第6話 隣村にて

「よし、見えてきたぞ!!」

 道の先に、門が閉ざされた村が見えてきた。

「……門の前に立ったら絶対に動かないで。なんなら、手を上げてもいいくらい。そのくらい警戒してるはずなんだ。まして、アルマは人間だもの。僕だってよそ者だからね」

 アルマが笑った。

「猫っぽく縄張りってか。はいはい、刺激はしないよ。暴れたいわけじゃないからさ」

 程なく、僕たちは村の門に立った。

「……手を上げておこう」

 僕はそっと手を上げた。

「全く、私もやればいいんでしょ」

 アルマも手を上げた。

 しばらくして、門の小さな扉が開いて、武装した三人が出てきた。

「へぇ、鎧なんて着ちゃってかえって可愛いし」

「……う、動かないで!?」

 武装した三人は慎重に近寄ってきた。

「何者だ?」

 一人が聞いた。

「ただの通りすがりよ。別に悪さしようなんて思ってないし。この子の使い魔だぞ!!」 アルマは僕の頭を小突いた。

「……使い魔?」

 露骨に困惑した様子で、別の一人が聞いた。

「うん、この子がなんかヤンチャしたらしくてさ。いきなりここにぶっ飛ばされてね。大人しいけど、時々笑みを浮かべて暴れるよ?」

「……そ、そういう事いわないで!!」

 三人の腰が明らかに引けた。

「ま、待て、暴れるな。村長に聞いてくる!!」

「い、いいな。落ち着け!!」

「た、頼むからじっとしてろ!!」

 アルマが笑った。

「ほら、いってみるもんでしょ。ハッタリも重要だから!!」

「……僕、笑みを浮かべて暴れたりした?」

 アルマが爆笑した。

「やってるよ、面白くて!!」

「……そうだったんだ。気を付けよう」

 すぐに門が開いた。

「ほらね、こんなもんだから!!」

「……脅しただけでしょ」

 開いた門から、僕たちは村に入った。


「まあ、ここも似た感じだね」

「……うん、基本的には変わらないって師匠がいってたよ」

 住民の変な視線を浴びながら、僕たちは村の中を歩いた。

「……ああ、最低限の礼儀を忘れてた。違う村にいったら、村長に挨拶しなきゃ怒られるよ。これ、誰でも知ってる常識だから」

「まあ、そうだろうね。村長の家ってどこ?」

 僕は辺りを見回し、興味深そうにみていた人に声を掛けた。

「……あの、村長の家はどこに?」

 その人は頷いた。

「私が村長だ。面白かったので出てきてしまった。まあ、きなさい」

「あれ、いきなり当たりじゃん!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

 通りを歩いてしばらくいくと、大きな家があった。

「うん、そっちのでっかいのはさすがに入れないだろうから、庭でいいかな?」

「でっかいのって、まあ違いはないな!!」

 庭に移動して縁側に座った村長の前で座り頭を下げた。

「ああ、そういうノリなら私は正座でもしとくか!!」

 アルマが正座して頭を下げた。

「これは丁寧に。こんななにもない村に何用かね?」

「……はい、僕はこのアルマと世界を回る旅に出たばかりです。まずは、隣村からと思いまして」

 村長が目を見開いた。

「旅とな。久しく聞かぬ言葉だな。なかなか、興味深い事を始めたな。うむ、なにもないがゆっくりしていくがいい。村を挙げて歓迎しよう」

「……良かった、怒られなかった」

「これで怒られる方がどうかしてるよ。よし、まずは村を歩くぞ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「……出た、探索者のスマイル」

「勝手に名前つけるな。いくよ!!」

 

 村長の家を出て、僕たちは村の中を歩いた。

「うん、取り立てて変わったものはないね」

「……まあ、普通の村だからね」

 村を歩いていると、一人が前に歩み出てきた。

「あ、あの、お願いがあるのですが……」

「……ん、どうしたの?」

 僕が聞くとその人は頷いた。

「はい、この村からすぐにニーケの森という場所があるのですが、主人が朝に向かったまま戻らないのです。あそこで取れる希少な食材がありまして。普段なら、もう戻っているはずなのですが、心配なので様子を見にいって頂けないかと思いまして」

「おう、きたぞこういうの。旅してると結構あるよ。詳しい場所教えて。さらっといってくるから!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「はい、これが汚いですが手書きの地図です」

