第6話

『ただいまのレース、一着はレイナ・フィーマン選手です!』


 決勝係が本部テントへと合図を送ったのを見て、実況が高らかに宣言する。

 つまり、レイナの引いたお題は僕で正しかったのだ。


『さあ、レイナ選手のお題はなんだったのでしょう。まさか『好きな人』だとか『彼氏』だったらこの学園の男子が何人発狂するか分かりません!』

「……レイナ。結局お題は何だったの?」


 『好きな人』。いやいやそんなことはないと否定しながらもわずかな期待は消え去らない。もしそうだったら。もしそうだったら僕は――…。

 レイナが握っていた紙のしわを伸ばしてこっちに向ける。


「私のお題はコレ。エクスがぴったりだと思ったから」


 そこに書かれていたのは、短い四文字の言葉。

 『友達』だ。


「『友達』……」

「ええ、そうよ。私には友達って少ないし、タオやシェインは『友達』以前に『先輩』『後輩』だし」


 無邪気な笑顔でレイナはそう続ける。僕も彼女に合わせ、必死で作った笑顔を張り付けた。

 『友達』……『友達』……と、その言葉が頭の中をぐるぐると回る。友達っていうのはつまり、少なくとも今は恋愛対象として意識されているわけではないということだ。

 どうしても上手く笑えない。シンデレラが王子様と結婚すると教えてくれた時は、僕の運命の書が異質だと気付かされた時は、どんな風に笑っていたっけ。

 僕の様子がおかしいことには気付かないレイナが少し照れたように言う。


「タオやシェインもそれなりに仲は良いけど、あの二人には『二人の世界』みたいなところがあるし、ルートヴィッヒは論外だしね。……ていうか本当は、エクスが一番仲が良いと思ってるから、エクスを選んだの」

「一番、仲が良い……?」


 聞き返すとレイナははにかんで笑う。こっちの様子を伺うように、青い瞳が僕を見上げる。


「……うん、僕も。僕もレイナのことは、一番仲が良い『友達』だと思ってるよ」


 レイナが僕を『一番仲が良い』と。澄んだ瞳が照れたように見つめて。たったそれだけ、それだけのことなのに、今はそれだけでも良いかな、なんて思ってしまう。やっぱり僕は、レイナのことが好きなんだ。

 今度は上手く笑えてるはず。

 ぎゅっと握りこぶしを作った右手には、まだレイナの小さくて柔らかい手の感触が残っていた。

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