第9話 絶壁の最強ガードは意外ともろいもの

 敵は黒龍のおかげで撤退し、戦いは終わった

 だがその傷跡は思ったより大きかった


「くっ......」


 悔し気に歯噛みする

 また村が壊滅した

 また守れなかったものがいた

 また仲間が死んだ

 またまたまたまた......

 あと何回繰り返せば終わるのだろう


「種が滅びるまでか......」


 エルフは亜人は人間との戦争に負け住む場所を追われた

 その時点で戦争は終わったのだ

 だが人間どもは攻撃をやめなかった

 戦争によって人間の心の中には亜人は敵ということが刻まれたのだろう

 我々だってそうだ人間を見たら頭に血が上る、すぐにその体を切り裂きズタボロにしたい。

 だが我々にはもう反撃できるほどの戦力はない

 今村に住んでいるもの全員合わせても70名足らずだ

 おそらく他の所でひそかに隠れ暮らしている亜人も同じようなものだろう

 戦力差がありすぎるのだ

 そもそも人間は数が多い、その上、魔法によりその戦闘能力は高い

 我々エルフにも魔法が使えるものがいるがそれも少数、まず勝ち目がない

 それに人間には勇者召喚という魔法がある

 この魔法で召喚された勇者の戦う姿を見た自分としては恐怖の言葉しか出ない

 一人で世界を亡ぼせるほどの力を持った人間

 あれはこの世界に存在してはいけない存在だ、神にも匹敵する力をその身に宿しこの世界にやってこさせるなどどうあがいても勝てる気がしない

 神に勝てるのは同じ勇者か真の愚者エンドぐらいだろう 

 まあその点で言えば彼は何者だろうな......

 先月人間の国で再び勇者召喚が行われたとの報告を聞いたのでもしやと思ったが彼の体には紋様がなかった

 なので彼は勇者ではない

 なら彼はいったい?

 黒龍を従え我々亜人のために力を貸してくれた命の恩人

 そもそも龍とはこの世界に存在する生き物の頂点に立つ生物だ

 彼が使役してるのはこの世界の本当に頂点に立つ龍、あの勇者ですら苦戦するであろう存在を従えた彼に興味がわいた

 僕の魔法に看破というものがあるこの魔法は相手の戦闘能力をある程度把握できる。

 彼の事を調べたところ、彼には魔力が一切存在してなかった、彼は魔法で使役したと言っていたが嘘をついているんだろうと思う

 ではどうやってとは思うがおそらくスキルによるものだろうと結論に至る

 彼は魔法とスキルを勘違いしているのだろう

 それに彼はどことなく不思議な感じがする

 僕の姿を見ても落ち着いていた

 普通人間は亜人を見たら逃げるか殺しにかかるかのどっちかだ

 なのに彼は僕の姿を見ても驚くこともなく普通に話しかけてきた

 普通にだ

 そんなことあり得ると思うか? 僕は数百年生きてきたがそんな人間見た事がなかった。

 亜人に対し平等に接してくれる人間

 つい彼に力を貸してくれと頼んでしまった

 一瞬失敗したかと思ったがこれも彼の作戦だったんだろうな

 あの時の行動は演技だったわけか......

 全くしてやられたな

 僕は空を見て思う

 彼に任せてみるのも面白いかもしれない

 この状況を彼ならばなんとかしてくれるのではないか

 そう思ってしまう自分がいた



「連、待たせたな」


 意気揚々と空から声をかけてきたのは黒い鱗をまとった龍、ファフニールだ

 ドスンと重い音が地面からきこえその地に降り立った


「いやいや、ぴったりですよ」


「なんだ? その話し方にその仕草、気持ち悪いぞ」


「......」


「どうした?」


「い、いやなんでもない、忘れてくれ、どう話したらいいかわかんなくてな」


「そうか? 連がそう言うなら我は忘れることにしよう」


「助かるよ」


「うむ、それよりだ連、なぜ何も言わず外に出た?」


「う......」


 思わず口をつぐむ

 あなたとの生活が嫌で逃げ出しましたなんて口に出しても言えない

 今は従順でいなければいけないでしょう


「じ、実はだな、このエルフの集落が襲われると聞いていてもたってもいられなくてな、何も言わずに出て行ってしまったのは謝る、俺も書置きでも残しておけばと後悔しているところだ」


「ふむ、そうだったのか、疑って悪かったな連、我ろの暮らしに不満があったのではないかと思ったぞ」


「そ、そんなわけないじゃん、ほら! そろそろ遅くなるしもう帰ろうぜ! 俺たちだけの家にな!」


 無理やりその巨体を押し話を終わらせる

 そんな時だ


「ちょっと待ちなさいよ!」


 例のエルフ、俺をこんなところに連れてきて巻き込んだ、絶壁エルフが立っていた、それも仁王立ちで

 その足は震え表情はややひきつっている

 怖いのに我慢している姿は少々萌える


「なんですか?」


「何ですかじゃないわよ、何帰ろうとしてるわけ、あんた自分の立場が分かってるの?」


「エルフ族の窮地を助けた救世主とか?」


「違うわ、あんたは勝手に私たちの住処を燃やした罪人よ」


「......え?」


 絶壁エルフから言われた言葉があまりにも意味不明すぎて戸惑った

 俺はここに火を放った覚えはないしそもそもこっちはそちらに助力した立場だ、罪人なんて言われる筋合いはない


「あんたがその黒龍に命令したんでしょうが! 周りを見なさいよ! あたしたちこれからどこに住めばいいわけ!?」


 言われて周りを見ると確かにひどい

 ここに住めと言われても住みたいとは思わない、完全に焼け野原だ


「ちょ、ちょっと待ってね」


 俺は急いでファフニールを連れ少し離れた場所に移動した


「あれお前がやったわけ?」


 周りに聞こえないぐらいの小声で話す


「知らぬ、我はただ火を吐いただけ、それで周りが燃えたとしても我が気にすると思うか?」


「ですよね......はあ」


 今、俺は自分自身が疲れていること気づいた

 

 

 



  

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