第21話 幽霊っていると思いますか? 俺はいないと思います

「は? どうゆうことだ、俺がエルフ族族長?」


 困惑した顔でカインは連を見る


「そうだ、今族長を任せられるのはお前しかいない、頼む」


 連は頭を下げて頼んできたが一つ不安があった


「一つ聞いてもいいか?」


「ああ」


「本当に俺でいいのか? アルネシアだって十分素質はあるはずだ」


 ちらりと横を見ると下を向いて浮かない顔をしている

 父の行方が分からないと聞いてからずっとこの調子だ


「言っただろ、族長を任せられるのはカイン、お前だけだ」


 連は今のアルネシアには荷が重いと判断したのだろう

 となれば一番適任なのは俺ということになるのかもしれない

 それならやるしかない


「分かった引き受ける」


 今の状況を考慮しカインはその提案に頷いた


「悪いな、お前だって余裕はないはずなのに勝手なことを頼んで」


「そういうな、自信はないが精一杯やる、何をすればいいのか教えてくれ」


「ああそうだな、まずは――」


 説明を終え連は焦ったように


「ギールの家にアルネシアと待っていてくれ」


 頼んだぞと連は二人を置いて村の外へと向かった

 連が見えなくなった後


「これでいいですよね、ギールさん」

 


 4か月前 人間の襲撃を受けてから数日後


「ギールさん! どうゆうことなんですか!?」


 エルフ族の族長であるギール・アルフレッドはその大声に気付いて振り返った

 後ろには息を整えているまだ若いエルフ族がいた


「カインか、いきなりどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもありませんよ、聞きましたよ、この場所を捨てて人間族の提案した場所に移住するって、本当なんですか?」


 興奮した様子で聞いてきた

 ギールはああと頷き


「本当だ、僕は彼にエルフ族の運命を任せてみようと思う」


「な、なぜ、なぜですか? 意味が分かりません、あいつは人間族なんですよ、俺たちの国を奪い取って何食わぬ顔で住んでいるような種族なんですよ? おかしいでしょ、おかしいとは思わないんですか!」


「彼は確かに人間、僕たちと長い間戦争をしていた種族だ、けどね彼は他の人間とは違うところがある」


「違うところ......?」


「ああそうだ、今まで僕たちが捕まえ捕虜とした人間はそう多くはない、君はその人間たちが僕たちに見た瞬間どう行動すると思う?」


 ギールは楽しそうに聞いてきた

 カインは少し考えた後、絞り上げるように答えた


「そんなの、絶望するに決まっています、敵に捕まった者たちはもう同じ人間族だとは思われない、戻れたとしても拷問を受け尋問をかけられその後処刑されると聞きました、それならばと自ら舌を噛み自殺するものがほとんどだと......」


「そうだ、彼らは捕まったと気づいた瞬間あきらめるんだ、脱出を、考えることを、生きることさえね、でも彼は違った、確かにその目には戸惑いがあった、けれどすぐに状況を理解して僕に話しかけてきたんだ、『あなたは?』ってね、驚いたよ、まさか話しかけられるとは思っていなかったからね、僕は彼に拷問をしに行っていたんだけど彼と少し話してみようかなと思った、話せるのならその方が楽だからね」


 楽しそうに話すギールを見てカインはすこし苛立つ

 今の話のどこに笑える要素があったのだろうか全くわからない


「他の人間とは少し違うのは理解できました、だけどそれだけで信じられるわけない、ギールさんはなぜあの人間を信じることにした理由を教えてください、そうじゃないと俺は納得できません」


 そうだなと顎に手を当てて考えるギールを見てカインは緊張でつばを飲み込んだ


「面白そうだからかな」


 その答えに開いた口が塞がらない


「はい? 今なんて......面白そうだから? ふざけないでください! こっちは真剣に聞いているんです」


「カイン、彼はどうゆうわけか僕たちに対する偏見はないそれは君も知っているはずだ、さらに僕たちに協力的だ、黒龍に命令し僕たちを助けたんだ、彼がいなければこの前に被害はもっと多かっただろう、この意味がわかるかい? 人間なのに人間族に敵対したんだ、本当に彼は人間なのかな、ははは面白いよね」