「はいよ、これなら近づけば分かるでしょ。いくぞ」

「……嬉しそうだね」

 アルマは僕を抱きかかえた。

 村の門に行くと話が伝わっているようで、あっさり開けてくれた。

「よし、この地図だとこっちだな……」

 村から歩いてすぐに、ちょっとした森があった。

「ここだね。とっとと迷子の猫を探すぞ!!」

「……ちょっと待って、魔物の気配が凄いよ」

 僕は神経を尖らせた。

「やっぱり、そうこなくっちゃね!!」

 アルマは僕を肩に乗せた。

「一気に行くぞ!!」

 剣を抜いて走りだしたアルマの前に、さっそく魔物が出た。

「邪魔だ!!」

 あっという間に叩き斬り、アルマは森に飛び込んだ。


「……きたぞ」

 僕は呪文を唱え、全方位に向けて盛大に火球をばらまいた。

 そこら中で爆発が起き、飛びかかってきた魔物を弾き飛ばした。

「こら、手を抜くな。ちゃんと倒せ!!」

 アルマが一体をバッサリ斬った。

「……いや、痛かったら嫌だろうなって」

「馬鹿者、半端にやられるほうが痛いよ!!」

 アルマの肩の上で押し寄せてくる魔物に向けて、ひたすら攻撃魔法を放っていた。

「……なにか、僕ってアルマの武器みたいになってない?」

「おう、気がついたか。ひたすら撃て!!」

 僕は笑みを浮かべた。

「……それなら頑張らないとね。アルマの武器なんだから」

 僕は本気で攻撃魔法を放った。

 火炎系を本気で撃つと一緒に森が燃えてしまうので、氷系に切り替えてひたすら氷の矢を放ち続けた。

 森中が凍り付き、ヒンヤリした空気が流れる中、僕はしつこくやってくる魔物を、氷の矢で撃ち抜いていた。

「さ、寒いって、なんか違うのにしろ!!」

 アルマからクレームが入った。

「……違うのっていったら、あんまり使わない地でいこうかな」

 僕が呪文を唱えると、地面に落ちていた無数の石が浮き上がり、僕の目でも追えないほどの高速発射された。

 それの直撃を受けた魔物はボロボロの穴だらけになって地面に倒れた。

「……痛かったでしょ、ごめんなさい」

「倒しておいて、謝るな!!」

 結局、なんとか全部倒し、森は静寂に包まれた。

「……これ、まずいよ。こんなに魔物がいたんだもん」

「分かってる。急ごう!!」

 アルマの肩に乗ったまま森をいくと、近づく魔物を素早い猫パンチで牽制している人がいた。

「ああ、やっぱりこういう時は猫パンチなんだね」

「……うん、これとっても大事だから、みんな小さな頃から腕を磨いてるよ」

 しかし、どうみても猫パンチで倒せるような魔物ではなかった。

「いくぜ!!」

 アルマが一瞬で間合いを詰め、剣で斬り掛かろうとした時、素早く向きを変えた魔物が前足で払った。

 吹っ飛ばされたアルマの肩から放り出された僕は、正面から魔物と対峙した。

「……ぼ、僕も」

 右手を構え、爪を全力で立てた。

「……やればできるんだ」

 一気にジャンプした僕は、渾身の猫パンチを魔物の顔面に叩き付けた。

「馬鹿者、お前まで猫パンチするな!!」

 立ち上がったアルマが怒鳴った。

「……まあ、みててよ」

 僕は笑みを浮かべた。

 一瞬立ち止まった魔物の顔面に、最高速の往復猫パンチをお見舞いした。

 さらに頭に飛びつき、フルパワーの猫キックをバカスカ叩き込んだ。

「……ちゃんと、爪は入れたよ」

 呟いて地面に下りたところを、魔物の前足で叩き潰された。

「ああ、だからいったのに!!」

 アルマが慌てて剣を構え、魔物に向かって斬りかかった。

 魔物の素早い前足の反撃をかわし、その体に剣を叩き込んだ。

「こ、コイツも固いぞ。どうすんだよ!!」

 僕は押しつぶされたまま呪文を唱えた。

 魔物のお腹が爆発し、魔物は手が付けられないほど暴れ出した。

「だから、半端にやるなっての!!」

「……痛かった。僕の猫パンチじゃダメだったね」

 僕は俯いた。

「馬鹿者、落ち込む前にこれなんとかしろ!!」

 アルマの声に僕は頷いた。

「……そうだった。僕はアルマの武器だった。猫パンチやってる場合じゃなかったよ。真面目にやろう」

 僕は魔物をみた。

「……マズいな。アルマの魔法剣でも抜けないか。魔法防御も高いね。さっきの一撃があの程度だから」

 僕は剣を片手に牽制しているアルマをみた。

「……アルマ、フルパワー出さないと無理だよ。魔法剣と合わせてギリギリっていうのが僕の見立てなんだけど」

 アルマが笑みを浮かべた。

「なんだ、私の実力見抜いちゃったってか。大したもんだね。じゃあ、本気でいこう。かなり速いよ」

「……うん、計算してる。気にしないでやっちゃって」

