第14話

 僕とレイナが付き合い始めた翌日の朝。何故かシェインが僕たちの教室にいた。

 彼女はレイナの隣の席から椅子を持ってきてレイナの机に突っ伏していた。何だか不機嫌そうに見える。


「おはよう。えっと……どうしたの?」

「あら、おはようエクス。いや……それが、よく分からなくて」


 シェインは僕が来たことになど目もくれず、ずっと不機嫌そうにぶつぶつと何かを呟いている。レイナの一つ後ろにある自分の席にカバンを下ろしながら、僕は苦笑いを浮かべた。

 そうして彼女の周りを見ているうちに、あることに気が付いた。まだ生徒はあまり来ていない時間だけど、シェインがここに居るなら同様に登校していてもいいはずのある生徒がいない違和感だ。


「そういえば、タオはまだ来てないの?」


 僕が何気なく尋ねるとシェインは一層不機嫌になって僕を睨んだ。


「知りませんよ、そんな人。なんでシェインに聞くんですか」

「ええ……、だってシェインとタオは兄妹じゃ――」

「兄妹じゃないですよ。いや、兄妹ですけど……。でも、本当の兄妹じゃありません。本当の兄妹なんかじゃ――」


 少し怒ったように。少し寂しそうに。少し思い詰めたように。いつもの飄々とした態度からは想像もつかないようなその姿に、僕は言葉を失った。何て声をかけていいのか分からなかった。


「つまり、タオと喧嘩したってことよ。何が原因かは分からないけどね」

「なるほど……。タオと仲直りしなくていいの?」


 いつもの仲の良い二人の様子を思い出し、やっぱり彼らには普段通りでいて欲しいと思って尋ねる。シェインは少しだけ考えるようにすると、一つため息を吐いて呟いた。


「……シェインがここにいるとイチャつけませんもんね。付き合い始めのお二人を邪魔して悪かったですねー」

「いや、そんなことは言ってないんだけど!」

「そんな、い、イチャつくとか……っ、そんなのないからっ!」

「あーはいはい、お熱いことで何よりですぅー。喧嘩してタオ兄と気まずいシェインにはお構いなく、どうぞどんどんイチャついちゃってくださーい」


 投げやりな彼女の言葉にますます二人の仲が心配になり、僕とレイナは顔を見合わせる。いったい何が原因だったのか見当もつかないけれど、シェインが寂しそうなのは分かる、と。

 かくして、二人を仲直りさせるための作戦が始動したのだった。

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グリム学園のお姫様 雨宮羽依 @Yuna0807

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