第20話 触手だからってよーく考えよーお金は大事だよーと思うよな


 火口から復活したフェニックスは、一見ふた回りほど小さくなっている。俺たちも目に見えるダメージこそないがかなり疲労していることは否めない。特に俺。新技が自爆技で触手が数本吹き飛んでしまったので、さすがにちょっとキツい。


 しかしフェニックス、いつまでたっても襲ってこない。なんでだ?いや、襲ってこないならこないでいいんだけども。しばらくお互い無言で相対している。どうにも気まずい空気が流れている。おい誰かなんとかしろよ。誰もしないのか?……仕方ないから俺が空気を読まずに文句言わせてもらうか。


「おい、フェニックス。なんで馬車の油なんか襲ったんだ?」

「えっ?」


 まさかの記憶がないパターンか?まぁあんな触手に操られていたら記憶の1つや2つないのは仕方ないのかもしれないけど。


「覚えてないとか言わないよな?」

「誰かが私を殺したようだが……殺されるまでの記憶がない」


 どういうことだ?そもそも死んだ後の記憶があるとかびっくりなんだが。エウロパが何かフェニックスに問いかけている。


「フェニックス、死ぬ直前の記憶ってある?」

「記憶……そういえば、何者かが変な卵のようなモノを私の額に投げつけてきてから全く記憶がないな」

「そいつってどんなヤツ」

「確か……紫色の小鬼のような……」


 俺とブレンはフェニックスに例の会員証を進呈する用意を始めた。ファブリーも溜息をついている。


「やっぱりなのね……変だとは思ったけど」

「というより今回の一連の事件、結構ヤバいと妾は思うのじゃが」

「どういうことだよ始祖」


 よくわからないが、始祖は何を気にしているのだろうか?


「考えてもみよ。クラーケン、ヴァンパイア、フェニックス……これらがそんじょそこらの弱い存在と言えるか?」

「結構大変だったよね色々と」

「全くです……不甲斐なくて申し訳ない」


 ヴァンパイアからしたら嫌な経験だったろうからな。


「そこより問題はじゃ、フェニックスにすら寄生生物を感染させられたということじゃ。妾だって危ないし、そうなるとほぼ全ての生物が危ない」


 マジかよ。始祖を敵に回したとしたらさすがに大惨事になるとしか思えない。早くなんとかしないと、いずれ第二第三どころかの被害者が出るのは間違いなかろう。だとしてもどうするかとかのアイディアは一切ないのだが。


「困りましたね始祖」

「全くじゃ。その紫のゴブリンとやらをなんとか始末しないと、明日は我が身じゃぞ全生物が」

「しかしその一方で、寄生された生物の知能は下がるんじゃないか?」

「何故じゃ触手」

「ヴァンパイアやフェニックスと相対して思ったんだ。もし高い知性まであるとしたら、俺たちここで生きていられないぞ多分」


 それはそうだろう、知性までコントロールできていたとしたら、今頃俺たちは血を吸われてヴァンパイアの配下か(まぁ俺は無関係だが)丸焼きのどちらかだろう。


「しかしそれより俺にとっては大問題がある」

「なんだよ触手」

「レールガンで頭吹き飛ばしたから証拠の触手付き頭がない」

「えっ?」


 そうだよ俺たちが洗脳後フェニックスと戦って、洗脳を解いた証拠がないんだよ。吹き飛んだ頭がないとなると困るだろ。


「そんなものがなくてなんで困るんだよ」

「宿の主人に討伐した証拠提示できないだろ。どうすんだよ路銀」

「それくらい妾が出してやるわ」


 俺は触手ではあるけどヒモではない。ヒモは嫌だ。ヒモ型動物じゃないんだぞ触手は。


「嫌だよそれくらい自分で稼いで出したいんだよ」

「触手って結構めんどくさい性格って言われない?」


 エウロパに表皮が痛いことを言われる。他の触手に、そういうことを指摘されたことがないとは言えない。実際のところ俺はめんどくさい触手か?


「吹き飛ばした頭がどこかに転がってたらいいんだがな」

「そんな都合よく頭が転がってたら苦労はないわ、あんな景気良く吹き飛ばしおって」


 そんな勢いよくやったっけ?いずれにしろこのまま始祖に借り作るのもなんかイヤだからな。こうなったら何が何でも見つけてやる。


「というわけで俺だけでも探すからな」

「ぼくも探すよ」


 珍しいなエウロパが俺に同調するとは。どうした?


「フェニックスの頭だよ?様々な秘薬の材料になるじゃないか」

「現金だな」

「そうは言うけどさ、金貨100枚にはなるんだよ?稼ぎたいじゃないか」

「よしわかった、やるぞ」


 そこまで言われたらやるしかないじゃないか。文字通り草の根分けて探し出してやろう。俺とエウロパが血眼になって探しているのを他のメンバーは割と冷ややかな目で見ている。しばらく探し回っていると、フェニックスが奇声を発して飛び回っている。


「うわぁああああっ!!な、なんでっ!」


 俺たちが飛び回っているフェニックスの下を見てみると、あったよ。フェニックスの生首。エールの生はいいけれど、フェニックスの生首はあんまり気持ちのいいものでもない。白目向いてるし、なんか気持ち悪い触手うごめいているし。


 叫び回るフェニックスを、なんとか落ち着かせ、キモい生首をブレンたちが拾い上げる。そして袋に詰めて宿に向かうこととなった。


「ふー……キモかった」


 たしかに自分の頭が転がってるのはいい気分じゃないよな。しかもなんかキモい寄生生物がついてるしな。そのままみんなで宿に戻って、宿の主人にありのままを伝える。


「……申し訳ない」


 フェニックスが頭を下げるが、宿の主人は油の件が解決したので特に気にしてないと言っている。ひとまずこの頭を売りに出すとどのくらいになるのか知らないが、宿の主人にも一部分けることとなった。



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