 アルマは笑みを浮かべ、一瞬姿が消えたように見えた。

 しかし、僕の目はそれをしっかり捉え、最適なタイミングで呪文を唱えた。

 アルマの剣が光輝き、魔物の体に食い込んだ。

「む、無理!?」

「……これからだよ」

 僕はさらに呪文を唱えた。

 魔物の体に食い込んだ剣の光が増し、放電すら伴って魔物を黒焦げにした。

「……よかった、ギリギリだったよ」

「な、なにすんの、先にいえ!!」

 アルマが笑った。

「なかなか、凶暴な猫だねぇ」

「……仕方なかったんだ。こうでもしないと、倒せる魔物じゃなかった」

 僕はため息をついた。

「なにシケた顔してるの。ほら、お父さん連れて帰るよ」

 アルマは再び僕を肩に乗せ、ヘロヘロになっていた人を抱きかかえた。

「おりゃあ!!」

 アルマは元気よく森を駆け抜け、村の門を勢いよく蹴り開けた。

「……だ、ダメだって!?」

「急ぎの用事だ!!」

 すぐにお願いしてきた人が近寄ってきて、アルマの腕に抱えられていた人を抱えた。

「ありがとうございます。酷い怪我をしています。せめて、薬を塗るだけでも……」

 僕は呪文を唱えた。

 アルマの傷が一瞬で治った。

「馬鹿者、もっとはやく使え。自分のも治しなさいよ!!」

「……それが、回復魔法は自分には使えないんだ。僕は大丈夫だよ。この程度の怪我はあり前だから」

 アルマが肩から僕を下ろし、その人に押し付けた。

「この子を治してやって!!」

「はい……待って下さい。薬を塗るどころの怪我じゃないです。骨も何本か折れてますよ!?」

「……あれ、そんなに酷かった?」

「馬鹿者、どこまでボケた神経してるのよ!!」

 アルマが慌てて僕を抱えた。

「どっか、なんか病院的な場所は!?」

「こちらです!!」

 その人に続いてアルマが走りだした。

「ったく、怪我の程度くらい自分で分かれ!!」

「……うん、おかしいな」

 その人が一件の家の前で立ち止まった。

「こちらです」

「任せた!!」

 病院から出てきた人と共に、僕を中に運び込んだ。

 ベッドのような場所に寝かされ、回復魔法による治療が始まった。

「おい、家族はいるのか。呼んだ方がいいかもしれんぞ」

「骨どころか、内臓までやられてるからな」

「……あれ、そんなに。困ったな」

 集まっていた魔法使いの顔が、怖いくらい真剣になった。

「……な、なんか分からないけど、ごめんなさい!!」

 回復魔法の集中照射が始まった。

「……ああ、結構重傷だったみたいだね。この魔力は半端ないよ」

 そんな時間が延々と続き、いきなり病院の屋根がなくなった。

「な、長い。待ってられるか、大丈夫なのかよ!?」

 魔法使いの一人が、アルマに険しい顔を向けた。

「お、おいおい……」

「最善は尽くす……」

 一人が呟き、総勢十名による回復魔法による治療が続いた。

 そして、全員が息を吐いて笑みを浮かべた。

「命拾いしたな。危なかったぞ」

「馬鹿者、なんで気がつかないんだよ!!」

 アルマが僕を抱きかかえた。

「……ごめんなさい」

「ごめんじゃねぇよ。心配させやがって!!」

 アルマは僕を抱えたまま歩き始めた。

「……お、怒ってる。怒ってるよね!?」

「……この馬鹿野郎は。どこまで手間が掛かるんだよ!!」

 アルマが笑みを浮かべた。

「まあ、あの猫パンチラッシュはなかなか良かったな。あれは、速かった!!」

「……うん、これだけはって磨いたからね。普通は逃げるんだけどな」

 アルマは笑った。

「あんなもんが逃げるか。むしろ、ムカついてああなるわ!!」

「……そっか。残念だったな」

 アルマが息を吐いた。

「よし、どっかに宿屋的なのないかねぇ。たまにはシャワー浴びたい時があるぞ!!」

「……ここで人間が入れる宿屋か。そもそも、旅人自体がいないからなぁ」

 アルマはため息を吐いた。

「そうだよねぇ……」

「待って、まずは村の外に出て。迷惑になっちゃうから」

 不思議そうな顔をしたアルマが村の外に出た。

「最初にいっておくけど、これもの凄い魔力を使うから、たまにしか出来ないよ」

 僕は長い呪文を唱えた。

 なにもない草原に、いきなり家が出現した。

「……これ、なに?」

「……うん、村から家を丸ごと召喚したんだ。つ、疲れた」

 アルマが笑った。

「やってくれるぜ、相棒。今日はゆっくり寝ようぜ!!」

「……うん、僕も疲れたよ」

 アルマが僕を抱きかかえ、家に入った。

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