第3話 お月さまのえんそく

   お月さまのさんぽ


 そらのてっぺんなんか、星がいっぱい広がっています。するどいツメのような三日月がのぼると、その星空が三日月を帽子のようにかざりました。

 きつねが丘のうえから眺めていると、星空を身にまとった三日月が降りてきました。

「いっしょにさんぽをしましょう」

 三日月は、そう言いました。きつねは、あわてて三日月の手を取って、いっしょに森の中を歩きました。

 森の中は、昨日の雨でキラキラしていました。きのこの小さなかさや、落ち葉などが、三日月から輝く光できらめいています。

「しまったな、お弁当を持ってくればよかったな」

 きつねは、ざんねんそうに言いました。

「この先には、お弁当を売ってるうさぎの店があるよ。お金はお星さまでいいそうだよ」

 三日月がそういうので、森の奥へときつねたちは、ぶらぶら歩いて行きました。いたずら小僧のリスのガリ造は、急に森が明るくなったので驚いて巣から飛び出してきました。

「ねえねえ、どこへ行くの?」

 ガリ造が聞くので、

「ちょっと散歩してるんだよ」

 きつねが答えます。

「お弁当も、買いに行くんだよ」

 三日月も、答えます。

「それじゃあ、ぼくもいっしょに行く!」

 ガリ造は、ちょろちょろと巣から出てきました。きつねは、ガリ造を背中に乗せて、

「この先のうさぎの店、知ってるかい」

 と言いました。

「知ってるよ」

 ガリ造は、きつねの肩にのぼりました。そこからだと、森の奥もよく見えます。

 三日月は、星空の帽子をちょっとかたむけて、うさぎの店のあるほうを示しました。

 三日月が言ったとおり、森の奥にはうさぎの弁当屋さんがありました。いろいろな弁当があります。

「ぼくは、ドングリのおにぎりと、カキの実のジュースがいいな」

 ガリ造が注文すると、きつねは、

「ぼくは、おいなりさんとぶどうのジュースがいいな」

 と注文しました。

 三日月は、ただ薄荷水を注文しただけでした。また太っちゃいやなんですって。

 星空の帽子から、金色のお金を取り出すと、お月さまときつねとガリ造は、また丘の上に戻っていきました。

 丘のうえから見える夜空は、星ひとつありません。だって、三日月がぜんぶ、帽子にしてしまったからです。でも、リスもきつねも気にしません。丘のうえからは、森も見えますし、遠くにかすむ人間の村も見えているからです。

「お母さんが見たら、きっと喜ぶだろうな」

 ガリ造は、ちょっとさびしそうに言いました。きつねも、ちょっとさびしくなりました。ふたりとも、お母さんと会えなくなってずいぶんになるからです。

 三日月は、薄荷水を少し口にふくませて、言いました。

「人間には、天国っていうところがあるけど、動物たちには月の世界がある。死んだらそこで、お母さんに会えるんだよ」

 お月さまの言葉に、きつねもリスも、目をうるませています。

「月の世界?」

「そうなんだ。そこには病気も、苦しみもない。食べ物もたっぷりあって、水もきれいだよ。きみたちのお母さんも、そこできみたちを待っている。だから悲しいことなんて、ないんだよ」

 ガリ造は、目をこすりました。ちょっと身を乗り出して、聞きました。

「ねえ、それはいつのこと? お母さんと会えるのは、いつのこと?」

「いつか、年を取ったあとに」

 三日月は、そう言って細い身体を二つに折りました。

 そして、ぽーん! とまるでオリンピックの選手のように跳び上がり、空へと戻っていきました。

 暗い夜空に星がちりばめられる頃、きつねとリスは別れました。

 三日月が、夜の爪痕のように光っていました。

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きつねとお月さま 田島絵里子 @hatoule

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