〈アンブレイカブル〉 - 11P

 ぼくは思わず肩を震わせる。安藤さんは「やっぱり」と云った。

「どういうことだ。安藤さん、わかってたのか? いつ?」

「相変わらず詰めが甘いですねえ、タテワキくん」

 彼女は少し微笑んで、

「タテワキくんはだれに紹介してもらったんです?」と訊いた。

「黒御影先輩」

「わたしもです。当然、〈好う候〉の方々は先輩からどんな人を寄越したかは聞いてるわけでしょう。人が人を紹介するとき――そして紹介する側が立ち合わない状況でその人だとわかるような情報とは?」

「外見? ぼくだと――背が高い、とか」

 安藤さんは困ったように笑った。

「背が高くて日ごろからアバターを持っていない少年、だよ」

「いや待て。今日は持ってる。自殺させるためにわざわざ作ったんだ。パフォーマー化も済んでる」

「精算機の前で会ったってことは仮想通貨を持ってないってことでしょ」

 ぼくはなにも云えなかった。自分自身のあまりの間抜けっぷりに思わず耳が熱くなった。安藤さんの言葉は、まさにその通りだだった。


「わたしが思うに、タテワキくんは〈好う候〉にぴったりの人材ではないでしょうか。本人にその意思がなくても、パフォーマーなしで生活してるってことは実質、反アバター主義の人たちと変わらない生活を送ってるってこと。〈好う候〉にとっては居るだけで自分たちの主義主張に説得力が生まれる存在でしょう。けれど――」

 安藤さんは続けた。

「デザイナーではなかった」

 眞甲斐さんは「そうだ」と云った。


「タテワキくんも気づいてたと思うけど、今の今まで〈好う候〉の活動内容に触れていないでしょう。まず何気ない雑談をして、同調意識があるかないかを調べる。すんなり映画の話題に頷けば、ひとまずは協調性があるということ。これは会社の面接なんかでも使われてる手段ですね。疑問を浮かべたり指摘をしなければ、そのまま話を進める。へたに探りを入れてくるのはマイナス。だって組織はイエスマンが欲しいですからねえ。だからわたしたちの場合、ここまではオーケー。けれど普段からアバターを自殺させる方法なんかを熱心に研究してる集団としては、自分たちの会話について来れるような人材がほしい。特に現実的な提案ができる人材がね。タテワキくんのはアイデア止まりなんですよ。それで、ある程度の現実的な提案できるということは、つまり……」


 眞甲斐さんが指を鳴らした。

「素晴らしい。そう。答えは日ごろからその方法について考えてる計画者だ。素晴らしいよ。きみ。安藤さん。いやあ、黒御影さんから聞いてた通りの才女だ」

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