第26ー2詠唱(後編) 影武者(リリィ)の誕生~暁の悪夢の始まりと蒼い天使の誕生~

「リコリス様!あーちゃん!」


 ベティの慌てた声に二人は急いで駆けつける。


「魔導機動隊員が5人こっちに向かって来てる、変身した姿だったからアルムやチェヨンだけじゃなくて私たちも排除するんだと思う」

「ズタさんは?」

「すみませんリコリス様、守り切れませんでした」

「そう、なんだ」

「とりあえず今起きていることの対策を考えましょう」

「相手が5人なら私とベティと支援のチェヨンで対処しよう、アルムはリコリス様と地下室へ」

「私も戦う!」

「嬉しいですがお逃げ下さい」

「なんで!」


 キッと睨むリコリスにアシュリーは目線を合わせる。


「普通の女の子でいてほしいからです、リコリス様、ご自分を大切にしてください」

「仲間を守れないなんて王女失格だよ」


 歯を食いしばり拳を握る


「そのお気持ちだけで十分です、ですが私たちもそんなに弱くはありません信じてください」

「あの時みたいにならない?」

「はい、絶対この小さな城を守ってみせます」


 「お願いねアルム」と言い残し、ベティと一緒に変身すると魔武を構えてじわじわと近づいてく強い魔力を待つ


「ゴシュジンサマ、イコウ」


 心配そうに三人の背中を身ながらもアルムに引っ張られながら地下室へ向かった。


 地下室は特殊な石で作られていて、ちょっとやそっとの魔法じゃ崩れないためよく避難場所に使われていた。


「やっぱり私たちも行こう!」


 部屋を出ようとするリコリスの手をアルムは慌てて掴む


「ダメ、ミンナ、シンジヨウ」

「一人は支援で二人で戦うなんて無茶だよ!」


 始まったのか地響きと共に地下室の天井からホコリがパラパラと落ちる。


「アシュリー......」


 ドアに両手をつき聞こえてくる悲鳴と爆発音に不安と魔法の使えない自分への怒りで心がいっぱいになりホロリと涙が落ちる。


「私に力さえあれば、あの剣と盾で戦えるのに……私があの時避けてれさえいれば」


 唇を噛みしめて泣き崩れるリコリスに、アルムは我慢できなくなり立ち上がる。


「ワタシ、ゴシュジンサマノ、ケンニナル、ワタシ、ミョウジュ、ツカウ」


 アルムの命術は、相手に寄生し体を操る能力で使い方によっては自分の魔力と特殊能力を貸すことも可能だった。


「駄目だよ!アルムまでいなくなったら嫌だ!」

「イマノゴシュジンサマ、アイテニハ、カテナイ」

「でもダメ!自分の力で何とかしt」

「ナンニモデキナイ!ワタシ、ミエナクナルダケ、ズットソバニイル」


 リコリスの頭に優しくポンと手を乗せると「ダイジョウブ、シンジテ」と言う


「本当にずっとそばにいてくれる?」

「イル、ヨンデクレレバ、チカラカス」

「弱い私でゴメン......」

「キニシナイデ、ゴシュジンサマ、チカラニナレテウレシイ」


 ニコリと微笑むと唇をリコリスの唇と重ねた。その瞬間体が黒い炎に包まれて一瞬で灰に変わる。リコリスも体内に温かい何かが入ってくるのを感じた。


「アルムそこに居るの?」

「イル、イツデモイイ」

「じゃあ全力で行くよ」

 すると赤い瞳が黄色に変わり背中からは大きな黒い翼が生える。


 地下室を出て両腕を横に広げ、「来い!」と叫ぶと、ズタさんたちが作った剣と盾がリコリスの血に反応して飛んでくる。


「待ってて、皆んな」


 急いでアシュリーの方に行くと教会の屋根に大きな穴が開き、辺りは炎と黒煙で包まれていた。


「チェヨン!アシュリー!」


 チェヨンは陣痛で苦しそうにしているアシュリーに回復魔法をかけて、ベティはそんな二人を守るよに前に立ち戦っている。


「ベティ!あとは私に任せてアシュリーを病院へ」

「しかs......」


 リコリスから感じるアムルの強い魔力に言葉が途切れる。


