第6話 ソフィア・ルージュという人間
私は今日も自室でこの日記を書いています。ブリニア王国第4魔装大隊に所属する者は小隊の兵士でも日記を付ける事が推奨されています。実際、やっていない者が大半ではありますが。
×月×日 任務開始
この度、私と私の隊は国王陛下より賜っていた、勇者たちの監視及び誘惑という任務を開始しました。
当初、私はこの任務をなめていました。騎士を上回る実力を持っている自分は、戦いを知らない異世界人である勇者などに遅れはとらないと考えていたのです。
また、同時に期待もしておりました。私の場合、少々特徴的な幼少期を過ごしてきたので強者に対する憧れというものが強くありますので。
なので勇者たちが着いたときには、予想通りの軟弱者達ばかりで安心したような、がっかりしたような気持ちになりました。
しかし、私はその中で、私の運命の人を見つけたのです。少なくともその時から今まで、この直感を疑ったことはありません。
その彼は、周りとは違い、自分の知らない場所であるこの世界に対し、おびえるでなく、好奇心を表に表すことなく、静かな観察をしていました。
この人こそが、私の追い求めていた強者なのかもしれない。そう思ったら体が自然に動いていました。そして、私は彼のメイドになっていました。
彼は遠くから見るとあまり目立ちませんが、近くで見ると息をのむような美少年である事が分かりました。彼の表情は邪気のようなものを含んでいながら、目が離せず、そばでずっと見つめたいと思わせました。さながら、我々の一部の者が使うような
「昔の勇者たちは魔王討伐後どうなった?」
こう聞かれたとき、私は不覚にも、うれしく、とてもうれしく思ってしまいました。暗殺部隊の小隊長として、このような、我々にとって危険な人物は排除しなくてはならない。彼は頭がきれすぎる。それなのに・・・・
彼は頭がきれるだけでなく、武道の面に置いても強者でした。この私が、騎士を凌駕する実力を持つ私が、組み敷かれたのです。
気付けば、私は彼に自分の事を、自分の強者に対する憧れを話していました。
彼は困ったようなほほえみをうかべながら、私と付き合う事を了承してくれました。
私は彼に会うまで自分の夫はただ、強者であれば良いと思っていましたが、少し違っていたようにおもいます。
私自身も彼にこんなに惹かれる、彼を好きだと思う理由は分かりませんが、恋人として彼の事を知っていきたいと思います。
私の運命の人に会えた記念に、ここに私の過去を少し書いておきたいと思います。
私は所謂、軍閥の娘として生まれました、いえ、正確には息子と言った方がいいかも知れません。私の母は私を産むと、体を悪くして亡くなってしまったそうで、私が次代の当主になることになりました。
そして、私は男として父にしごかれる幼少期を過ごしました。実戦方式の、体に痛みと共に技を染み込ませるしごきで、何度死にかけたか、自分でも分かりません。
そんなしごきの中でも、私は逃げませんでした。私は、父に憧れていたからです。どんなに厳しい訓練であっても、あの父の力に近づけるのならば、かまわないと、今でも思っています。
私は変なのでしょうか。しかし、男として、一人の戦士として、強い存在に憧れるのも、娘として父に憧れるのもおかしいことではありません。
やがて、父は私を親戚の女性に預けました。結局、彼女は私に名を名乗ってくれませんでしたが、そこで私は女としての戦い方を習いました。
父から習ったような、真っ向から戦う正攻法ではなく、油断させて一撃で相手を仕留める、暗殺者のやり方でした。
私は当年取って、16になりますが、第4魔装大隊に配属されたのが、10歳のときです。軍に入った後、私は父のような人は他にいるのか、もしいるのなら、どんな事を考えて戦っているのか、聞きたいと思いました。
なぜなら、私はもう父とは会えないからです。魔物討伐で亡くなった事を軍に入る直前に知りました。
私は軍内で片っ端から、騎士に、兵士に模擬戦を挑みました。そして、全てに勝ってしまいました。
私にはあだ名が付きました。“ナイトキラー” それが私のあだ名です。確かに私より強い暗殺者はいますが、そうではないのです。私が望む、憧れる強者とは。
あきらめていたのです。父のような人は私の人生の上にはもう現れないのだと。
でも、会えた。今まで仕込まれてきた、こんな口調でも、作った性格でもなく、素の自分で接することの出来る人が現れたのです。
私はどこまでもついていきます、彼に。どこまでも。
彼にこの思いが伝わりますように。
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「ふう、もうこんな時間ですか」
思ったより長い日記になってしまいました。
これから、私はどうなるのでしょうか。影宮様はどこまでご存じで、これからどのようにブリニアと向き合っていくのでしょうか。
明日、私は生まれて初めて、軍に、ブリニアという祖国に反逆行為をとります。“影宮 圭吾は問題なし。特筆すべき特技なし”と大隊長に報告書を提出するのです。
父が生きていて、私の行動を知ったら、どう思うでしょうか。きっと、怒り狂うに違いありません。
でも、私は私で、父は父です。父がその身を国に捧げたように、私も彼にこの身を捧げることができるのならば、本望です。
少なくともこのとき私はこのような事を考えながら眠りました。
彼の真価に、本当の強さに気付くことなく、彼にとっての異世界で、彼が私を頼る事を信じ切って。
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