第4話 彼らの目論見
いいねえ、わくわくするよ。後見人争い以来こういう駆け引きじみた展開はなかったからね。
元来、圭吾はその最適化された脳のおかげで何をするにも障害と呼べるようなものが人生上に存在しなかった。しかし、後見人争いで見た人間の負の部分というものは圭吾にとって初めての経験であった。そして、その経験は圭吾の人間観察という趣味における好奇心を大いに刺激するものであった。その機会が再び巡ってきたのである。これが興奮せずにおられようか。
「それじゃあ、2つ目の質問だ。この城に図書館みたいな場所ってある?」
「え?、ええ、はい、ありますけど、それがどうかしましたか?」
「いや、この世界の知識が欲しくてね。あとで案内してもらえるかな」
「かしこまりました」
これは圭吾がよくやる質問方法である。1つ目の質問で相手の思惑を見破っているかのような質問をすることで、相手を動揺させる。そして、2つ目の質問で一旦、その話題から離れる。この事によって相手は安堵する。あらかじめ、3つの質問であることを言ってあるから、あと質問は1つだけと言う認識が頭の片隅にあるから、更に相手は気が抜ける。
ここからが正念場だぞ、俺。仕上げといこうか。
「3つ目の質問だ。昔の勇者たちは魔王討伐後どうなった?」
「え・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした? 答えられないのか? どうなったんだ?」
「それは、えっと、その・・・・・」
「答えてもらうぞ、何としてでも、な」
いつの間にか、圭吾の左手はしっかりとソフィアの腕を握っていた。すると、彼女はうつむいてしまった。
む、まずいな。元の世界では大体のやつがこれで落ちるんだがな。うつむくってことは何か考えている。こういうことも今後から考慮しなければな。魔法的な縛りか、はたまた忠誠心か。時間がなかったとはいえ、少し強引すぎたか。
圭吾がこんな強硬策を取ったのは、部屋がある階に着いたときのリリーとかいう魔法師がほんの少し笑ったことが気になったからであった。一国の中でその国の将来を左右する俺たちへのレクチャーを任されるようになるには、ポーカーフェイスくらいはできなくてはならない。そんな人間が笑ったのである。ほんの少し、邪悪な雰囲気で。部屋付近で笑ったということは部屋で、またはその近くで何かがあるということになる。
「おい、一度こっちを向いたらどうだ。俺から目をそらすな」
「・・・・・・・・・・」
そう言っても彼女はうつむいたまま。
仕方が無い。魔眼とやらを使って、記憶をのぞいてみよう。そう考えた瞬間、頭に激痛が走った。
「う!?、ぐ、ああ」
「まさか、もうですか」
「く、なにがだ?」
「それを教える前に、離してもらいます」
彼女はそう言った途端、圭吾の腕をふりほどき、ベッドの近くまで後退した。
「ほう? やっぱり普通の女ではないようだな。いくら頭痛がしているとはいえ、俺の腕をふりほどける奴はそういない。まあ、そのあたりも教えてもらうがな」
「あなたは危険です。ここでリタイヤしてもらいます」
頭痛が治まってくるにつれ、圭吾の頭には自分の能力の使い方が自然に浮かんできた。
記憶を見るには、相手の目を覗くだけでいいらしい。これは魔眼のパッシブスキルでOFFにすることは不可能。
さて、見せてもらうぞ。お前の記憶を。何を企んでるんだ?
“キイイイイイイイイイイイン”
ふ、まるで万華鏡みたいだな。
「なにをしているんです?」
「さてな、当ててみろよ。それより、リタイヤさせるんじゃ無かったのかよ?」
「言われずとも!」
かけ声と共に彼女はどこに隠し持っていたのかクナイのようなナイフで突いてきた。
しかし、圭吾はゆったりした動きで紙一重にナイフをかわし、彼女の手首をとり背中にひねりあげ、空いた手で彼女の口を押さえ、そのままベッドに押し倒した。
「うぐ!?」
「驚いたかい? 俺を他の戦闘経験ゼロの奴らと一緒にしないほうがいいぜ」
圭吾は幼少期から友達と呼べる人間が少なく、ひとりぼっちだった。親にも気味悪がられた圭吾は近所の空手道場に通い始めた。ひとりぼっちの寂しさを紛らわすように稽古に励んだ。その結果、圭吾は大会こそ出なかったものの、その道場では半ば伝説とされるようになったのだった。
「さて、もう一度俺の目を見てもらうぞ」
“キイイイイイイイイイイイン”
ふむ、俺を殺そうとしたのは魔法的な縛りではなく、忠誠心からの行動か。また、ソフィアから読み取った記憶を整理すると、要点は2つ。
1つ目は未来のこと。俺たちを強くし、魔王達を倒させ、疲労したところでリリーが魔法で絶対遵守の刻印を俺たちに植え付け、他の国を占領させようという目論見らしい。
そして、2つ目。これはメイドに関係がある。初日の今日からメイドに男どもの夜とぎをさせ、死への恐怖に対して鈍感にし、操りやすくするためらしい。
まあ、他の連中がどうなろうと興味は無い。しかし、これからどうしたものかな。
「むぐ、う〜〜〜〜〜」
「なんだ、何か話したいことでもあるのか?」
コクコク
「じゃあ話してみろ」
「私の条件をのんでくれるのなら、私はあなたに協力しても構いません」
なに言ってんだ、この女。
「よく分からないが、条件とは具体的には何なんだ?」
「一度離してください」
「ああ、どうせ逃げられないからいいぞ」
ソフィアはベッドの上で居住まいを正し、俺に向き合った。
「その、私の条件というのは、えっと、わ、私の恋人になって下さい!」
治まっていたはずの頭痛がぶり返してきた気がした。
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