第20話 エルフ族族長(仮)

 ブレイブ王国 王城内地下監禁室


「早く言うんだ! この小汚い亜人が!!」


 鞭でその体をたたかれ苦しそうな顔を浮かべる亜人の男が一人

 両手両足は鉄でできた拘束器具でとらわれておりここから脱出することはできない

 長い耳をぴくぴく揺らし周囲の状況を確かめる

 仲間はまだ生きてる

 安心はできないがとりあえずはまだ大丈夫だ

 だがいつまでもつかはわからない


「なんだその目は、相変わらず殺したくなる目をしやがって」


 鎧を着た男はもう一発と鞭をふるおうとする


「んーストップ」


「誰だ! ってあなたでしたか、ここには何用で?」


 鎧の男を止めたのは細身の男だ

 鍛えられた腕をその細腕で軽々しく止めている

 男はそのまま亜人の男のほうを向き


「こいつにちょっと聞きたいことがあってね、時間いいかな?」


「はあ? 構いませんが簡単には聞けないと思いますよ」


「あはは大丈夫だよ、僕は特別だからね」


 まあ彼がそういうのなら大丈夫だろう


「では自分は外にいますので何かあった場合はお願いします」


「ああわかったよ」


 鎧の男は頭を下げ部屋から出て行った

 細身の男は笑いながら


「君に聞きたいことがあるんだけど、これを持ってきたのは誰かな?」



エルフ村


「はーい皆さんが静かになるまでに1時間かかりました、いいですかもう僕は切れる寸前です、いい加減にしてくださーい」


 エルフ族の村の中心の井戸付近に俺は簡易的な台を作りその場に立っていた

 周りには生存を確認したエルフ族、その数は26名、全員まだエルフ族にとっては若い者たちばかりだった


「族長はどうなったんだ!!」


「いいから答えろ!!!」


「そうだそうだ!!!」


(あーきれそうてかもう切れていいよね? さっきから話そうと思っても叫びだすしイライラしてきた)


 俺は拳を握りしめ我慢しようとするが隣の一人浮かない顔のアルネシアをみて俺は叫んだ


「お前らいい加減にしろ! 今の状況がわかってんのか? いいから黙って俺の話を聞けって言ってんだろ」


(あーもう知らん、とりつくろうことも面倒だ、こいつら少しは冷静になれよ全く、たかが年長者が全員いないだけだろうに、はあ)


 怒鳴り声にエルフ族の住人は少し黙る


「あーいいかまず残りの6人の安否だが確認できたのは一人アロウ・アルトシアただ一人だけだ、残りの5名の居場所はまだわかっていない」


「嘘だろ......」


 一人がつぶやいた

 その後他のエルフたちも続いて悲観の声を上げ始めた


(だめだこりゃ、こいつらナイーブになりすぎて話にならん)


「お前ら落ち着けよ」


 だがその中に一人だけ冷静なものがいた

 あいつは確か、カイン・アルトシアだな、アルネシアとは幼馴染君だよな


「今俺たちはただ悲観するよりも守ってくれた人たちに感謝すべきだ、連、君のおかげで僕たちは助かった、ありがとう」


 カインは頭を下げ礼をする


(こいつプライドが高いと思っていたが案外責任感が強いだけなのかもな)


