俺の友達 1話 sid~イケメン顔の竜磨~


 俺の右側――といっても号車が違う――に座る男子はちょっと・・・・・・・・・・いやかなり変わった奴だ。

 高校2年になった今でこそ接し方にも慣れてきたが、1年の時は心底変な奴だと思った。そう、今の内容から分かる通り、1年の時も隣の奴と同じクラスで、しかも席が近かった。


 隣に座る男子――誠也セイヤ――はなぜか苗字を名乗らない。自己紹介のときも言わないし、まさかの名簿すら名前のみで登録されていた。

 当然誰だってそんな変人気になるから、入学当初の誠也の人気は凄まじかった。


 でも、それも長くは続かない。知っての通り、誠也の他人行儀な物言いは初対面からしてみれば壁を感じる。だから、次第と皆気にしなくなっていった。

 

ー―俺も、その中の1人だ。


『おい、なんでお前そんな変な喋り方してんの?』

『そうですね。ダメなんですか?』


 感情を灯さない瞳で言われた時、俺は何か分からないけど。まるでかもしれない。

 当時の誠也はそれくらいに不気味で、そして変な奴だった。



 俺と誠也の中が大きく変わった切っ掛けは、本当に些細なことで、多分アイツももう覚えていないと思う。


 簡単な話で、俺は異性・・・・・・主に同学年の女子からモテた。それは去年だって変わらない、いや去年の方が酷いくらいだった。

 今だって1週間に1回ほどは告白をしてもらえることはあるけど、昔は比べ物にもならなかった。


 2日、いや下手をすれば毎日といったレベルで放課後や昼休みに呼び出された。やれ体育館裏だったり、やれ屋上だったり、果ては教室の中で告白してくる女子も居た。

 俺がそんな女子達に抱いたのは―――嫌悪だった。


 こぞって俺を褒め称えて、そして好きだと言ってくる。何処がだ?何が好きなんだ?外面と表面じゃなくて、もっと深い、誠也と同じくらいに俺の事を知ってから褒めてほしい。


 カッコイイ?そんなの運だ。俺の力じゃないのにそれで褒められたら、この世界に努力という言葉は必要無い。


 誰にでも優しい?当然だ。俺だって嫌われるのは嫌だし、何よりもお礼を言われれば嬉しい。けど、それが当然のことだろう?


 頭が良い?俺よりも頭の良い奴はいるし、何よりもその理由で告白してくる意味が分からない。それに、そんな理由で告白されても俺の心にはまったく届かない。


 元から、俺は素晴らしく運と才能には恵まれていたと思う。けれどそれは、俺にとってただの〝呪い〟だ。変えられないのに、それで文句を言われて、告白されて、スカウトされて・・・・・・・・・ふざけるな。


 本当の俺を見る前に告白してくる女子達に、俺は心底絶望していた。だからこそ、かもしれない。自ら隔離し、隔離されている誠也に俺は惹かれた。

 そんな生き方を知らなかった俺は、誠也の生き方に憧れを持った。





――そんな頃だった。


 アイツが隔離出来ているのは全てじゃないと知ったのは。偶然過ぎる出来事だったが、俺は放課後に体育館の裏近くを通っていた。

 その時に聞こえたのは、複数の男の声だった。


『へへっ。調子乗ってんじゃねぇよ。さてと・・・・・・・』

『おいおい、早いんじゃねぇの?もっと愉しんでからにしようぜぇ?』

『俺にも回せよ?』

『わぁってるよ』


 明らかにの声。どんなに日本の技術が向上しても、必ず現れる負を持った声だった。対して、聞こえた声は1つのか細い声のみ。


「・・・・ぅっ!・・・・・・ぅっ・・・・・・・!」


 泣いているのか。すすり泣いた声が俺の耳を通り抜けて、頭の中で警報を鳴らした。いくら力があっても、才能があっても、それはやはり程度。俺がどれだけ暴れても、男数人を抑えるのは難しいだろう。


 そして結局、泣いているであろう彼女は目の前で人生を壊されていく。


――酷い頭痛がした。


 怖い。進まないと。怖い、危険だ。助けないと、困ってる。危ない、怖い。何のための力だ。俺が危ないことをする必要なんて無いだろう。今まで自堕落にしてきたツケだろう?でも、でも、でも、でも――――!


 結局俺は、与えられた力に自惚れたただの雑魚。大事な決断も、一歩も踏み出せない三流以下。





「すみません。学区内での虐め、またはそれに準ずる行為は禁止とされています。目撃、発見した場合の行動を重視するため、教師を呼んで来ますが、僕は優しいです。貴方達は、何をしているんですか?最終確認をしたいと思います」


 恐怖も、怒りも、悲しみも、葛藤の全てが吹き飛ぶ声だった。無機質で、感動の無いただの声。けれど、俺の耳の中に流れるように入ってきた。


「ああ?なんだテメェ?」

「あ、知ってるぜ。お前あれだろ?1年のぼっち」

「ぷっ、あははっはっ!それは滑稽だなぁ!」

「なになに?ヒーロー気取りだってかぁ?馬鹿だなぁ!?そういうのを無謀って言うんだよ!」


 一斉に集中砲火を浴びる声の主。俺がそっと物陰から見れば、そこにはアイツー―誠也――が佇んでいた。まるで感情を見せない瞳は、しかし確かな意志を以って男達を見据えている。

 この時になって、俺は男達が誰なのかを把握した。







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