「早く!」

「わ、分かりましたリコリス様!」


 アシュリーを抱えて屋根に空いた大穴から出ると機動隊員達も追おうとするが、翼を羽ばたかせ空を飛ぶリコリスに箒を切られて地面に落とされる。


「どこを見てるんだ?敵は私だぞ」


 体が覚えているのか自然と魔法をヒラリとかわし、相手の懐(ふところ)に入り込むと腹に冷たく光る刃を突き刺して薙ぎ払っていった。


 残りの一人は腰を抜かし生まれたばかりの子馬の様に震える。


「わ、わわ私たちはレノラに命令されたんだ!」


 残りの一人は腰を抜かし生まれたての子鹿の様に震える。


「そいつは何処にいる」

「魔道機動隊の駐屯地にいる、こっこここココから近い!お願いだから私は見逃してくれ、こんな事はやりたくなかったんだ」

「そうか、死ね」


 握っている剣を振り上げた瞬間だった


「ディ・ジオプラム!」


 呪い魔法を唱え女は自分の体を爆発させた。


 リコリスは女の体内から臓器とともに飛び出て来た大量の青い炎を盾で防ごうとしたが、限界を来ていたのか盾は魔法を吸収せずに割れてリコリスは炎に飲み込まれた。


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛‼︎」


 苦しみながらも消そうと床の上で転がるが、へばりつくよう纏わりつく紫色の炎はゴウゴウと音を立てながら消える気配を見せなかった。


「ディオホールング!」



 チェヨンの上位回復魔法でやっと炎は消えたがリコリスは大火傷を覆(おお)い皮膚はただれ髪が全て無くなっていた。


 その後チェヨンはリコリスを運びアシュリー達のいる病院へ行きベティと治療をしたのだった。


♢ ◆ ♢ ◆ ♢ ◆


「おめでとうございます!女の子ですよ」


 ナースは嬉しそうに生まれた赤ん坊をアシュリーに見せる。


 アシュリーは生まれた赤ん坊を抱くがリコリスの事が心配で決して嬉しそうな顔をしなかった。


「かわいい......もっと別の形で会えたらな」


 青い目をした赤ん坊は膝から先が無かったが、それでもアシュリーは嬉しくかった。

 

「あーちゃん!」


 走って部屋に入るベティに「リコリス様は大丈夫?」と聞くとコクリと頷く


「火傷でただれた皮膚は治って、焼けて無くなった髪もなんとか生えたよ」

「そう、ならよかった」


 暗い顔をするアシュリーに話を変えるように「女の子?可愛いね、あーちゃんと同じで強い魔力を感じる」と話す。


「できれば魔力のない普通の女の子が良かったな」

「何故?」

「魔力は人を狂わす、私は数千年間生きてそれが分かった」

「これからどうする?」


 真面目な表情で見つめる。


「答えは決まってる、魔法が皆んなを狂わすなら、私は魔法を無くすだけ、

その為に今は魔道機動隊全員の記憶を消し私達は魔道機動隊の研究員として今度は働こう、設備があった方が何かしら便利だし」

「わかった、そういえばその子の名前決まってるの?」

「リリィ、リリィ・バレッタだよ」

「リリィってあーちゃんの昔の名前じゃ......」


 アシュリーという名前は、オストラン城でメイドを勤め始めた時にエルシリアから貰った名前だった。


「この子は自分で人生を歩んで欲しいから、強い子でいて欲しいから」

「そうか、いいんじゃない」


「リリィ、リコリス様を守ってあげてね」


 アシュリーはリリィに話しかけると、伝わったのか「あう〜」と返事が帰ってきた。


 この出来事が後(のち)のD Walker計画(ゲート事件)の引金になったのだった。

 

 20年後ゲートが完成し魔法のない世界を見つけてそこで結衣誕生

 

 更に10年後にワルキューレ計画へ進むのだった。

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