「嫌構わん、種族の柱が不在なら皆不安なのもわかるからな」


「そうだな、僕たちは族長たちに頼りすぎていたようだ、今更気づいても遅いとは思うがな」


 カインは下を向いて肩を震わせた

 父が亡くなったと聞いたとき一番悲しかったのはこいつだろうしな


「アロウは命を懸けてまでお前たちを守ったんだ、胸を張れ」


 背中をたたきちゃんとしろと姿勢を治させる


「ああ、すまない、迷惑ばかりかけるな」


 いいさ、色男が泣いていたら嫉妬してしまうだけだからな


「さて皆静かになったな、いいかよく聞け、残りのものを探す当てが俺にはある」


 その場に驚きが流れ緊張が走る


「とりあえず紹介はしたかったが今日は無理だ、カインとアルネシア以外は村に戻ってくれ」


 俺は微かな希望を村の住民に感じさせたがそれ以上は何も伝えなかった

 皆聞きたいことはあっただろうが俺はさっさと行けと手で合図していたので聞くに聞けなかっただろう

 静かになった場所に俺とアルネシアそしてカインだけが取り残された


「なにかあるのか?」


「ああカイン、今からお前はエルフ族族長(仮)だ!!」


「は?」


 こうしてカインは今日をもってエルフ族族長(仮)になった




 大森林 黒龍の住処付近


「そういえばシアン、あの男と前に会ったことあると言っていたな」


 長く待たされていた老人族長ワンダフルは思い出したように聞いた


「連さんですか? ええそうですよ、人間族に捕まってしまったとき助けてもらったんです」


「詳しく聞きたいのだがいいか?」


 老人族長ワンダフルは聞いた

 シアンは笑顔で


「もちろんです! あれは忘れもしない二か月前、僕はいつも通りの散歩コースを歩いていたんです」



 大森林 犬耳族村付近


「いい天気、散歩日和だな~」


 いつも通りシアンは村を出てお決まりの散歩コースを歩き始めた

 犬耳族にとって散歩とは生きていくうえで睡眠と同等の価値があるほど重要な行為だ

 鼻歌交じりに木々をかき分け進むとそこには透き通るような水が流れる川が現れた

 シアンはいつもここで休憩をはさみ村に戻るのが日課だ


「ぷっはぁおいしいなぁ、少し休憩っと、ん? この匂いは?」


 シアンはふと生臭いにおいに鼻を動かした

 気づいたら足は勝手に臭いのする場所へと向かっていた

 何をしているのかと少しは思ったけど興味には勝てなかった


「あそこか」


 草をかき分け顔を出すとそこには


「っ!? あれは嘘だろ」


 亜人それも犬耳族の少女が手足に手枷がつけられて馬車に乗せられているところだった、その体からは血が流れだしておりこの匂いだと確信した

 少女は泣きだしておりそのたびに人間族から殴られていた


「やめろ!! その子を返せ」


 シアンは我慢ができなくなり飛び出してしまった


「あぁん? 犬耳族の大人か、おいどうするよ」


 頭が剥げている人間が隣にいた体中に傷が見える人間に聞いた


「あいつの体毛は売れる、気絶させて、つれていけばそれなりに売れるだろう」


「へへそうか、それはいいことを聞いた」


 ハゲの男は担いでいた犬耳族の少女を地面に落とし剣を抜いた


「多少いたいが我慢しろよ、なぁに悪いようにはしないさ」


 シアンは震える足を必死に動かして男に向かって走っていった


「うおおおおおおお」


「何だこいつは!?」


 男は一瞬びっくりして隙ができる

 チャンスだ

 拳を作り思いっきり殴り掛かった



「がはははは、いやぁあんたのおかげで今日は大儲けだ、ここに犬耳族の村があるなんてな、気づかなかったぜ」


 ハゲの男は大笑いで酒を飲む


「そうかよかったな」


 傷だらけの男はそれ以上は何も言わず酒を飲む

 後ろの馬車の檻には二人の犬耳族が転がっていた


「ごめん、お兄ちゃん助けようと思ったけど転んじゃってかっこ悪いね、ははは」


 シアンは最大のチャンスで石につまずき転んでしまった


「ううん、ありがとうお兄ちゃん」


「君の名前を聞いてもいいかな?」


 何をのんきだとは思うが少女の事をなんて呼べばいいのかわからなかった


「コロン」


 少し沈んだ声だが答えてくれた


「コロンちゃんか、大丈夫! 僕が何とかするから」


 胸をたたいて自信満々に言う

 がその手足には手枷足枷がついており自由には動けないだろう

 このままだとシアンたちは人間族の国のどこかに売られてしまう

 そうなれば最後二度と生活なんて送れないだろう

 どうしようかとシアンは檻から覗く星空を眺めていた

 流れ星が落ちる

 シアンは願う、せめて彼女だけは村に返してもらえますようにと

 瞬間稲妻が走った

 目の前に現れたのはボロボロのフードを羽織ったなにか

 その顔は見えなかった

 その者は焚火で酒を飲んでいた人間族の所へと向かった


「誰だお前」


 男たちは剣を抜いて警戒する、敵か、味方か見極めるように


「誰だお前はって聞いて......ん」


 ごとりと何かが落ちる音が聞こえた

 夜なのでよく見えないが何かが起こったのは間違いない


「クソっ、めんどくさい奴に出会った」


 傷だらけの男は剣を抜き口を動かす


「水の神よ、我力を欲す、魔力を糧に神秘の水を刃に」

『アクアスラッシュ』


 魔力で作られた水が刃状になりフードの何かに向かって放つ

 だが刃はその者に届くこともなく消え去った


「何が......」


 どさりとまた聞こえた

 しばらくすると周りから生臭い血の匂いが周囲に漂い始めた

 きっとあの者が人間族を殺したんだ

 フードの何かはシアンたちに近づいてきた

 次は僕たちかと緊張が走る


「あ、あの! 僕はいいです、この子だけは見逃してください!」


「......」


 フードの何かは答えなかった

 腕を上げた

 殺されると思いシアンはコロンを庇う

 ザンという音とともに金属音が鳴り響く


「え?」


 さっきまであった重さが消えたと思ったら檻の扉が壊されていた

 きれいに切断された切り口を見てぞっとしてしまうがシアンは少し考えなおした

 僕たちを助けてくれたと


「あ、ありがとうございます!! あのあなたの名前は? あれいない」


 いつの間にかフードの何かはいなくなっていた

 だけどシアンは深く頭を下げて感謝した

 それは夜が明けるまで続いた

 


「ふむ、だがそれではあの男という確証はなかろう」


「僕はフードから匂う臭いを忘れていません、連さんからも同じ匂いをしたから間違いありません!」


「なるほど、では感謝しておくとしよう」


 シアンの嗅覚は犬耳族でも随一だ、嘘は言っていないだろう


「はい!!」

 


 

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