第11話 組合長の説明

 ヴィルギル組合長はグラスに入った酒を一気飲みした後、話し始めた。


「ゴッツの奴が冒険者組合に依頼を出したのはあいつが造った武具の性能をテストするためだ。どんなものかは知らねぇが対魔物で使えるかどうかを試したいと報告が上がっている。」


「ですがゴッツの親方は金欠で困っていました。俺をクビにしたのもそれが理由です。なのに冒険者組合に依頼を出すほどの金をどこから出したんですか?」


 ヴィルギル組合長は馬鹿を見るような眼で俺を見た後言った。


「そんなもん鍛冶師組合が出したに決まってるだろうが。腕の良い鍛冶師が困ってんだ、組合が手ぇ貸すのは当たり前だろうが。そもそも、お前ぇもクビにされたなら一度は組合に報告しろって言われなかったか?」


 俺はあいた口が塞がらなかった。

 なぜならゴッツの親方にクビにされた後、鍛冶師を続けるために冒険者との両立を考えたわけだがそれすらも必要なく、最初から組合に相談すればよかったのだとヴィルギル組合長に言われたのだから。

 とはいえ、冒険者稼業は武器の性能を確かめたり、素材を安価に取るにはなかなか便利なので入ったことに後悔はしていなかった。

 そんな俺の様子を見ていたヴィルギル組合長は酒をもう一杯呷り一息ついた。


「ま、そういうことだ。真実なんて結構呆気ないものだ。ということで、話は終わりだ。」


 急にヴィルギル組合長はすっかりやる気が失せたようで、俺に退出を勧めるように手を振りながらそう言った。


◇◇◇


 俺は組合長室を出た後、組合受付まで戻っていた。

 組合長からゴッツの親方についての情報は聞くことができた。

 とはいえ、疑問が解けたわけでは決してない。

 ゴッツの親方については組合長が言った通りだとしても、何故わざわざ俺みたいな下っ端組合員に組合長自らそのことについて説明してくれたのかの説明が付かない。

 その上、話の内容は受付で済ましても良いくらいの内容だった。

 それに組合長はゴッツの親方が武具性能テストをするために冒険者組合に依頼を出したと言っていたが実際の依頼書には"鍛冶協力"依頼であると書かれていた。

 一言も武具性能テストなどとは書かれていなかったはずだ。

 つまり、組合長が説明したことは真っ赤な嘘ということになる。

 まあ、組合員への融資に関しては受付で本当かどうか確認しても良い内容だけれど。

 受付へ戻った俺はその後、予定通りに組合の鍛冶場を借りて自分の武具を製作することにした。

 今回製作する武具は鎧と金砕棒である。

 鎧については西洋の甲冑ではなく日本の鎧武者のようなものにしたいと考えている。理由は元日本人だからというのもあるにはあるが、西洋より日本の鎧の方が動きやすそうだからである。

 ドヴェルグというのはとにかく足が遅い。俺もドヴェルグとして一般的な足の遅さをしており、この上に動きにくい甲冑なぞ着たら見動きが取れなくなってしまうだろう。しかし、トレントとの戦闘の時に痛感したが防御力は欲しい。

 ならば、動きやすく防御力のある鎧を作れば良いでないかとなり、日本式の鎧を作ろうと考えたのである。

 金砕棒についてはメイスでは攻撃範囲が狭いと感じたので攻撃範囲が広く扱いやすい打撃武器として選んだだけである。


「さて、武具作成といくか。」

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