁ……」
乱暴すぎるだろそれは。俺も反論したくなってきた。
「性が不要だったら、そんな機構自体生物から無くなっていたはずだぞ?それでも存在するってことは必要だったからだろう」
「触手もそう思う?ぼくもそう思う。でも、その寄生生物はそうは思わないんだよ」
俺としてはそいつらを肯定することはできんな。
「ぬう……頭が痛くなってきた」
「俺もだラコクオー」
体育会系ども頭も使え少しは。とにかく、そこまで根源的に違うとなると最早、これは一種の生存をかけた戦争としか言えないな。
「そうか……俺たち全員にとってそいつらは敵ということでいいな、会長」
「単純にいうとそうなるのか、副会長」
俺たちは戦う決意を再確認しつつ、宿に戻って対策を考えることにした。腹ごしらえしつつ戦略も練らないといけないし、風呂にも入らないといけないし、ファブリーは怪我を治す必要もあるだろう。
別に遊んでいるわけではない。身体を治すのも大事な戦略なのだ。重要なことなので二回言わせてもらう。湯治も美味いもの食うのも大事な戦略なのだ。待ってろフェニックス、全力で身体を治して万全の体制で待ち構えてやるからな!
説得力がないのは気のせいだと思う、たぶん。
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