第7話 解除

「ん……」

 気怠さは、ある。

 だが、かなり回復したと思う。

 かなり深く眠った気がする。

 いつもなら寝起きは口の水分が少なくて喉が渇くのだが、今日は妙に口の中に水分がある。

 ……ん? 寝ていた?

「起きたか?」

 穏やかな声のヴェルム。

 あれ?

 おかしい。

 何故、私はまだ生きている?

 何故、私は殺されていない?

 どうして?

「どうして……?」

 少し、責めるように目の前のヴェルムに問う。

「ああ……」

 少し気まずそうに、彼が口を開く。

「解毒剤がな……」

「解毒剤?」

 解毒剤、毒を中和する薬。

「あの後、万が一を考えて、彼らに解毒剤を作るよう指示していた。だから──」

「はあああああぁぁぁぁ!?」

 メイフィはキレた。

 目の前のヴェルムが上司だとか、そんなことはどうでもよくなった。

 解毒剤があるのなら先に言え。

 なんだ、さっきのあの深刻そうな態度は?

 私のあの覚悟は、一体何だったのか。

 私が、死ぬと思っていたから言った、あの言葉は──。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 真っ赤になったメイフィは、叫びながらヴェルムを揺った。

「金は貸してやる。今日は、食事して寝ろ。明日は休むな」

 休みたい。

 明日も明後日も、ずっと休みたい。

 この人に合わせる顔がない。

 ヴェルムは、テーブルに紙幣を置いていった。

「私はまだ、仕事がある」

 そう、言い残して。

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