第5話 未知(?)の操り方

 俺が尊敬してやまない太宰治先生が「人間失格」のなかで使った名言をまた1つ、紹介しよう。


 「女性というものは、休んでからの事と、朝、起きてからの事との間に、1つの、塵ほどの、つながりをも持たせず、完全の忘却の如く、見事に2つの世界を切断させて生きている」


 一晩どころか、会話のなかでさえ切断しちゃってるんですが、どういうことでしょう。


 「すまん、頭痛のせいでよく聞こえなかったみたいだ。もう一度言ってもらえるかな?」

 

 「え、ええ、もう一度ですか。こういうことを二回も言うのは、ちょっと・・」


 「いや、やっぱりいい。なんとなく俺の聞き間違いじゃ無いことが分かった」


 「そ、そうですか。ならよかったです」


 全然よくなんてねえよ。確かに女に告られた経験はあるが、こんな意味不明な物は無かった。う〜ん、考えろ、俺。


 まず、俺は最初からこいつを言葉責めにして、逃げられないように腕をつかんだ。最後には、腕をひねりあげて、ベッドに押し倒した。


 あれ、惚れられる要素皆無じゃね? というか普通に元の世界とかだったら、通報されても文句言えないレベルの行動だね。理解できん。唯一考えられるのは、


 「お前、マゾか」


 「?、マゾってなんですか?」


 「い、いや、知らないならいい。それよりもなんで俺に恋人になって欲しいんだ?」


 「えっと、こう見えて私、そこらの騎士より強いんです」


 え、騎士弱くね。じゃあ、俺、騎士より強い人を組み敷いてたわけ?


 「それで、前から夫にするなら自分より強い人にしようと考えていて。他の勇者様達がはしゃいでいるなか、独りだけひっそりと周りに気を配っていたあなたなら、と思ってあなたにしようとしてたんです」


 「それで、俺はあんたのお眼鏡にかなったってこと?」


 「ええ、私は一応この国の暗殺部隊の隊長を務められるくらいの実力を持っていますが、影宮様はいとも簡単に私を押さえてしまいました。だから、恋人になって欲しいんです」


 「正直言って困る。俺はあんたが思うほど立派な人間じゃないし、初対面の人間をそこまで信じない方が良い」


 「ですけど、私は・・・・・・」


 俺何も悪くないのに、めっちゃ正論なのに、ちょっと罪悪感を感じるな。少し楽しいけど。


 「ぷ、ふふふふ、そんな顔するなよ。俺がいじめているみたいじゃないか」


 「なにがおかしいんですか。私は真面目なのに」


 「まあ、俺の話を最後まで聞けよ。ようは、俺が言いたいのは俺たちはまだお互いのことをよく知らないだろうってこと。だろう?」


 「それはそう、ですけど、・・・」


 「だからさ、結婚なんて進んだところからじゃなく、まず、普通に恋人として付き合ってみないか?」


 「え、いいんですか?」


 「その代わりといっても何だけど、もちろん、協力はしてもらうからね」


 「はい、喜んで!」


 良かった〜、コレで断られたら気まずいどころではない。冗談抜きで。メンタルがジェンガのように崩壊する。

 久しぶりに未知というものに会った気がするよ。まあ、協力者が得られるのはいいことだし、良しとするか。

 こいつは見ていても飽きなさそうだしな。


 「そう言えば、さっきの“もう”てどういう意味なんだ?」


 「ああ、それは私たちが“覚醒”と言っているもので、勇者方は大抵一晩くらい経つと、こちらの世界に対応します。すると、髪の色が変わり、自分の能力について情報を得ると言われています。今影宮様は銀髪になっています。こんなに早く覚醒したのは影宮様くらいだと思いますよ。流石ですね!」


 「ふ〜ん、頭痛を伴うのもそのせいなのか?」


 「いえ、あまり聞いたことがないですけど」


 う〜ん、早く覚醒したのは、俺が人間じゃないからかも知れないな。頭痛も。少し“考え”た方が良いな。


 「なあ、話変わるけど、チェスって分かる?」


 「ええ、この世界にもありますけど、要りますか?」


 「ああ、頼む」


 「分かりました」


 パタン


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 「この度は、よくやったぞ、シャーリー。リリーの手伝いがあったとはいえ、おまえは、勇者の召喚に成功したのだ。さすが私の娘だ」


 「ありがとうございます、王よ」


 よくいう、どうせ全員自分の傀儡にするくせに。

 我が父、アンドリュー・ジ・ブリニアは娘たる私、シャーリー・ラ・ブリニアから見てもだ。

 勇者達の利用など無謀なことに手を出すほどに。どんな手を使って王になったかも知れたものではない。


 「おめでとうございます、王よ」


 「おう、リリーか。おまえも大義であった」


 「いえ、全てはシャーリー様の力にございます」


 「何を言う、お前あってこその我々なのだ」


 来たわね、リリー・アシフォード。この女が宮殿に来てから父の欲は増大してしまった。

 早々に何とかしなければ。父が暴走したら、最悪世界が滅びてしまう。歴代の勇者並の力を利用すれば簡単なことだ。


 だが、このときまだ、シャーリーもリリーも知らなかった。大魔王よりも、アンドリュー王よりも世界を混沌に追い込める男の存在を。


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 「持ってきました、影宮様。コレで良かったでしょうか」


 「ん、ご苦労様。上出来だ。じゃあ、ソフィア、おやすみ。今日はもう帰っても良いよ」


 「え?」


 「ちょっと、今日はこっちに来たばかりだから、独りにしてくれ」


 「・・・・分かりましたよ」


 まあ、言いたい事は分かるが、今は勘弁してくれ。

 ふふふ、ワクワクするよ。

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