第6話

「ずいぶん音痴だね」


 サビが歌い終わった頃、後ろから気の抜けた声が聞こえた。驚き肩を震わせ飛び上がるように後ろを振り向いた。


「でもまあ今の私たちに合ってる曲だよね」


 バイクに腰をかけるセーラー服姿の人が見えた。パッツリと切った前髪に肩より少し上くらいまで伸びた黒髪が風になびいている。身長はバイクと比べるとかなり小柄で体型も細身だ。眠そうな目をしているが口はへの字に笑っている。

 初めて出会った「人」だった。きっとここで自分でなければ何か気の利いた事を言えるのだろう。しかし、自分は気の利いた事どころか、何も言えずにおどおどしていた。

 こんな時何を言うのが正解なのだろうか。何かいい事、何も思いつきやしない。でも何か言わなければ、せっかく人と出会えたんだ。


「え、あ、そうだね、うん」


 やっちまった、最も会話の広がらない返答だ。

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