第5話 見張りたる者

「えっ、いいよ。元々一人旅だし。いつも見張りなんて適当だから」

「ここは危険なんだって。僕は元々夜は強いし、気にしないで寝てて」

 周囲に目を走らせながら、僕はアルマにいった。

「い、いや、まあ……そういうならちょっと寝るぞ。なんだか、ちょっと疲れてね」

 アルマはなにか袋のようなものに入って目を閉じた。

 明かりなど小さな道具しかない闇だった。

 盛大にたき火などを焚いたら、目立ってしまうというのは、さすがに僕でも分かる事だった。

「……ん?」

 なんとなく気配を感じ、僕は迷わず呪文を唱えた。

 真空で作った刃が何かを切断したはずだった。

「アラームなんて鳴らしたら、起こしちゃうからさ……」

 さらに複数の気配を感じた。

「……やっぱり、危険なんだよ。聞いていた通りだ」

 僕は再び真空の刃を放った。

 これなら音も光もないから、アルマを起こさないで済むはずだ。

 今度は空から接近してくる無数の気配を感じた。

「……僕たちの感覚を甘く見ないでね」

 立て続けに呪文を唱え、空から接近してきた何かを全て叩き落とした。

「……アルマを守るためだもん。これはしょうがないよね」

 さらに接近してくる気配が増えた。

「……なにかのニオイに引き寄せられたかな。これは大変だ」

 僕は普段はやらない高速詠唱で、間髪入れず呪文を唱え続けた。

「……こ、これやると、疲れるんだよね」

 一回呼吸を置いて、僕は最高速で呪文を乱発した。

 迫り来る気配の群れはどんどん増えてきた。

「……こ、この野郎」

 僕の中で何かが弾け、辺り一面吹き飛ぶような大爆発が起きた。

「……危ないから使うなっていわれてたのに、ついやっちゃったよ」

 慌ててアルマをみたが、ごく普通に寝息を立てていた。

「……さすがだね。これなら、少し元気よくてもいいかな」

 僕は笑みを浮かべ、しつこく迫る気配に向かって、高威力のど派手な爆発系攻撃魔法を乱射した。

「……僕だって、やれば出来るんだ。なんとしてもアルマを起こさないで守らないと」

 次々に迫る気配に向けて、僕の高速詠唱は切り札の超高速詠唱になっていた。

 僕の手から無数に撃ち出される火球が爆発繰り返し、さすがに気配の数が減り始めた。

「……いいからどっかいけ。痛くしたくないんだよ」

 僕の放った特大の火球が地面の大穴を開け、これが決め手になった。

 全ての気配が消え、アルマが寝ている事を確認すると、僕はため息を吐いた。

「……さて、頑張ろう。ここは危険地帯だ」

 

「な、なに、私があまりも起きないから、ブチキレて暴れちゃったの!?」

 明るくなってあたりの惨状をみたアルマが、僕を慌てて抱き上げた。

「……うん、なんか色々きたから追い払っていたんだ。しつこかったら、ちょっと派手になっちゃったけど。アルマが起きなくて良かったよ」

「馬鹿たれ、そういうときは蹴り起こせ。一人でこんな暴れちゃって、そこまで寝たくないわ!!」

 アルマがため息を吐いた。

「……見張りをやるっていったのは僕だし、疲れていたみたいだからさ。うっかり派手なの使っちゃってさ、心配したけど起こさなくて良かった」

「だから、起こすの。緊急事態なんだから。私もなんで起きないかな。弛んでる!!」

 アルマは笑みを浮かべた。

「でもまあ、やるじゃん。腕は確かってのは本当だね。その派手なやつみたかったぞ」

「……あれはダメだって師匠に言われてるんだ。一回、間違って村の半分を吹き飛ばしちゃって。僕自身も絶対使わないって思ってたのに、なんでか使っちゃったな」

 僕はため息を吐いた。

「なに、やっぱりブチキレたんじゃん。大人しいから、こういうのが怖いんだよね。いやー、みたかったぞ!!」

 アルマは手早く布を片付けた。

「よし、行こうか。寝てないでしょ」

 アルマは僕を抱きかかえた。

「寝ておきなよ。今度は私が暴れる番だからさ!!」

「……暴力反対」

 アルマの腕に抱えられていたけれど、僕は眠る事が出来なかった。

「なに、やっぱり不安なの?」

「……気がつかないかな。囲まれてるよ。それも、結構強い魔物に」

 アルマが辺りを見回した。

「……いるの?」

「うん、まだ遠巻きに様子を伺ってるだけだから、僕たちじゃないと感づかないかもしれないね」

 アルマはそっと剣を抜いた。

「やっぱ、いい奴だな。ここの旅には必要な相棒だよ」

「……相棒?」

 アルマが笑みを浮かべた。

「これが相棒以外のなんだ。まあ、使い魔なのかもしれないけど、そっちはよく分からん。相棒なら分かるぞ。必要な存在ってことだ。背中は任せたぜ。なんてね!!」

 僕は笑みを浮かべた。

「……それいいな。別に、使い魔だからって僕は偉いんだぞとかいう気はないしね。右からくるよ。数は十五。大変だ」

 アルマが剣を構えた時、魔物の一体が飛び出してきた。

 素早く切り捨て、続く魔物の群れをあっという間に斬り飛ばしてしまった。

「……凄い」

「……フン、このくらい呼吸するようなもんだぜ、相棒」

 僕は神経を張り巡らせた。

「うん、もう大丈夫だね」

「よし、進もうか。まだ距離があるんだよね。こりゃ、早くても夕方だな!!」

 アルマが笑った。

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