第7話

 今までの自分なら会話をしようとする努力すらせずに逃げてたに違いない。数少ない友達にも自分から話しかけることなんて数えるくらいしかないし、そんなだから連絡を取ることもなくなったんだろう。

 でも旅に出る勇気はあったんだ、何か一言くらい……


「こ、こんなところで何やってるの?」


「見て分からないかな? 冴えない男と話してるの」


 それ見たことか、話したところでこれだよ。

 少女はつまらなさそうな顔をして青い空を見上げた。


「そんな冴えない男とでも話せただけラッキーだけどねぇ」


 顔を下ろして目を合わせるとまた口をへの字に曲げて笑った。その笑顔を見ると一気に緊張がほぐれ、それと同時に緊張してたのがバカバカしくなった。人と出会えたことが奇跡みたいな物なのに話さなきゃ勿体無い。


「冴えない男で悪かったね」


 そう言って防波堤から降りて少女の前に立つと笑顔を崩さないまま、下から目を見上げてきた。


「怒った? まあいいよ、久々に話せる相手を見つけたんだからもっと話そう」


 少女はシートから腰を浮かせ町の方を振り返った。


「ここに居ても仕方ないから家に戻ろ、すぐそこだしさ」


「歩いていくのか?」


「ふふっ、乗せてってくれるの?」


「そちらさえ良ければね」


 ヘルメットを被り、山吹色の作業用手袋を履きバイクに跨った。シールド越しで目が合うとなぜか笑えてくる。


「ヘルメット被ってれば少しはいい男だね」


 少女はそのまま飛び乗るようにシートに跨った。

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