第10話 勇者と愚者と龍とエロフ

「何があった?」


 目の前には先ほどまで黒龍の住まう大森林の調査を行っていた騎士団員の姿があった

 その鎧には数多くの傷跡が残っており何かあったということだろう


「はい、エルフ族の集落を見つけすぐに駆除を開始しました、しかしエルフ族を討伐中に黒龍が乱入し、どうすることもできずに撤退を余儀なくされました」


「なんだと! それは本当の事か!?」


 黒龍と聞き動揺してしまう

 黒龍がエルフ族を助けた? まさかそれはない

 龍は賢いが意思疎通ができない、つまり話すことができないのだ

 そんな相手に助けてくれと言っても助けてはもらえないだろう

 だからまたあの時のような悲劇を起こしてはならないのだ

 あの時のようなことは決して......

 数百年前に人間の冒険者がとある洞窟の調査に向かった

 彼らは4人パーティーだったが調査に言って以来誰一人帰ってこなかった

 不審に思ったギルドは洞窟内に何かいると考え調査を冒険者に依頼した

 それから数多くの冒険者がその洞窟の調査に入ったが誰一人帰ってこなかった

 手に負えないとギルドは国の騎士団長へ報告

 騎士団長は最初は気にもしなかったが騎士団員にも何人かいなくなっている者がいると聞いて、動かざるおえないと調査団を編成、調査に出た

 結果は騎士団長以外は誰一人帰ってこなかった

 生き延びた騎士団長の顔は火傷で見るに堪えない姿だったという

 騎士団長は怯える体を抱きしめて言った「あれは化け物だ」と

 国の最高戦力の彼が言うのだ、皆、一瞬にして気づいた

 あの洞窟には騎士団長すら勝てない生き物がいると

 だが放っておいてはいけないと国は動いた

 冒険者を募り、騎士団員も動員して化け物の討伐へと向かわせた

 一週間という長い時間をかけてようやくその化け物の正体が分かった。

 洞窟から出てきたのは黒い鱗に鋭い爪、翼をもった龍だった

 黒龍は洞窟から出るとすぐに自分の家の周りに人間がいることに気づいた

 何度も自分の家へと無断で入ってくる虫共に黒龍は怒っていた

 黒龍は炎を吹き人間を焼き尽くした、翼を広げ飛び虫共が多く住んでいるところに飛んでいき燃やし尽くした

 何百万人は死んだだろうかそれがこの国で起きた言い伝えに残る大災害の記録だ

 その後国は黒龍に人間を生贄として送り続けている

 決して怒らせないように  

 ではどうして黒龍はエルフを助けた?


「まさか......黒龍すら従えさせる魔法を完成させたというのか......」


 エルフ族の魔法技術はそこまで発展していたのか?

 もし龍すら使役する魔法が完成しているなら脅威だ

 すぐに何とかしてエルフ族を殲滅しなければならないだろう

 だがどうやって? 黒龍を相手にできる人物なんてこの国には――


「僕が行きましょうか? バロス様」


 考えている途中に話をかけられた

 後ろから歩いてくるのはまだ成人してないであろう若い少年だった

 髪は黒髪で体つきは年相応といったところか

 その背に見えるのは大きな剣 この国の宝剣だ


「勇者か......」


 彼は先月勇者召喚によりこの世界に来た人間だ

 確かに勇者の力があれば黒龍を討伐できるかもしれない

 だが簡単には頼めない

 彼の周りからはよくない噂が立ち始めていたおりもしかすると自分にまで火の粉が降りかかるかもしれない

 どうする......


「そんなに警戒しなくてもいいですよ」


 こちらの考えが分かっているように笑顔だった

 その笑みの後ろ側ではどんな感情が渦巻いているか

 しかし彼が一番の適任なのは否定できない

 自分の感情より人間族の命運のほうが大事だと割り切る


「では、勇者 戸ノ崎 玲音とのさき れおん、君に任せることにしよう」


「わかりました」


 そう言い残し彼は王宮から出て行った

 後悔はしている、だがそうはいっていられないのも事実

 黒龍を止めることのできる人間は彼しかいない


「後は祈るだけか......」

 


「それで何をすればいいのでしょうか?」


 俺は目の前にいる絶壁エルフに恐る恐る聞いた

 彼女は分は自分にあると感じたのか腕を組み言葉を吐いた

 彼女は今、被害者という圧倒的上の立場にある

 裁判でも行ったら俺の勝てる可能性など皆無だろう

 なので彼女の発言は絶対順守なのだ

 恐る恐るその返事を待つ


「簡単なことよ、私たちを守りなさい、それだけよ」


「守るとは、誰からでしょうか?」


「私たちに敵意があるもの、そのすべてからよ」


「......期間は?」


「一生といいたいところだけどそれはやめておくわ、とりあえず私たちの状況が安定するまでかしらね」


「なるほど......」


 少しばかり考える

 絶壁エルフの提案は住むところがなくなったから地盤が安定するまでエルフ族を守れというもっともらしい提案だ

 だが一つ問題点がある

 俺単体ではエルフ族を守るなど到底無理な話であり、ファフニールの協力が必要不可欠なことだ

 エルフ達は俺がこいつを使役していると勘違いしているせいか、いつでも動かせると思っているようだ

 敵が来るたびにファフニールに助けを求めることは可能かどうかで言えば不可能だろう、こいつはもともと引きこもりがちだし相当な理由がなければ外に出ることはしないと思う

 なのでこの提案は俺の独断で受け入れられないものなのだ


「なあファフ、もし俺が助けてくれって言ったら助けてくれるか?」


「うむ」


「だよな、無理だよな......って今なんて言った?」


「いいといったのだ、連が助けを求めるのならば我が助力をしてやるとそういったのだ」


「まじか」


 俺はその言葉におもわず黙り込んでしまう

 どうやら俺は酷い勘違いをしていたようだ

 こいつはかなりのお人よしだ

 皆見た目で判断したらいけないよ!


「助かる」


 短く礼を言い俺は前を向く

 絶壁エルフは相変わらずの態度でこちらを見ている


「ではその提案受け入れさせていただきます、なのですが一つこちらの要求を一つ聞いてもらいます」


「いいなさい」


「エルフ族の集落の場所を洞窟付近へと移動させます、いいですよね」


「そんなの......いいわけないじゃない! だれが黒龍の近くで安心して暮らせると思うわけ?」


「そこはあなた方が譲るべき部分だと思います、そもそも洞窟の近くに移住すればそれだけ襲われる危険性はかなり減ると思いますが」


「......なら一つこちらも要求させてもらうわ」


「何でしょうか」


「あんた、私の奴隷になりなさい」


「へ?」


 彼女のその発言に俺の頭は真っ白になった

 その後の事はいまいち覚えていない

 

 





 

 

 

             



 

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