 楽しそうなギールを見てカインはため息をついた

 この人は本当に興味を持った対象には一途だ

 その結果、ギールは魔法の知識や使える魔法も多い

 今回、ギールが興味を持ってしまったのは人間族だったということになる

 こうなればもう彼を説得できるわけがないのをカインはしっていた


「それにね、僕達だけじゃそろそろ限界なんだ、減り続ける仲間を見続けるぐらいなら、いっそのこと悪魔にでも魂を売ろうと思っただけさ、今回の悪魔は彼だったわけなんだけどね、はっはっはっは」


「分かりました、とりあえず、とりあえずですからね、僕はあの人間の事を信じることはまだできません、なのでこれからの行動を見て決めたいと思います、もし不審な動きの一つでも確認したら容赦なく殺しますがいいですよね?」


「ああそれで構わない、彼ならきっと僕たちができなかったことができる、だからカイン、君が彼の事を信じることができたなら協力してほしい、彼の作っていく道に僕がいるかはわからないからね」


 そう言ってギールはその場を去っていった


「俺はやるよ」


 約束を守るためにカインは心に決めた

 それがきっとエルフ族にとって救いになると信じて



「待たせました、準備ができたので村の中に案内したいと思います」


 犬耳族族長ワンダフルの乗っている犬車の外からそう伝えた


「それなら入るとしよう、此方も中に入るとよい」


 そういわれたので断るわけにはいかず俺は老人族長の乗る犬車に乗った

 中には椅子に座った老人族長、横には護衛A,B、それにシアンがいる

 シアンは嬉しそうに頭を下げてきたが無視した


「で、何かあったのか?」


 ワンダフルは聞いてきた

 軽く2時間近くは待たせたのだ、何かなかったわけがない

 これから少し頼みたいこともあるので少し説明しておく必要がある


「ええ、少し問題が発生しました」


「それは我々にとって害のあるものか?」


 害か、無いと言えば嘘になる隠す必要はないか


「村が何者かに襲撃され、一部の者の行方が分からなくなりました」


「その何者かはお主が関係していることはないだろうな」


 少し眼光が強くなってきた


(おおう、こわいこわい)


「ありません、関係しているのなら今のタイミングで仕掛けるのも変でしょう」


「ふむ、それもそうか、悪かったな、その襲撃者については見当がついているのか」


 ワンダフルは素直に非礼を詫びた

 最近はなんだかんだ話しやすくなってよかった

 噛みつくような視線もなくなったしなんなんだろうな

 調子が狂うぜ、もっと優しくてもいいんだからね


「大体はついています、ですがこの話は別の席で話したと思います」


「そうか、分かった、して聞きたいことがあったのだがいいか?」


「はい、いいですよ」


「お主の後ろにさっきからいるその者は誰だ?」


 と言われたので後ろを見るが誰もいない


(何言ってんだ、幽霊とかオカルト系の話か? 悪いが俺はそういう系の話は信じないことにしているんだ)


「はい? 何ですか急に後ろにって誰もいないじゃないですか」


「......そうか、悪かったな変なことを言って」


(まったくだ、何言ってんだか)


「いいんですよ、そうゆうこともありますって」


 ハハハと笑うがさっきからワンダフルはずっと俺の後ろばかり見ている


(なにどうゆうこと、みんな俺をだまそうとしているの?)


「シアン、俺の後ろに何かいるか?」


 怖くなったので一応聞いてみる


「え? ああ、そうですね、何もいないと思いますよ」


(だよな! よかったわ~まじで、爺さん残念だったな、仲間に裏切られて、笑ってやるよ、ハハハハハハハハ)


 安心した俺は外を見る、そこには家がちらほらと見えておりもう村の中に入ったことを確認した

 


 





 

 

 

 

 



 

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