第25話

 梨香:ねえ、ねえ、俊ちゃんと本当の恋人同士になったんだって?


 俊と付き合うことになったその夜、梨香からおめでとうのスタンプと、文章が送られてきた。

 愛実は、その文章を見て、改めて恋人ができたのか?! と不思議な気分になる。

 しかも、相手が……。

 考えただけで、顔が熱くなる。


 愛実:やっぱり、そうだよね。冗談かなって最初は思ったんだけど。からかわれたんじゃないのかな?


 もしかしたら、梨香なら俊の本当の気持ちを言ってくれるかもしれない。今頃、後悔してるかもしれないし。


 梨香:冗談なわけないじゃん。俊ちゃん浮かれまくってるよ。ちょっと気持ち悪いくらい。

 愛実:気持ち悪いって?

 梨香:一人で百面相してる。思いだし笑いしたり、緩みっぱなしの顔叩いて真面目な顔してみたり。なんかボーッとして、階段でつまずいたりしてるよ。


 愛実は、そんな俊を想像してクスリと笑った。


 梨香:俊ちゃんは本気だよ。愛実ちゃんは違うの?


 愛実は、うーん? と悩む。

 好きか嫌いか……と聞かれたら、好きの部類には入ると思うが、実際のところ、大好きかどうかと言われると、わからないとしか答えられない。

 とりあえず、正直な気持ちを送ってみる。


 愛実:一番ドキドキする人……かな? ただ、ドキドキし過ぎて身がもたないというか、あまり近寄らないで欲しい。あれは慣れないよ。

 梨香:彼女になったんだから、それは慣れなきゃ( 笑 )。

 愛実:俊君、破壊力ありすぎなんだよ!

 梨香:そうかな? 私は俊ちゃんにドキドキしたことないからわからないな。

 愛実:それは羨まし過ぎる! 私は健康被害で訴えたいくらいだよ。

 梨香:愛実ちゃんってやっぱり面白い! でもさ、そんなにドキドキするってことは、やっぱり好きってことだよね。

 愛実:かな?

 梨香:だよ! なんかいいな、ドキドキする恋愛してみたいなあ!


 こっちは心臓がもちませんけど。


 愛実はラインをしながら、少し唇を尖らせる。


 愛実:梨香ちゃんはどんな人がいいの?

 梨香:うーん。怖くない人……かな? 中性的な感じのホンワカした人がいいかも。なんか、男の子って怖くて。


 一瞬、愛実の頭の中に譲の顔が浮かんだ。

 確かに中性的だし、ホンワカした優しい感じだ。ただし、演技である可能性大だけど。


 愛実:なかなか難しいよね。

 梨香:だねぇ。お風呂入らなきゃだから、また明日ね。

 愛実:おやすみ~。


 愛実は、ラインを何度も見返しながら俊の様子を想像して、笑いがこみあげてくる。


 彼氏かあ……。

 心臓もつかなあ?


 もちろん、健康な女子高生だから、彼氏は欲しいし興味もある。でも、もっと普通の男の子と普通の恋愛をするんだと思っていた。まあ、俊の見た目さえ考えなければ、普通の同級生との恋愛になるのか?

 愛実は、イヤイヤと首を振る。

 俊の普通な面を捜そうと、俊のことを今さらだけど分析してみる。


 芸能人の親戚はいるし、本人一般人でもファンクラブがあったりするし、見た目はもちろん普通ではない。スタイルも極上だ。

 顔がいい人は頭が弱い印象があったが( 超偏見である )、俊は特待生がとれるくらい頭がいい。

 スポーツも、たぶん苦手な物はないみたいだ。野球選手やサッカー選手になれるほどでないにしろ、なんでもそつなくこなす。足も速い。

 音楽は……うまかった。声だってかなりイケメンボイスだし。


 ここまで考えて、普通の要素が無さすぎることに驚く。


 神だな。普通に考えると。


 爪の先だって、愛実が関われるとは思えない。

 ベッドに転がりながら、ありえなーい! と叫んでいると、またもやラインがなった。


 梨香がお風呂から出たのかな?


 そう思いながら起き上がり、ラインを開くと俊だった。


 俊:電話してもいい?


 既読がついたからには、返信しないといけない。愛実はドキドキしながら送信する。


 愛実:いいけど。


 既読がつく前にスマホがなる。

 あまりの着信の速さに、愛実はワタワタなりながらスマホにでた。

『はい? 』

『愛実?』


 なんか、耳元で名前を囁かれたようで、愛実の顔が火照ってくる。


『だよ。どうしたの? 』

『梨香とラインしてたでしょ? 』

『うん、そうだけど』


 俊が、電話の向こうでクスリと笑う。


『だと思った。だから、そっこう湯船ためて、梨香に風呂だって声かけたんだ。早く、愛実と話したかったからさ』

『急用? 』

『恋人同士は、用事がなくても電話するもんでしょ』

『そう……なの? 』

『そうなの』


 なんか、俊の口調が軟らかくて、声質が心地よい。

 それから、くだらない学校の話しや、バイトの話し、テレビの話し、たわいのない会話をしつつ、いつのまにか一時間以上がたっていた。


『やばいな、いつまでもしゃべってたいかも』

『もう十二時なの? 早いね。そろそろ寝ないとだ。』


 愛実はびっくりして時計を見る。俊から電話があったのが十時半。まだ三十分もたっていないと思っていたのに。


『えーッ?!うーん……、今日だけじゃないし、まあいいか。じゃあ、また明日だな。大好きだよ、愛実。おやすみ』


 俊の声が愛実の耳をくすぐり、甘いトーンに胸がギュッとなる。

『……うん、おやすみ』


 愛実は、スマホの着信を切り、TV電話じゃなくて良かったと、心底思った。

 顔が赤くなってても、たまに俊の声にボーッとしてしまってもばれないから。

 愛実は、ボスンッと枕に顔をうずめた。


 大好きかあ……。


 もちろん、生まれてから今まで、両親や同性の友達くらいにしか言われたことのない言葉だ。


 彼氏ができるっていいかも……。


 実際に俊を目の前にすると、心拍数が上がりすぎて心身ともに疲れてしまうのだが、電話だとリラックスして俊の声を堪能できる。

 心地よい高揚感、お酒は飲んだことはないけれど、なにか酔っ払ったいるような、そんなホワホワした感じがする。


 俊君の声、大好きだな。


 愛実は、俊の中に一つ大好きを見つけた。



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