第4話 彼と彼女

 これは『愛情の試し行為』と呼ぶらしい。すっきりと黒髪を短く整えた少女は高鳴る胸をぎゅうっと抑えつつ、大太刀を堂々と足下に突き、両手をその柄の上で重ねて仁王立ちしている恋人を、物陰から熱烈な視線で見ている。嬉しい。私を待ってくれているのが、本当に嬉しい。そこで待たせているのが、申し訳無いし失礼なのはよく分かっている。でも、もう少しだけ私を待ってくれている姿を見させてちょうだい。ごめんなさい、貴方の想いはさらさら疑ってなんていないのに、時々こうして貴方の想いを試したくてたまらなくなるの。ああ、万が一にもこんな姿を父上や母上、友達に見られたらどうしましょ、愛情を試すなんて酷い女だ、最低だと軽蔑されるわ。それなのに私は、貴方がそこでじっと私を待ってくれているのが本当に嬉しいのよ。だから、もう少しだけ。

「……」

恋人が気付いた。少女が隠れている物陰までやって来て、コツンと少女の頭を軽く小突く。

「ごめんなさい」と少女は満面の笑みで謝る。それから少し恥ずかしそうに、「でもね、凄く嬉しかったの」

今度は頭を軽く撫でられた。少女は顔を真っ赤な果実のように染める。

「ばか」ちょこんと恋人の服の裾をつまんで、もう一度言う。「ばか」

その手を取って、恋人は歩き出した。少女は心底から幸せそうに、恋人に話しかける。

「ねえ、知っている?火星統治政府MSGMTの使者がサイグウ様に接触を図ったの。向こうも必死なのよね、サイグウ様以外にこの星に『禍界化』を予知可能な御方がいらっしゃらないから。でも実際どうしてなのかしら、歴代のサイグウ様だけが『禍界化』を予知なさる事ができるなんて。サイグウ様ご自身にも理由は分からないのにお分かりになるのだそうよ。不思議よね。うんうん、大丈夫よ。使者は『ミスカトニック大学』の女教授だったの。ヒカルゲンジ様御自らが叩き出したわ。ええ、サイグウ様は大丈夫よ、私がサイグウ様のお言葉を取り次いだのだから。サイグウ様も不躾な侵入者に激怒されてね、私が怖くなるくらいに酷いお言葉を発したのよ。平気平気、女教授にも『結界』を破る事は出来なかったし。……え、私!?わ、私の方が心配って、ばか、ばか!」

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